| 風の行く先 第三十四章 |
| 拡声器を使ってブレダが犯人に投降を呼びかける。だが、数発の銃声が聞こえた後はなんの反応も見せない犯人に、ロイがハボックを呼び寄せて言った。 「このままじゃ埒があかん。犯人に気づかれないよう中に潜入するぞ」 「判りましたけど、それはオレとオレの部下の仕事っス。大佐はここで待ってて────って、ちょっと!オレの話聞けよ!」 皆まで言う暇もあらばこそ、さっさと動き出すロイにハボックが声を荒げる。ハボックは小さく舌打ちすると数人の部下に合図してロイの後を追った。 「大佐」 「犯人はもう一度発砲してる。銀行の襲撃に失敗して自棄になってるんだ。時間がたてば経つだけ子供達に危害を加える可能性が高くなっていく。子供達の方ももう限界だろう。万一騒ぎだせば気が立った犯人は子供達を皆殺しにしかねん」 物陰に身を潜めながら着実に犯人が立てこもる教室へと近づきながら言うロイにハボック達が目を瞠る。ロイは真っ直ぐに行く先を見つめながら続けた。 「以前、同じような事件があった。私はその場に居合わせなかったが、追いつめられた犯人は人質にとった子供達に向かって銃を乱射したんだ。立てこもってから一時間もたっていなかった」 「な……ッ?」 ロイの言葉にハボックが息を飲む。犯人が立てこもる教室の数メートル手前で止まったロイが振り向いた。 「教室の見取り図を寄越せ。犯人と人質の人数は?」 「銀行を襲った犯人は四人っス。そのうち一人は取り押さえられもう一人は射殺されました。人質の生徒の数は」 「七人です。男の子三人と女の子が四人」 チラリと振り向いたハボックの言葉を引き取って部下の一人が答える。その説明にロイが顔を顰めた。 「射殺。いよいよ拙いな」 ロイは言って広げられた見取り図を覗き込む。ハボックは教壇の机を指で丸くなぞって言った。 「逃げ出した子供の話だと、逃げ遅れた子供達がこの机の下に潜り込むのを見たって」 「それならそのままそこに押し込められている可能性が高いな」 「当然犯人も近くにいるっスよね」 「そうだな」 今判っている状況を確認してロイが考えるように黙り込む。上官の思考を妨げないようハボックが黙って待てば、少ししてロイが口を開いた。 「犯人の身元は?ファルマン准尉から連絡はあったか?」 「確認します」 ハボックは答えて部下に合図する。そうすれば部下の一人が無線で司令部に連絡を入れた。短いやりとりを何度か繰り返しながら手元のメモに書き付ける。無線を切ると書いたメモをピッと破りとってハボックに差し出した。 「一人は前科があるっスね。キャム・ウィルソン。聞いたことあるっスか?」 「キャム・ウィルソンだと?」 ハボックが口にした名にロイが目を瞠る。顔を顰めて考え込むロイにハボックが尋ねた。 「知ってるんスか?」 「知ってるも何も、以前ソイツを捕まえて牢にぶち込んだのは私だ」 「えっ?」 ロイが言うのを聞いてハボックが思わず驚きに声を上げる。慌てて口元を押さえるハボックにロイが言った。 「爆弾を腹に巻いて市議を人質に立てこもった奴がいただろう?覚えてないか?」 「あ、ちょっと前に起こったやつっスよね。オレがまだ士官学校にいた頃だ」 「その時の犯人の一人がウィルソンだった。もう出所したのか?随分早いな」 「模範囚だったみたいっスよ」 走り書きのメモを見てハボックが言う。 「早く出所するための芝居っスかね」 「有り得るな」 ハボックの言葉にロイは答えて再び黙り込む。今度はもっと短い時間で口を開いた。 「以前捕まえた奴なら話は早い」 「え?どうするんスか?」 ロイの思惑が判らずハボックが尋ねれば。 「私にはたっぷりと恨みがあるだろう。そいつを利用する」 ニヤリと笑ってロイが答えた。 |
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