| 見毛相犬 第十五章 |
| 「このフロア、コの字型に部屋があるんでしたっけ?」 「そうです。今私たちがいる廊下に面して二部屋、角を曲がって二部屋、さらにその先の角を曲がって二部屋と言う具合にコの字型に六部屋並んでます」 「ならやっぱり人質がいるのは、真ん中の二部屋のうちのどっちかって事っスかね」 「その確率が高いでしょう」 近くにいた見張り二人は簡単にのしたものの、その先をどうするかでハボックは腕を組んで考え込む。ぐずぐずしていれば、倒した二人と連絡がとれない事に気づいたテロリスト達がやってきてしまうだろう。ハボックは組んでいた腕を解いて言った。 「とりあえず廊下の角まで行きましょう。その先何人いるかも判んねぇし」 「アイ・サー」 短く答えてロイは先に立って部屋を出ていこうとする。 「ちょっとちょっと!」 ハボックはノブに手をかけるロイを慌てて引き留めて言った。 「なんです?」 「こういう場合はオレが先っしょ?」 「は?」 怪訝そうな顔で振り向くロイにハボックがそう言えば尚更不思議そうな顔つきになる。問いかけてくる視線に答えてハボックは口を開いた。 「こういう時は男が先に行くもんじゃないんスか?」 「……私も男ですが」 ハボックの言葉にロイの声のトーンが低くなる。 「あ、そうでしたね」 と、阿呆な答えを返すハボックをキッと睨んでロイは言った。 「私が先に行くのでは心許ないと言うことですか?大佐」 「そうじゃなくて」 ハボックは怒りの籠もったロイの視線をまるで気に留めることなくニコリと笑う。 「少佐の事は信頼してます、自分自身よりよっぽど。でもオレ、接近戦タイプなんで先、行かせてください。少佐は遠距離でも平気っしょ?」 ハボックはそう言いながら手にしたナイフをクルリと回して見せた。ロイは最初にハボックが倒した見張りの延髄に寸分違わず突き刺さったナイフを思い出して頷く。 「判りました、そう言うことなら」 言外に今度男だの女だの口にしたら承知しないというニュアンスを漂わせるロイに、ハボックは苦笑したが何も言わずにロイと入れ替わりにノブに手をかけた。 「行きます」 ハボックは低い声で言うとそっとノブを回す。できた隙間から部屋を抜け出ればロイが後に続いた。壁に張り付き観葉植物に身を隠すようにして廊下を角まで進む。そろそろと曲がり角の先を伺えば二人がいるところから遠い方の扉の前に見張りが二人立っているのが見えた。 「人質がいるのは二つあるうちの向こう側の部屋みたいっス」 「テロリストは?」 「部屋の前に二人いる以外は見えないっス。向こうの角の先にいるのか、部屋にいるのか、はたまたもうワンフロア下にいるのか」 ハボックはそう言ってロイにさっきいた隣の部屋の扉を指さす。二人は取りあえず部屋の中に身を隠すと互いの顔を見合わせた。 「どうするんです?ここでこうしていても埒があかない」 「外から回ります?」 「外っ?」 ハボックの提案にロイは思わず声を上げてしまい、慌てて口を押さえる。「外はちょっと」とモゴモゴと口ごもるロイにハボックは噴き出しそうになるのを何とか押さえ込んで言った。 「ならスピード勝負で」 ハボックが言えばロイがニヤリと笑う。 「では私が援護しますから。大佐は接近戦タイプなんでしょう?」 「ええまあ」 そう言ってボリボリと頭を掻くハボックにロイは言った。 「声は上げさせません。三十秒で片をつけられますか?」 「二十秒もあれば十分っスよ」 気負うでなくそう言う男をロイはじっと見上げる。それからフッと笑って言った。 「判りました。よろしくお願いします、大佐」 ロイの言葉にハボックも笑う。二人は再び部屋の外へ出ると曲がり角に身を潜めた。ロイが発火布をはめた手を掲げ、扉の前に立つテロリストの様子を伺う。発火布をはめていない方の手を上げると、開いた手の指を一本ずつ曲げて声を出さずにカウントダウンを始めた。 『5・4・3・2・1』 ゼロ!とロイの男にしては白くて節くれ立っていない指が全て折り曲げられた瞬間、ロイが発火布をはめた指を擦り合わせる。それにコンマ数秒遅れてハボックが身を潜めていた角から飛び出し、空気を求めて喉を掻き毟る見張りに向かって走った。 「ぐぅ…ッ?!」 目の前にいきなり現れたハボックに見張りが見開いた目を更に大きく見開く。ハボックは手前の見張りの左胸の下からナイフを突き立てると、見張りの体がゆっくりと倒れるのを見もせずに隣に立つ見張りの首に腕を回した。ゴキッと嫌な音を首から響かせる見張りの体をそのまま抱え込み、ナイフを突き立てた見張りの体が廊下に倒れ込む寸前にもう一方の腕で受け止めた。一人を脇に抱え、もう一人を肩に背負ってハボックは廊下を駆け戻る。ロイが待つ場所へ飛び込めば、感嘆に目を見開いたロイが言った。 「お見事」 「あはは、少佐も相変わらずすげぇっス」 ハボックはそう言って二つの死体を手近の部屋に隠す。それからロイを見て言った。 「これであと六人っス。ブレダ達が直接交渉してる相手が二人として残りの四人はどこにいると思います?」 「それぞれの通路に二人ずつ見張りを置いているのなら角二つ向こうの通路にも二人と考えるのが普通でしょう」 「じゃあ今はテロリストども全員このフロアにいるんスかね」 ハボックは腕を組んで首を傾げた。交渉に当たっていない四人のうち二人が通路にいるなら、残りの二人を小分けにしてワンフロア下に配置する意味はあまりないような気がする。 「確実に戦力を削ぐなら、向こうの通路のテロリストをのしてから部屋に行った方がいいかと思うっスけど」 ハボックの考えにロイが何か言おうとした時。 「おい、ガドーとレブロはどうした?」 「アイツら、見張り放り出してどこ行きやがったんだ?」 角の向こうから聞こえた声にハボックとロイはハッとして顔を見合わせた。 |
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