| 菫青石の恋 第七章 |
| caution!! この章では 読後の苦情は一切受け付けませんのでご了承の上お進みください。 「んっ…あっ…ヤダ…っ」 ぐちゅぐちゅという濡れた音が夜の公園に響き、ハボックは高く掲げた腰を乱暴に突き上げられていた。夜とはいえまだそんなに遅い時間でもなく、公園のあちこちでは人の声や足音が聞こえている。そんな中、ほんの少し繁みの中に入った、ちょっと目をやれば簡単に見えてしまうようなそんな場所でハボックは男を迎え入れさせられていた。 これまで幾度となく男に体を開いてきたがそれは誰も見ていない密室でのことで、だからこそハボックはほんの数時間のことだと自分に言い聞かせ耐えてこられたのだ。こんな人目につくところで下肢をむき出しにされ男に犯されるのは耐えようのない羞恥と苦痛をハボックにもたらしていた。実際先ほどからいくつもの視線と、呻くような声が聞こえて、おそらくは男に犯されているハボックをオカズに一人でヤッている輩がいるに違いなかった。 「どうした、いつものように啼いてみろ」 「アッ…!」 きつく突き上げられてハボックの背が反る。必死に声を耐える様にシュトフは嗤うとさらにきつく突き上げた。 「アアッ…ヒィ…っ」 「いいぞ、もっとだ、もっと啼けっ」 「ヒゥッ…ヤッ…も、赦して…っ」 弱々しく哀願する声はシュトフの嗜虐心を煽る役にしか立たず、シュトフはニタリと嗤うと思い切り突き入れる。 「ヒ…ッッ!!」 ビクビクと体が震え、ハボックの中心から熱が迸った。涙を零すハボックをシュトフは容赦なく攻め立てていった。 ヒューズと別れて歩き出したロイはホテルに帰ることも出来ずに夜の街をふらふらと歩いていた。先ほどのハボックを抱き寄せた男の顔を思い出すたび胸の中にドロドロとした黒いものが溢れてくる。大量に溢れ出るその薄汚く昏いそれはロイのことを内側からジリジリと焼き、飲み込もうとしていた。 「ハボック」 その名を呟けばキリキリと胸が痛む。自分がどうなってしまったのかどうしても判らず、ロイはよろけるようにして緑の茂る公園へと脚を踏み入れた。眉間を押さえて頭を振るとロイはゆっくりと歩いて行く。暫くいった所で数人の男達が繁みの中を食い入るように見つめているのを目に止め、ロイは思わず脚を止めた。何をしているのだろうと訝しんだその直後、その男達がおざなりに身を隠すようにしながら己を慰めているのだと気付いてロイは口元を歪めた。 「浅ましい…」 その瞬間だけ、さっきから頭を占めていた光景が消え嫌悪の気持ちが湧き上がる。おそらくは羞恥の欠片も持ち合わせぬバカなカップルが場所柄もわきまえず盛っているのだろう。そう考えたロイは憲兵を呼んでやろうかとも思ったが、大声で怒鳴りつけてやればこの胸の中のわけの判らぬ感情も吹っ切れるかもしれないと思い直し、繁みへと近づいていった。繁みの中を見れば案の定、木の幹に寄りかかって座った男に背を預けるようにして跨る白い体が見える。そこで何をしていると声を上げようとしたロイは、大きく脚を開いたその体を男のモノで深々と貫かれて喘ぐその顔が見知ったものである事に気づいて声を飲み込んだ。 「ハボック…」 思わず呟いたその声は殆んど空気の動きにしか過ぎず、それでもその動きを感じ取ったかのようにハボックは閉じていた瞳をゆっくりと開ける。涙に曇ったその瞳が、目を見開いて自分を見つめるロイの顔を捉えた時、ハボックの唇から短い悲鳴が零れた。それと同時にシュトフがハボックをきつく突き上げ、ハボックはロイの見ている前で熱を吐き出してしまう。 「イッ…アアッ!!」 「どうした、締め付けがきつくなったぞ。ギャラリーが増えて興奮したか?」 「ヤダ…み、るなっ…みな…で…っっ」 ギュッと瞳を閉じてすすり泣くハボックの両脚を大きく広げるとシュトフは乱暴に抜きさしする。限界まで広がった蕾が赤黒い牡を咥え込んでひくつく様が曝け出されて、ハボックの周りからいくつも呻き声が上がった。ガツガツと突き上げられて再び立ち上がっていたハボックの中心がふるりと震える。 「イヤ…イきたくない…っ」 そう思ったところで男を受け入れる事に快感を覚え込まされた体は抗う術を持たない。ハボックがシュトフを締め付けながら熱を迸らせた時、うっすらと開いた視線の先で走り去るロイの背中が見えた。 (見られた…マスタングさんに…) 激しく突き上げられて霞む意識の中でハボックは思う。 (もう、おしまいだ…もう…) 自分が男娼であることはロイにもハボック自身にも判りきったことだった。それでもハボックはロイが自分に会いにきてくれる時、自分が男娼であることを匂わせるようなものは一切見せなかったし言葉にもしなかった。ただ一度だけ、あの雨の日に偶然ロイを家に招きいれたあの時だけ、ハボックはロイに自分を買わないかと口にした。だが、男を抱く趣味はないと言ったロイに、ハボックは自分の想いを深く深く封じ込めたのだ。もとより打ち明ける気などなかったがそれでも以前よりもっと自分の気持ちを出さぬよう気を配り、せめて言葉を交わすためだけでも会いに来て欲しいと願ったのだ。だがそれももう。 (もう、会えない…) 初めて抱かれた時から片時も忘れることのできなかった、男に体を売ることを強要されてきた自分のたった一つのよりどころであったあの綺麗な黒曜石の瞳を、もう二度と見ることは叶わないのだとハボックは思う。自分の中の大切なものが砕け散る音を聞きながら、ハボックはただシュトフのされるままに体を震わせていたのだった。 闇雲に走って辿り着いた路地でロイは壁に手をついて荒い息をつく。ロイにはたった今しがた見た光景が信じられなかった。確かにハボックは男に身を売ることを生業としていたし、自分がハボックに会っていたのも本来そういった行為をするところの娼館だ。だが、ハボックと酒を酌み交わして話をするうち、ロイはハボックがそういったことをしている男なのだということを忘れていた。いや、忘れようとしていたのかも知れない。ただハボックの住む家に訪ねていっているだけだと、そこはそんな場所ではないのだと思い込もうとしていたのだ。壁に手をついて息を整えるロイの脳裏にシュトフに貫かれて喘ぐハボックの顔が浮ぶ。大きく開かされた下肢に牡を埋め込まれて熱を吐き出すハボックの顔が。 「くそっ!」 もしあの時、発火布を嵌めていたなら自分は何をしていただろう。ロイはそう考えて身を震わせる。間違いなく自分はハボックを犯すシュトフを、そして心の中でシュトフと同じようにハボックを犯していたであろう男どもを焼き殺していたに違いない。 「くそっ…クソッッ!!」 ロイは壁についた手を何度も何度も打ち付ける。その手の皮膚が裂け血が滲んでもロイは打ち付けるのをやめなかった。 いつの間にか静かに降り出した雨がロイの体をしっとりと濡らしていく。当てもなくふらふらと歩いていたロイはぼんやりと空を見上げた。まだ夜明けには遠い空は昏い灰色に沈んで、雨はそこから細い針のようになって降ってくる。 ロイは視線を足元に戻すとまたふらふらと歩き出す。自分の心の中に暗く重いタールのようなものが沈殿してロイをその中に引きずり込もうとしていた。ロイは辿り着いたその家から漏れる温かい光に顔を上げる。縋りつくようにもたれかかった扉をドンドンと叩けば暫くして怒ったような声が聞こえた。それでも構わず扉を叩き続ければ内側から乱暴に押し開かれる。開いてきた扉に押し倒されるように尻餅をついたロイの頭上から驚いたような声が降ってきた。 「ロイっ?お前、どうしたんだっ?」 濡れそぼたれて地面に座り込むロイの手を引いてヒューズはその体を起こす。なんとか立たせたロイの顔を濡らすのが、涙なのか雨なのか、咄嗟にはわからなくてヒューズは息を飲んだ。 「とにかく中へ入れ。そんな格好じゃ風邪を引く」 ヒューズはそう言ってロイの体を抱え込むようにして家の中へと入っていく。ロイを浴室へと連れて行きながら大声でグレイシアを呼んだ。ヒューズの声に姿を現したグレイシアはロイを見て息を飲んだが何も言わずにロイのための着替えを取りに2階へと上がっていく。ヒューズはロイを浴室に押し込みながら顔を覗き込むと言った。 「風呂に浸かってゆっくり温まるんだ、芯までちゃんと。できるな?話はそれからだ、いいな、ロイ」 ヒューズは何度も言い聞かせるように言うとロイを押し込んで扉を閉めた。浴室に取り残されたロイは暫くの間ぼんやりと立っていたが、やがてゆっくりと服を落としていく。全て脱いでしまうとよろよろと中へと入っていった。暫くして聞こえてきた湯を使う音にヒューズは浴室の扉を開けるとグレイシアが持ってきた着替えとタオルを籠の中に置く。そうしてロイが脱ぎ捨てたものを拾い集めると扉を閉めて心配そうに立っているグレイシアを見た。 「何か体の温まるもの、用意してやってくれるか?」 「ええ…。どうしたのかしら、マスタングさん」 「判らん、別れる前からおかしかったんだ。あの時一人にせずについてきゃよかった」 これまで見たことのないロイの姿にヒューズは戸惑いを隠しきれない。かのイシュヴァールの地ですらロイはもっとしっかりと地面を踏みしめて立っていた。だが、今のロイのあまりの不安定さにヒューズはどう考えたらよいか判らず緩く首を振る。 「とにかくまずは話を聞くっきゃねぇか」 心当たりと言えばロイと別れる前に見かけたシュトフとその連れの金髪の青年しか思いつかない。ヒューズは1つため息をつくとロイがでてくるのを待つ為にグレイシアを促してリビングへと入っていった。 |
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