| 見毛相犬 第五章 |
| 「少佐、あれ」 ホークアイとブレダ、それにブレダの小隊を引き連れて銀行強盗が立てこもっているという現場に駆けつけたロイは、ブレダが指さす先を見て眉を顰める。ガラスが飛び散り、微かに煙が残るその場所では、憲兵隊が犯人を拘束し、人質を助け出していた。 「どう言うことだ?」 「事件は解決したんでしょうか」 首を傾げたロイはブレダと小隊に待つように告げると、ホークアイと一緒に憲兵に歩み寄る。ロイの姿を認めた憲兵隊の隊長が迎えるように近づいてくるのにロイは尋ねた。 「どうなっている?犯人はどうした」 「はい、先ほど裏口から入った軍人が犯人を拘束、人質も無事解放されましたっ」 敬礼してそう答える隊長にロイとホークアイは顔を見合わせる。ロイは隊長の顔を見て言った。 「軍人と言ったな、名は?何人来た?」 そう聞かれて隊長が答える。 「特に名前は名乗られませんでした。お一人で来られて図面を見ながら我々に中の状況を確認すると、裏にある行員用の入口から中に入っていかれました」 「一人?それじゃあ憲兵が何人かサポートについたのか?」 「いえ、誰も。ただ自分が入ってから十分後に発煙筒を投げ入れてくれと指示があったので」 自分達がしたのはそれだけだと言う隊長にロイは目を見開く。同じように驚きの表情を浮かべるホークアイと、二人の顔を見比べて隊長が不思議そうに聞いた。 「あの……ご存じの方ではないんでしょうか」 先発隊の一人だろうかと思っていた隊長は、何か拙い事をしてしまったかと不安げに二人を見る。ロイは手を振って問題ないという事を示すと、更にいくつか隊長に尋ねた。そうして後のことを憲兵隊に任せるとブレダ達が待っている場所へと向かう。 「どう言うことでしょう」 「判らん」 眉を寄せて言うホークアイに短く答えて、ロイはブレダ達と共に司令部へと戻った。 「お帰りなさい、少佐」 「お疲れさまです、とんだ無駄足でしたな」 司令室に戻ればフュリーとファルマンが声をかけてくる。一体どういうことなんだと興味津々で見つめてくる二人に、だがロイは答えるべき言葉がない。ドサリと椅子に腰を下ろせばホークアイが言った。 「一体誰なんでしょう」 「名乗ったりはしなかったんですか?」 フュリーがホークアイの言葉を受けて言えばロイが首を振る。 「名乗らなかったそうだ。上着も脱いでTシャツ姿だったから階級も判らない。フラッと現れて一人で犯人を伸して去っていったらしい」 「うわー、なんか格好いいですね」 ロイの説明にフュリーがそう言うのを聞いて、黒曜石の瞳がフュリーを睨む。ヤバいと首を竦めるフュリーにそれ以上は言わず、ロイは椅子の背に体を預けた。 「判っているのは金髪の男だったと言うことだけだ」 ロイの言葉にファルマンが首を傾げて言う。 「金髪?うちの大佐どのも金髪ですな」 そう言った途端、皆の目が執務室の扉へと向く。誰かが「まさかね…」と呟くのを耳にしながらロイが言った。 「ハボック大佐は?」 「まだ戻られてませんけど」 フュリーの答えにロイが時計を見る。 「一体どれだけほっつき歩けば気が済むんだッ」 ロイが吐き捨てるようにそう言った時。 ガチャリと執務室の扉が開く。中から顔を出したハボックは驚いたように自分を見つめる部下達を見回して、困ったように頭を掻いた。 「えっと……どうかしたっスか?」 そうハボックが言うのにロイがフュリーに視線を移せば、小柄な曹長はぶんぶんと首を振った。 「でもっ、僕、ずっとここにいましたけど絶対通らなかったですよッ」 ねぇ、とファルマンを見ればファルマンも頷く。 「確かに誰も通りませんでした」 電話の応対をしたり、資料を探したりしていたとしても、ハボックが通ればいくらなんでも気がつく筈だ。だが二人して司令室を通らなかったと主張するのを聞いて、ロイは立ち上がるとハボックに尋ねた。 「いつお戻りになられたんです?大佐」 「え?ええと、いつだったかな」 時計見てないから判んない、と言ってへらりと笑うハボックをロイは胡散臭そうに見る。 「ファルマン准尉もフュリー曹長もずっとここにいたのに大佐が戻られた事に気づかなかったと言ってますが」 どう言うことだというようにそう口にすれば、ハボックが答えた。 「ああ、ええっと、その……窓から、ちょっと」 「窓って、ここ、三階ですよッ?」 驚いて思わず大声を上げるフュリーにハボックが「えへへ」と笑う。ホークアイやファルマンも驚きに目を見開く中、ロイは眉を顰めると言った。 「先ほど銀行に爆弾を持った犯人が立てこもる事件が発生しました」 そう言えばハボックが僅かに目を瞠る。その空色の瞳を見つめたままロイは続けた。 「憲兵隊から応援要請が来たので我々が言ってみると、もう事件は解決された後でした。フラリと現れた金髪の軍人が一人で中に入り、犯人を叩きのめして人質を助け出したそうです」 「へぇ」 ロイの言葉にハボックが感心したように頷く。ロイはじっとハボックを見つめたまま尋ねた。 「その時間、大佐はどちらにおられましたか?」 そう聞かれてハボックは困ったように首を傾げる。 「どちらに、って言われても時計見てなかったっスからねぇ。木を登ってるところだったかも」 眉を寄せてハボックはそう言うと壁の時計を見上げた。 「あ、もうすぐ会議っスよね。今度はちゃんと出ますから」 行かなくっちゃと、そそくさと司令室を出ていこうとするハボックをロイが呼び止める。振り向いたハボックは窺うような黒い瞳を一瞬見つめた後、へらりと笑って言った。 「事件が早く解決してよかったっスね。怪我人も出なかったんなら何よりじゃないんスか?」 それだけ言ってロイの返事を待たずにハボックは司令室を出ていく。パタンと閉まった扉を睨みつけるように見ているロイにホークアイが言った。 「少佐は現場にいたのがハボック大佐だと思っていらっしゃるんですか?」 「判らないな。そもそも一体どういう男なんだ?アイツは」 ロイはそう言って椅子に腰を下ろすと抽斗を開ける。中からハボックの人事ファイルを取り出して開いた。 「どんな功績が評価されて大佐になったんだ?」 ファイルに書かれた経歴だけではハボックが大佐になった理由が判らない。 「少なくとも身体能力が猿並みだというのは判ったが」 ロイはため息混じりにそう言ってファイルをしまうと、立ち上がり窓を開けて顔を出す。執務室の窓のすぐ傍まで枝を伸ばしている木を見つめて眉を顰めた。 「よくあそこから部屋に戻れるな」 腕力と跳躍力に相当自信がなければあの枝から戻ろうなどとは考えつかないだろう。 「少佐なら戻れますか?」 いつの間にか同じように窓から覗いていたフュリーが尋ねる。ロイは思い切り顔を顰めて言った。 「生憎私は猿じゃない。それにあんな木をよじ登って戻るくらいなら、あの木を階段に錬成するよ」 「ああ!じゃあハボック大佐も実は錬金術師なんじゃないですか?」 ポンと手を叩いて言うフュリーにロイは三階の窓から逃げ出した時のハボックの姿を思い浮かべる。 「いや、あれはどう見ても猿だろう」 ロイはそう言って眉を顰めるとため息をついたのだった。 |
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