| 風の行く先 第二十七章 |
| 食事の後、ロイは女性をベッドに誘う。本音を言えば食事の間の数時間でロイはすっかり彼女に対する興味を失っていたのだが、何故だかそんな自分に苛立ちを覚えてロイは半ば意地になって女性をベッドに誘っていた。だが。 「マスタングさん……」 服を乱されながらも媚びるように見上げてくる女性の表情が癇に障る。その気持ちを抑えたロイが誘いに乗った風を装って覆い被されば、微笑みを浮かべて大胆に体を開く女性の姿にロイはすっかりと興醒めして体を起こした。 「マスタングさん?どうかなさって?」 突然離れてしまったロイを女性が不思議そうに見る。半ば覗いた胸を隠しもせず髪を掻き上げる仕草は彼女が自分の性的魅力に自信がある事を伺わせて、ロイはそんな女性に猛烈に腹が立った。 (私を他の男共と同じだと思っているのか) 恐らくこれまで彼女とベッドを共にした男は、こんな女性の仕草に鼻の下を伸ばして興奮したのだろう。だが、ロイの目にはそれは反吐が出るほど醜いものとしてしか映らなかった。 「すみません、急用を思い出しました」 それでも流石に本音は隠して口にしてはそう言う。すまなそうな笑みを浮かべて服を整えてロイは言った。 「本当に申し訳ない。今夜はここでゆっくり過ごされてください」 ロイはそう言いながら女性のショールを拾い上げ肩の上にかける。頬にそっと口づければ女性は残念そうにロイを見上げた。 「残念ですわ、また誘って下さるでしょう?」 「ええ勿論。この埋め合わせは必ずしますから」 笑みを浮かべながらそう言ったものの、今のロイにその気持ちは全くなかった。 「では」 おやすみなさいとロイは女性を残して部屋を出る。もしかしたらこの後、彼女が他のボーイフレンドを部屋に呼んだとしてもロイにはもうどうでもよかった。ただただこの場を離れたくてロイは足早にホテルを出る。大きなため息をついて肺の中にたまった甘ったるい香水の匂いを吐き出すと、ロイはもうすっかりと夜も更けた街を歩いて家に帰っていった。 「おはようございます、大佐」 「……ああ、おはよう」 司令室の扉を開ければフュリーの元気な声が飛び出してくる。それにロイがムスッとして答えれば、フュリーが小首を傾げて言った。 「お疲れですか?」 「夕べよく眠れなくてね」 夕べはどうしても一緒にいることが耐えられず、デートの途中で女性をおいて帰ってきてしまった。スマートを信条とする自分には考えられない行為だったが、彼女の一挙手一投足がいちいち気に障ってどうしても我慢出来なかった。彼女の香水の甘ったるい匂いを夜道を歩く間に振り払ってシャワーを浴びてベッドに潜り込んだものの眠りはなかなか訪れず、結局明け方うとうとしただけで目覚ましの耳障りな音に起こされたのだった。 「今日は来たくなかったんだ」 迎えが警備兵だったなら何か理由をつけてズル休みを決め込んだところだったが、生憎今日の迎えはホークアイだった。不機嫌そうなロイの表情もまるで気にした風もなく平然と車に押し込んで司令部につれてくる、彼女の有能さが今日のロイには恨めしかった。 ムゥと唇を突き出したロイにフュリーが何か慰めの言葉を口にしようとした時、ガチャリと扉が開いてワイワイと部下たちが司令室に入ってくる。中に入る前に続けていた話の欠片が耳に入って、その楽しそうな様子にロイは眉を顰めた。 「あ、おはようございます、大佐」 最初に入ってきたファルマンが既に上官が来ている事に気づいて朝の挨拶を口にする。それに続いて「おはようございます」と口々に言うブレダとハボックをロイはジロリと見た。 「朝からご機嫌だな」 「おかげさまで」 ロイの嫌みたっぷりな声音も気にせず、ブレダが笑って答える。 「昨夜は大佐と違って男ばっかでしたけど、盛り上がって楽しかったですよ。いいストレス解消になりました。なあ?」 「あ、うん」 なあ、と振られてハボックが頷いた。ニコッと笑うその顔を見れば、ロイの中にモヤモヤとした気持ちが広がる。ロイは眉間の皺を深めるとそれ以上何も言わずに執務室に入ってしまった。 「何がいいストレス解消になっただ。男ばっかりでストレス解消になんかなるもんか」 バタンと閉めた扉に寄りかかってロイはボソリと呟く。ニコッと笑ったハボックの笑顔を思い出せば、あの笑顔に自分以外の男たちが癒されたのかと何故だが腹が立って仕方なかった。 「くそッ」 思い切り舌打ちしてロイは扉から背を離す。大振りな執務机の椅子にドサリと腰を下ろしたものの積み上げられた書類には手を伸ばさず、ムスッと不機嫌に腕を組んで椅子に背を預けた。 「……アイツも楽しい時間を過ごしたのか?」 ハボックとデートしたのは一昨日の事だ。ロイが女性とデートすると知ればその空色の瞳を辛そうに翳らせたというのに。 「……くそっ」 力なく呟いて、ロイは窓の外に広がる空を見上げた。 |
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