「まったくもうっ、心配かけやがってッ」
「ごめん、ブレダ」
ベッドに起こした体を積み上げたクッションに背を預けて、ハボックは乱暴に髪を掻き混ぜるブレダをすまなそうに見上げる。首を竦めて見上げてくる空色に、一頻り金髪を掻き混ぜたブレダはホッと息を吐いて言った。
「お前が撃たれたって聞いたときは心臓が止まるかと思ったけど、とりあえず目ぇ覚めてよかったよ。まったく無茶しやがって」
ハボックが身を挺してロイを護ったと聞いた時は最悪の事態を考えてぞっとした。フュリーからとりあえず命に別状はないと連絡があってホッとしたものの、ちゃんとこの目で確認しないことには安心出来ないと、ブレダは早々に仕事に区切りをつけて病院へとやってきたのだった。
「仕方ないだろ、オレは大佐の護衛官だもん。自分の命より大佐の命の方が大事」
「お前な」
笑みを浮かべきっぱりとそう言うハボックにブレダは眉を顰める。病室の窓から外を眺めているロイを見てブレダは言った。
「そりゃ確かにお前は護衛官かもしれないけど、自分の命を投げ出してまで護って欲しいなんて────思ってないですよね?大佐」
確かめるブレダの声にロイが窓の外へと向けていた視線を病室へ戻す。ベッドに身を起こすハボックを見つめて言った。
「そうだな」
「ほらみろ」
ロイの言葉にハボックが僅かに顔を曇らせる。そんなハボックを見てブレダが言葉を続けた。
「大佐を護った上で自分の身の安全もはかる。それが一流の護衛官だろ?ね?大佐」
「ああ」
同意を求めるブレダの呼びかけにロイは頷く。じっと見つめてくる空色を見つめ返してロイは言った。
「私の命と引き替えに大切な部下を失うわけにはいかないからな」
「そうそう、本当に大佐を護りたいなら自分の命も大事にしろ、ハボック」
ロイの同意を得られて、ブレダはそう言ってハボックの髪をワシワシと掻き混ぜる。「判ったってば」と擽ったそうに首を竦めるハボックとじゃれるブレダを見て、ロイは微かに眉を寄せた。
(違う、失うわけにいかないと思うのは部下だからじゃない)
好きな相手だから尚更失う訳にいかない。だが、今ここでそんなことを口に出来るはずもなく、ロイは親しげにハボックと言葉を交わすブレダを苦々しく見つめた。
(気安く触るな)
ハボックへの気持ちを自覚してしまえば友人同士の他愛ないやりとりすら癇に障る。無意識に睨みつければロイの視線を感じたブレダが不思議そうにロイを見た。
「どうかしましたか?大佐」
「────いや」
まさかやめろと言うわけにもいかずロイは目を逸らす。二人を見ないままロイは言った。
「そろそろ帰った方がいいだろう。ハボックも目を覚ましたばかりで長くは話すなと言われてるんだ」
「そうですね、すまん、ハボック。つい話し込んじまって」
ロイの言葉に頷いてブレダはハボックに言う。そうすればハボックは緩く首を振って答えた。
「ううん、心配かけてホントごめん。中尉やファルマン達にもよろしく言っておいて。なるべく早く復帰するから」
「無理すんな。まだ血が足りてないんだろ?ゆっくり休めよ」
ブレダがそう言いながら青白いハボックの頬を撫でるのを見たロイは、押さえきれない妬心に苛立ちを隠しきれずに言った。
「もう行くぞ、ブレダ少尉。ハボック、ゆっくり休め」
「はい、大佐。ご心配かけました。なるべく早く治して今度は怪我なんてしないようにしますからっ」
「ああ、そうしろ」
ロイは素っ気なく答えて病室の扉に向かう。チラリと振り向けばブレダが元気づけるようにハボックの頭をポンポンと叩くのを目にして、ロイはギュッと手を握り締めた。
「ブレダ少尉!」
「今行きますよ。じゃあな、ハボック」
「うん、ありがとう、ブレダ」
最後にコツンと拳をハボックの額に当てたブレダと共にロイは病室を出て扉を閉める。
「とりあえず一安心ですね」
「ああ、そうだな」
ホッと息を吐いて言うブレダに答えながら、こらえようのない嫉妬心を抱いたロイはこのままハボックを誰の目にも触れないところへ閉じ込めてしまいたいと思った。
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