| 風の行く先 第二十章 |
| フッと目が覚めて、ハボックは見慣れたアパートの天井を見上げる。暫くの間ぼんやりと天井を見上げていたハボックは、のろのろと躯を起こした。 「う……」 夕べ一晩酷使した躯がギシギシと軋むように痛む。あらぬ所から込み上がる疼痛にハボックは唇を掻み締めた。 ずっと好きだったロイに思いがけず告白してしまってからぎくしゃくした日々が続いていた。受け入れられないのは判っているのだから一刻も早く忘れなければと必死に己の気持ちを押さえ込もうとするハボックに、ロイが提案したのは「一晩デーとしてやるから気持ちに整理をつけろ」というものだった。例え理由がどうであれロイが彼のプライベートの時間を割いてくれ、大好きな黒曜石が自分だけを見つめてくれるというのが嬉しくて、ハボックその申し出を受け入れた。なによりハボック自身、部下として彼の側にいる為には気持ちに整理をつけなくてはならないと思っていたからだ。ホテルのレストランで二人きりで過ごす時間はとても幸せで切なくて終わってしまうのが辛かったけれど、それでも明日からは一人の部下としてロイを支えていくのだとハボックが己に言い聞かせた時。 『最初で最後のデートだからな、抱いてやる。気持ちに踏ん切りもつけられるだろう?』 部屋を取ってあるとロイに誘われるまま行った先で告げられた言葉。優しくキスされれば拒むことなど出来なくて、そのままロイに抱かれてしまった。初めての行為に苦痛と快感に翻弄されながら何度も躯の奥底にロイの精を注がれた。大好きな相手に抱かれながら、だが思い知らされたのはロイの気持ちが自分には全くないということだった。確かに男の自分を抱きながら、ロイは興奮してハボックを攻め立てた。告白した時はあからさまに気持ちが悪いという態度をとったのが嘘のように時計の針が日付を跨いでも尚ロイはハボックを離さなかったが、だがそれは情が移ったからなどと言うものではなく単に男としての快感を求めての事に過ぎなかった。一晩ロイと過ごして、ハボックの中に残ったのは行き場のない想いと虚しさだけだった。 「ん……っ」 ベッドから足を下ろして立ち上がろうとすれば、夕べ散々にロイに犯された蕾がズキズキと疼く。大きく開かれていた脚の付け根がギシギシと痛んだが、ハボックは何とか立ち上がると壁に縋るようにして浴室に向かった。身につけていたパジャマ代わりのTシャツとスエットパンツを脱ぎ浴室の中に入る。温めに出したシャワーを浴びればゾワリと躯に鳥肌が立つようで、ハボックは大きく躯を震わせた。 「もう……忘れなきゃ。大佐がオレのこと何とも思ってないのはよく判ったじゃないか……」 どんなにロイを想っていてもロイの方は自分をなんとも想っていない。皮肉にも深く体を交えることではっきりと判ってしまった。 「これからは部下として大佐の事支えるんだ。この気持ちはもうしまってしまわなきゃ」 胸の奥の更にその奥の一番深いところへしまい込むのだ。 ロイによって躯の奥底に刻まれた痛みに震えながら、ハボックは降り注ぐシャワーの滴の下そっと目を閉じた。 軍服の上着を羽織ってハボックはアパートの部屋を出る。いつもなら勢いよく駆け降りる錆の浮かぶ階段を今朝はゆっくりと降りて、ハボックは司令部へと向かった。 正直言って夕べの今日でロイと顔を合わせるのは辛い。だがもし今日休んだりすれば、それはロイにハボックが上司と部下としての関係を築くつもりがないとも取られかねず、それだけは絶対に嫌だとハボックは思った。 吹いてくる風に俯きがちに歩いていた顔を上げれば晴れ渡った空が広がっている。足を止めて高い空を見上げていたハボックの唇にうっすらと笑みが浮かんだ。 「頑張ろう」 ハボックは自分に言い聞かせるように呟くと、司令部に向かって歩いていった。いつものように司令部に着いたハボックは真っ直ぐに司令室に向かう。大きく吸い込んだ息をフーッと吐ききると扉に手をかけた。そうして。 「おはようっス!」 司令室の中に元気良く声をかけたハボックは、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて中へ入っていった。 |
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