| 見毛相犬 第十二章 |
| フュリーの書類にサインをした後、ハボックは急いで会議室に向かう。もう既に他の出席者は席に着いており、ハボックは大きな体を縮めるようにして定められた席についた。 (うー、やっぱサボればよかった……) 机の上の書類を必死の思いで睨みつけながらハボックは思う。眠ってしまわないよう指で瞼を開いてみるものの、仲睦まじい上下の瞼は指の邪魔などものともせずにしっかりと寄り添ってしまった。 「───ック大佐、ハボック大佐!」 そう呼ぶ声が遠くで聞こえてハボックはうっすらと目を開ける。机の書類の上に突っ伏していた顔を上げかけた途端、ボカッと頭を殴られてハボックは机に額をしたたかにぶつけた。 「…ッてぇ…ッ!」 ぶつけた額を押さえて顔を上げればロイの黒い瞳と目が合う。恨めしげに唇を尖らせるハボックにロイが言った。 「まだ寝ぼけていらっしゃるんで?」 まともに顔を起こせないほど、とシレッとして言い放つロイにハボックはため息をついて体を起こすと誰もいない会議室を見回した。 「あれ?もう会議終わったんスか?」 「ゴミを回収してくれという連絡をもらいました」 そう言われてハボックは困ったように笑いながら頭を掻く。ロイはそんなハボックを見下ろしてため息をつくと背を向けて会議室を出ていってしまった。 「あ、少佐!」 ハボックは枕にしていたせいで皺の寄ってしまった書類をかき集めると慌てて後を追う。廊下を歩く背筋のピンと伸びた姿に追いついてロイの顔を覗き込んだ。 「少佐が迎えにきてくれたんスね」 「たまたまみんな席を外していたので」 嬉しそうに言うハボックをチラリと見上げてロイが言う。他に誰かいれば絶対自分はこなかったと、声になっていない声が聞こえた気がしてハボックはショボンと肩を落とした。互いに言葉を交わさず廊下を歩いていく。ロイは傍らを歩く背の高い姿をチラリと見上げて思った。 (この年で大佐なんだ、それなりの能力はあるはずだが今のところさっぱりだな) 少なくともこれまで見ているうちで目に付いたところと言えば料理の腕くらいだ。それとも彼が大佐位にあるのは誰か親類縁者の七光りで、実際にはこれまでの上司同様無能者なのだろうか。 (どちらかというとそっちの方な気がする) ロイがそう思った時、バタバタと廊下を走る音がして司令室に続く角からフュリーが飛び出してきた。 「少佐!あっ、大佐も!大変ですっ、テロリストが!」 二人の姿を目にした途端フュリーが叫ぶ。ハボックとロイは顔を見合わせるとすぐさま司令室へと走っていった。 「テロリストが最高裁判所の判事を人質にとって立てこもっています。要求は現在拘置所に収監されている仲間の釈放です」 ハボックとロイが司令室に入るとほぼ同時にホークアイが言う。執務室に入る二人についていつものメンバーが入ってくるとロイがハボックを見た。 「少佐が仕切ってくれていいんスけど」 そんなことを口にするハボックをロイが睨む。 「ここの最高指揮官は貴方です、大佐」 「でもオレよりアンタの方が手持ちの駒をよく把握してるっしょ?」 「……お渡しした資料の中にはそう言った内容もあったはずですが」 そう言われてハボックは決まり悪そうに目を逸らす。ロイはハボックの横顔を睨むように見つめていたが、ひとつ息を吐いて言った。 「ホークアイ中尉、今現在判っていることを報告してくれ」 ロイの言葉に頷いてホークアイが続けた。 「立てこもっているテロリストは“暁の鐘”と名乗るグループの十名です。ダルマスカホテルの五階に判事二人を人質に立てこもっています。要求はヴィラン刑務所に拘留されている仲間の釈放。二十四時間以内に釈放されなければ人質を殺害すると言っています」 「そんな要求飲んだら後が大変ですよ」 一度でも要求に答えたら同じような事が繰り返されるというブレダにロイも頷く。 「少尉の言うとおりだ、そんな要求飲むわけにはいかん」 「じゃあ人質はどうするんです?」 のんびりとした口調でそう口を挟むハボックをロイは睨んだ。 「救出作戦をたてるに決まってるでしょう。中尉、ホテルの見取り図を」 ロイに睨まれてハボックが肩を竦める。ホークアイはファイルの中から図面を数枚取り出して机の上に広げた。 「これです。一階がロビーフロア、二階から上が客室になっています。犯人は四階と五階のフロアを占拠、人質は五階にいる模様です」 「三階までと四階から上とは間取りが違うみたいですね」 「確かあのホテルは四階から上がVIPルームとか言って作りがちがうんですよ」 フュリーの言葉にファルマンが答える。図面を見ながら考えていたロイが言った。 「ファルマン准尉は収監されている仲間の事も含めてテロリスト達の情報と人質の情報を集めてくれ。フュリー曹長はホテルと連絡をとって当時の状況を詳しく聞いて欲しい。ブレダ少尉は小隊にいつでも出られるよう準備を整えさせた上で中尉と一緒に作戦の立案を私と」 「「イエッサー!」」 ロイの指示に従って部下達が動き出す。ロイは傍らに立っているハボックを見て言った。 「大佐の方から何かありますか?」 「オレ?や、なんもないっスよ、少佐の指示通りでいいんじゃないっスかぁ?」 そもそもロイ達の話を聞いていたのかいないのか、格子越しに空を見上げていたハボックが振り返って答える。その間延びしたやる気の欠片もない返事にロイは不愉快そうに眉を寄せた。 「そうですか、ではこのまま進めさせて頂きます」 (やっぱりボンクラだ、こいつは…っ) 心の中でそう罵りながら、ロイは小隊に指示を出すため出ていったブレダが戻ってくるのを待って、ホテルの図面に視線を戻したのだった。 |
→ 第十三章 |
| 第十一章 ← |