| いつか帰る場所であるように 第十一章 |
| その後のことは、ハボックにとってみれば仰天の連続だった。軍というのは男が大半を占める社会だから、同性同士で関係を持つというのは決して珍しくない。戦時中ともなれば尚更だ。だが、ハボックはこれまで同性と関係を持ったことも、ましてや同性を好きになったこともありはしなかった。士官学校時代、ふざけて触りっこ位はしたことはあったが、知識としての同性間のセックスすら知らなかったのだ。そんなハボックがたとえ同じように同性間のセックスの経験はないにせよ、百戦錬磨の上官に圧し掛かられたのだ。結果は言わずもがなと言えた。 「……ッッ!!…いさ…ッ!」 背を仰け反らせてハボックはビクビクと震える。そそり立った自身から何度目になるか判らない白濁を吐き出しながら、深々と埋め込まれたロイの楔をきゅうきゅうと締め付けた。 「…くっ…、ハボ…ッ!」 その強烈な締め付けに、流石のロイも今度こそ熱を吐き出す。身体の奥深くを濡らされるという初めての体験に、ハボックは涙に濡れた空色の瞳を大きく見開いた。強烈な快感と、内部から焼き尽くされてしまうのではないかという恐怖に声も出ない。小刻みに震えた後、がっくりとシーツに沈み込む身体をロイはしっかりと抱き締めた。 「ハボック……ハボ…」 焦点の合わない瞳を覗き込んでロイはハボックを呼ぶ。ゆっくりと自分を見つめるハボックに微笑んで、涙に濡れた頬を撫でた。 「大丈夫か?ハボック」 そう言って優しく見つめてくる黒い瞳をハボックはぼんやりと見上げる。なにもかもが夢のようにふわふわして実感がなかった。 「ハボック?」 答えないハボックにロイの声が心配そうな響きを帯びる。その声にパチパチと瞬いて、ハボックは漸く口を開いた。 「腹ん中が熱い……」 「ああ、中に出してしまったからな」 「つか、なんかいっぱいっていうか……食われたっていうより食わされたっていう感じ?」 正直まだロイを咥えたままの器官は、入り口から奥までみっちりとロイの牡に埋め尽くされ、その上たっぷりと中に注ぎ込まれた状態とあっては、ハボックの言うことも決して間違ってはいないと言えた。だが、ロイはハボックのその言葉に僅かに顔を顰めるとハボックを睨む。 「お前なぁ、初めてセックスした感想がそれか?せめて嬉しいとか、気持ちヨカッタとか言ったらどうだ?」 不満げに言う男にハボックは顔を赤らめた。 「そ、そりゃ嬉しいっスけど……でも、なにがなんだか判んないうちに過ぎちゃったし、それに、きっ、気持ちヨカッタって……」 「善くなかったのか?」 「……この状況見てそれ言います?」 リビングから移ったベッドの上でも散々に喘がされ、イかされまくったおかげで正直ハボックの下肢はかなりなことになっている。紅い顔で睨んでくるハボックににんまりと笑うとロイは言った。 「なにがなんだか判らないうちに過ぎたと言ったな。なんなら判るようにもう一度シてやろうか?」 「……も、いいですっ、これ以上されたら死んじまうっ」 真っ赤な顔で逃げようともがくハボックをロイは面白そうに見ていたが、その長い脚を抱え直すと軽く突き上げる。 「…っ、たいさっ」 悲鳴のような声を上げるハボックに、ククッと笑ってロイはハボックを抱き締めた。 「お前があんまり可愛いことをいうからだ」 そう言って抱き締めてくる男をハボックは恨めしげに睨む。クスリと笑ってロイはハボックの中からゆっくりと楔を引き抜いた。 「……ぁ」 ずるずると内壁をこすって出ていく感触にハボックは無意識に腰を浮かせシーツを握り締める。漸く抜け出てしまうと、ホッと息を吐いてシーツに沈み込んだ。 「絡みついて放そうととしなかったな、まだ足りないか?」 「………オヤジ」 にやにやと笑いながら言うロイをハボックは紅い顔で睨みつける。いっぱいに埋めていたものが抜き去られて感じる物理的な喪失感が精神的にも感じられて、ハボックは腕を伸ばすとロイにしがみついた。 「…ハボック?」 何も言わずに抱きついてくるハボックのさっきまでとは様子の違う様に、ロイは抱き返しながらハボックを呼ぶ。腕を弛めてその顔を覗き込めば泣き出しそうなそれに目を瞠った。 「………どうした?」 尋ねてくる黒い瞳を見返せばそこに映る深い愛情にハボックは薄く笑う。自分からロイに口づけると言った。 「なんだかやっと居場所を見つけたって感じがするっス」 小さな声でそう言うハボックをロイはじっと見つめる。何も言わずに次の言葉を待てば、暫くしてハボックが言った。 「父さんと母さんが死んで、オレは母方の叔父に引き取られたっス。叔父も叔母もとってもよくしてくれた。それこそ本当の子供と同じようにオレのことを愛して大事にしてくれた。でも……」 ハボックは言ってロイにしがみつく。勇気づけるようにその背を抱き返されて、ハボックはうっすらと微笑んで続けた。 「でも、そこはオレの居場所じゃなかった。こんなによくして貰っててこんなこと考えてちゃ罰が当たる、って何度も思ったっスけど、でも、どうしてもその考えが消えなくて…っ」 「ハボック」 優しく呼ぶ声にハボックはロイを見つめて笑う。 「アンタの傍にいるとすげぇ落ち着く。気持ちが穏やかになって安らいで……。ここがオレの居場所なんだって…」 そう言ってロイの胸に頬を寄せるハボックの身体をロイは掻き抱いた。蜂蜜色の髪に何度もキスを落としながら囁く。 「それを言うなら私も同じだ。度重なる戦闘で、何もかもなくしてしまったと思っていた。世界はどす黒く染まって、二度とその輝きを取り戻すことはないんだと思っていた。だが、お前のその瞳の中の空がもう一度私の世界を明るく輝かせてくれた。私に居場所を与えてくれた」 ロイはそう言うとハボックの髪を優しく撫でた。くすぐったそうに目を細めてロイの好きにさせていたハボックは、手を上げるとロイのそれを掴む。綺麗に爪の整えられた指先に唇を触れて言った。 「たいさ、大好き…」 「私もだよ、ハボック…」 そう囁きあって二人はそっと唇を重ねた。 「たっだいまー」 司令部の扉を開けてハボックは言う。「疲れたー」と喚きながらも晴れ晴れとした表情をしているハボックにブレダは煙を吐き出して言った。 「なんか最近機嫌いいじゃん。いい事でもあったのかよ」 「んー?まあね」 椅子に背を預けてハボックが笑う。その満たされたような幸せな表情は長いつきあいの中でも見たことのないもので、ブレダはハボックをまじまじと見つめた。 「…?なんだよ、オレの顔に何かついてる?」 不思議そうに首を傾げるハボックにブレダは肩を竦めて笑う。 「まぁ、いいんじゃねぇ?」 「は?何がだよ」 訳が判らんと言うハボックを後目に、ブレダは楽しそうに笑った。 「大佐、メシできましたよ」 ハボックは旨そうな湯気を上げる皿を置きながら言う。返事のないロイの側にやってくると、リビングのテーブルの上に広げられた新聞を覗き込んだ。 「……爆弾?」 「ああ、密造場所を突き止めて検挙に乗り込んだところで憲兵隊諸共吹き飛んだらしい。かなりお粗末な設備で作っていたようだな」 「ここもっスけど、南部もいつまでたっても落ちつかないっスね」 新聞に大きく載った南部の一都市の写真を見てハボックが言う。ロイはガサガサと新聞を畳みながら言った。 「どこもかしこも落ち着かんさ」 新聞をラックに放り込んで立ち上がるロイの眉間に刻まれた皺にハボックは手を伸ばす。その皺を伸ばすように指先でこすればロイが苦笑した。 「せっかくのイイ男が台無しっスよ」 そう言うハボックの手を取ってロイはその指先に口づける。それからそのままダイニングに行くと椅子に腰を下ろした。「いただきます」と言って食事を始める。暫くは熱々の料理を何も言わずに頬張っていたが、やがてロイがぽつりと言った。 「そう遠くない将来に私が落ち着かせて見せるさ」 「………オレも手伝えますか?」 「当たり前だろう。手を貸せ、ハボック。私たちでこの国を変えてやるんだ」 そう言って不敵に笑う男に、ハボックもニッと笑って見せた。 |
| → 第十二章 |
| 第十章 ← |