風の行く先   第二十一章


「ん……」
 けたたましく朝を告げる目覚ましの音に、ロイは眠りの淵から引き戻される。ゆっくりとベッドの上に身を起こしたロイはコキコキと首を鳴らして大きく息を吐いた。ベッドから足をおろし立ち上がるとのろのろと洗面所へ向かう。洗面台に手をつき大きな鏡に身を寄せるようにして己の顔を映した。
 ずっと好きだったのだと、ハボックから衝撃の告白を受けた。ハボックの事は信頼できる部下としてそれなりの好意を持ってはいたが、所謂恋愛対象として考えたことは全くなく、当然のこととして気持ちを受け入れるつもりはないと冷たく突っぱねた。ハボックとしても受け入れて貰えるとは思っていなかったのだろう、必死に気持ちを抑えて部下の一人として振る舞おうとしているのは判ったが、それでもやはり関係がぎくしゃくしてしまうのはどうしようもなかった。こんな事で部下としてのハボックの技能を失うのを残念に思ったロイは、一晩のデートと引き替えに自分への想いに綺麗さっぱりけりを付けろとハボックに提案した。そして。
 デートの場所に現れたハボックと二人食事の席についた。酒を酌み交わし料理を口にしながら過ごす時間は思いの外気持ちがよく、いつにもまして話が弾んだ。最初で最後のデート、ハボックはロイが今まで見たことのない表情をしてみせた。はにかむように笑いうっとりとロイを見つめる様はそれが男のハボックだと判っていても可愛らしく魅力的にロイの目に映った。そうしてあらかじめ取っていた部屋にハボックを誘い────。
『最初で最後のデートだからな、抱いてやる。気持ちに踏ん切りもつけられるだろう?』
 そう告げれば驚きながらも身を任せてきたハボック。食事の席での可愛い表情を見てはいたしそもそも自分で提案したとはいえ、男のハボックを抱けるか不安がなかったわけではない。だが、そんなロイの不安はベッドでのハボックの痴態に跡形もなく吹き飛んでしまった。男の自分を好きだと言うからてっきり男同士のセックスも豊富なのだと思えば経験はないと言う。初めての行為に怯えながらもロイのなすがままに躯を開いたハボックは、誇張でもなんでもなく本当に可愛かった。羞恥と苦痛に震えながら必死にロイの欲望を受け入れるハボックの姿はロイの男としてのあらゆる欲を煽った。男を受け入れるのは初めてと言う躯を貫けば、ロイを襲ったのはこれまで感じたことのない程の快感だった。本来受け入れる場所ではない蕾はロイの欲を包み込んで離さず、その熱く熟れた肉壁はロイに例えようのない悦楽を与えた。その健気で思いがけず可愛らしい表情に煽られて、ロイはこれまでの女性とのセックスでは考えられないような行為をハボックに要求した。己のモノを咥えさせ喉奥に精を吐き出し飲み込ませた。泣きじゃくるハボックを押さえつけ何度も何度もその躯の奥深くを犯し熱を叩きつけた。正直な話、ハボックとのセックスがこれほどまでにイイとは思ってもおらず、その事がロイを更に興奮させ、結局ロイは時計の針が日を跨いでもハボックを解放してやることが出来なかった。


「ふぅ……」
 冷たい水で顔を洗ってロイは大きくため息をつく。鏡に映る己の顔は酷く満足げで、ロイはそんな己にやれやれと苦笑した。
「まさかな……」
 あんなにイイとは予想外だった。これまでの人生、恐らく同じ年の男と比べてセックスの経験は豊富な方だと思う。相手の女性も自分に見合うだけの所謂イイ女が殆どで、セックスの相手としても悪くはなかったはずだ。それでも、そんな女性たちとのセックスが色褪せてしまうほどに夕べのハボックとのセックスは強烈だった。
「まあ……こちらとしても初めての経験だったしな」
 強烈だったのは男とのセックスが初めてだったからとロイは思ってみる。それでも夕べのハボックを思い出せば朝だというのにズンと下腹が重たくなって、ロイは慌てて首を振った。
「いかんいかん、気持ちを切り替えさせるためのセックスだろう」
 自分が引きずってどうするというのだ。ロイはガシガシと乱暴に頭を掻くと服を脱いで浴室に入る。シャワーを浴びて気持ちを切り替えたロイは、コーヒーだけで朝食を済ませると迎えの車に乗り込み司令部へと向かった。


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