| 見毛相犬2 第三十三章 |
| 「ラズナー少佐……」 突きつけられる銃を見て、ハボックが信じられないと言うように目を見開く。互いに身動きしないまま向き合っていれば、ロイの声が響いた。 「銃を捨てろっ、ラズナー」 その声にハボックは顔を動かさずにロイを見る。両手で構えた銃を前に突き出すようにしてラズナーに標準をあわせるロイの姿を視界の端に捉えて、ハボックは言った。 「銃をおろしてください、マスタング少佐」 「ッ?!ですがっ」 ハボックの言葉にロイは驚いて目を瞠る。ロイが構えを解けばすぐにもラズナーが撃つかもしれない危険を考えれば、ハボックの言葉はナンセンス以外のなにものでもなかった。 「撃ちたければ撃てばいい、マスタング」 その時聞こえた低い声にロイはハッとしてラズナーを見る。ラズナーはハボックを見つめ、銃を持った右手を真っ直ぐに突きつけたまま言った。 「銃で撃たれたぐらいでは私の狙いは外れんぞ。どうしても止めたければ得意の焔で燃やすんだな」 「ッ!!」 ラズナーの言葉にロイは目を見開く。クシャリと顔を歪めたロイが、それでも銃を下ろせずにいればハボックが言った。 「銃をおろして、少佐。大丈夫っスから」 ハボックのその言葉が銃を掴むロイの手を優しく包み込み、そっと下ろさせる。ロイは握り締めた銃を両手で下げたまま二人の姿を食い入るように見つめた。 「大丈夫、ね。お前はいつだって自信満々だな」 「そうじゃない、オレはいつだってこうやって自信のない自分を鼓舞してるだけっス」 「よく言う」 ハボックが言うのを聞いて、ラズナーはクッと喉奥で笑う。次の瞬間、ガウンッと雨の音を銃声が劈いて、ハボックの金髪が千切れて舞った。 「大佐っ」 ハボックの頭のすぐ側を過ぎた弾丸にロイが顔色をなくす。ブルブルと震える手で握り締めた銃を意志の力で地面に向けたまま、黒曜石の瞳でラズナーを睨みつけた。 「やめろ、ラズナー、どうしてこんな事をする?!」 「どうして?」 ラズナーはハボックに狙いを定めたまま薄く笑う。 「嫌いだからだ。他にどんな理由がある?お前だってコイツが嫌いだろう?」 そう言われてロイが目を見開く。ハボックを嫌いかどうかなど、正直今まで考えたことはなく、ロイはラズナーからハボックに視線を移して、空手で武器を持った相手と対峙しているにも関わらず恐怖心の欠片も覗かせない上官を見つめた。 「確かに気に入らないところは多々ありますがね。いつまでもサインが嫌だと駄々をこねたり、窓の格子を壊してまで逃げ出してサボったり、ふざけた物言いもやる気のない態度もぶん殴って燃やしてやりたいと思ったことは一度や二度じゃない」 「えっ?そうなんスかっ?」 気に入らないところを次々と並べ立てられてハボックは情けなく眉を下げる。 「気に入らないところは山ほどありますよ、それでも、私はこの人が嫌いじゃない」 「ホントっスか?!」 だが、続く言葉にハボックがパアッと顔を輝かせればロイが続けた。 「それに、折角の能力を最大限生かせるよう、私好みに躾直してやろうと思ってるんでね」 ロイの言葉にハボックが顔を顰め、ラズナーがクククと笑う。ラズナーは楽しそうにと笑いながら言った。 「面白い男だ、貴官は」 「ラズナー」 ひとしきり笑ったラズナーは、だがやがてその顔から笑みを消し去った。 「お喋りはもうおしまいだ」 「ラズ───……ッ」 ハッとしたロイがラズナーに制止の声を上げるより早くラズナーの銃が火を噴く。だが、ラズナーが引き金を引くよりも更に早く動いたのはハボックだった。 己に向かって飛んでくる銃弾とすれ違うように真っ直ぐラズナーに向かってハボックは飛び出す。ハボックの動きに目を見開いたラズナーに二発目を撃たせず、ハボックは下から振り上げた手でグリップの底を思い切り叩き上げた。 「ッ?!」 ラズナーの手から飛んだ銃が雨の中放物線を描いて二人から少し離れた地面に落ちる。思わず銃の行方を目で追ってしまったラズナーに、ハボックはそのままの勢いで殴りかかった。 「ぐっ!!」 咄嗟に腕でガードしたものの、防ぎきれずにラズナーが背後に倒れ込む。その体を追うように手を伸ばしてきたハボックに、ラズナーは地面の泥を掴んで投げつけた。 「うわッ」 ハボックが腕で目を庇った隙にラズナーは転がるようにして距離をとって立ち上がる。立ち上がった直後、ラズナーは飛びつくようにハボックに殴りかかった。降りしきる雨の中、ハボックとラズナーは無言のまま殴りあう。時にヒットし時にかわして雨の滴をまき散らすようにして殴りあう二人を、ロイは息を飲んで見つめた。 そうやって一体どれだけ殴りあっていたのだろう。流石にハアハアと息を弾ませてハボックとラズナーは対峙する。ぐっしょりと濡れそぼって泥に塗れてじっとかつての上官を見つめていたハボックが先に口を開いた。 「もう、終わりにしましょう、ラズナー少佐」 「そうだな、終わりにしよう」 ハボックの言葉にラズナーはニヤリと笑う。ゆっくりと手を背後に回し、小さな塊を掴みとった。 「手榴弾……?」 少し離れたところから雨の中を透かし見るようにしたロイが呟く。ハボックが泣きそうに顔を歪めるのを見て、ラズナーは楽しそうに笑った。 「どうする?ハボック」 実に楽しそうにラズナーがハボックに尋ねる。ハボックはグッと歯を噛み締めてラズナーに手を差し出した。 「そんなもん、捨てて下さい」 「終わりにするんだろう?一緒に死ぬか?それとも逃げるか?」 「そう言う意味で終わりにするんじゃないっス!!ラズナー少佐っ、お願いっスからッ」 必死の形相で叫んでハボックは手を差し出したまま一歩踏み出す。そんなハボックを笑みを浮かべたまま見つめていたラズナーは、手榴弾を握った手をゆっくりと持ち上げる。そして。 ラズナーはピンを歯で咥えるとグイと引き抜いた。 |
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