菫青石の恋  第四十一章


 薄暗い廊下を通って浴室へと向かう。電灯のスイッチを入れようとしたロイにハボックが叫ぶように言った。
「つ、点けないでくださいっ」
「…どうして?」
「明るいところでマスタングさんの顔なんて見られないっス…!」
 夜目にも紅い顔でそう告げるハボックにロイはくすりと笑う。それでもその願いを聞き入れて、ロイは灯りを点けずに中へと入った。ハボックの脚を下ろし、自分に寄りかからせるように立たせるとシャワーのコックを捻る。湯温を調節するとハボックを座らせ脚を大きく開いた。
「自分でしますっ!」
 蕾に手を寄せてくるロイにハボックが慌てて叫ぶ。閉じようとする脚を押さえてロイが言った。
「いいから、じっとしていろ。」
「マス――っっ?!」
 クッと差し込まれる指にハボックが息を飲む。蕾の中に入れた指を動かせば注ぎ込まれたロイの熱がとろとろと溢れ出てきた。
「あ…っ」
 ハボックは掻き出そうと出入りする指の動きに我慢できず、ロイの肩にしがみ付く。蠢く指での刺激で意志に反して反応を示し始めた己を恥じて、ハボックは涙を浮かべてゆるゆると首を振った。
「や…う…っ」
 これまで後始末をしている最中に感じたことなどまったくなかったのに、注ぎ込まれたロイの熱をロイの指が掻き出しているのだと思っただけで背筋をゾクゾクと快感が駆け上がる。
「も、ヤダァ…ッ!」
 ハボックは甘い刺激に耐え消えれず、顔を両手で覆うと背を仰け反らせた。その拍子に床に倒れそうになる体をロイが慌てて腕を伸ばして引き止める。その反動で熱を掻き出していた指がグッと突き入れられる形になり、ハボックは悲鳴を上げるとびゅるりと熱を吐き出した。
「アッ…?!」
 自分の反応が信じられず、ハボックは目を見開く。自分が吐き出した物がロイの顔を汚してしまったのを目にして、更にその目が大きく見開かれた。
「ごっ、ごめんなさ…っっ」
 慌てるハボックにロイはくすりと笑うと顔にかかった熱を指で掬いぺろりと舐める。大きく見開かれた空色に笑いかけると言った。
「いい、気にするな」
 ロイはそう言うと残りの熱も掻き出してしまう。くったりとしているハボックの全身を洗い清めると自分もざっとシャワーを浴び、ハボックを抱いて浴室を出た。タオルでハボックの体を包み込むと廊下を通ってさっきとは別の寝室へと入る。清潔なシーツにハボックを横たえると自分もその横に潜り込んだ。
「疲れたろう、ゆっくり休みなさい」
 そう言えばすり寄ってくるハボックをそっと抱きしめて。
 二人は互いを抱き締めながら幸せな眠りへ落ちていった。

「うわわわわっっ!!」
 隣で上がった素っ頓狂な声にロイはゆっくりと目を開ける。声のした方へ視線を向ければベッドに体を起こしたハボックがブランケットを体に巻きつけて真っ赤な顔をしていた。
「な、な、な、なんスかっ、これっっ!!」
「どうした?」
 ブランケットに包まれた己の体を覗き込んで喚いているハボックに、ロイもベッドに体を起こすと聞く。ロイが目覚めた事に気付いたハボックはロイを見つめるとパクパクと口を動かした。
「こっ、これっっ!!かっ、体中に…っっ」
 そう叫ぶハボックのブランケットの陰から覗く白い肌には無数のキスマークが浮かんでいる。首筋から肩、腕、胸、腹とそれから陽が当たらぬため一層白い腿の内側にも鮮やかな朱色が散りばめられていて、それを目にしたハボックは真っ赤になって喚きたてていた。
「ああ、夕べつけた。いわゆる所有の印というやつだな」
 なんでもない事の様にさらりと言ってのけるロイをハボックは睨む。
「あっ、アンタねぇっっ!!」
 ハボックはギュッとブランケットを握り締めると言った。
「信じらんねぇっ、こっ、こんなたくさん…っ消えるまですっげぇ恥ずかしいじゃないっスかっ!!」
 ハボックがそう言えばロイがさも心外だというような顔をする。
「何が恥ずかしいんだ。好きな相手につけたいと思って何が悪い。それに」
 ロイは薄っすらと笑って言った。
「消える時なんてあるわけないだろう?これから毎晩つけてやるんだから」
「…っっ?!」
 ロイの言葉にハボックの瞳が大きく見開かれる。思わずブランケットごとベッドの上を後ずさってロイに言った。
「まっ、まいばんっ?!」
「なんだ、不服なのか?」
「だってっ!!」
 唇を尖らせるロイにハボックは顔を引きつらせる。今だって体は気だるくてとても動く気にならない。散々にロイを含まされたそこは熱く熱を持ってまだ何か入っている気がする。いくらロイを愛していてもこんなことを毎晩繰り返されたら堪ったものではない。
「オレっ、死んでもいいって言ったっスけど、ヤり殺されるのはごめんですっ!」
「ヤり殺されるとはなんだ。お前、私に触れられたくないのか?」
「そういう問題じゃないっス!うわ、も、信じらんねぇっ!オレより年上のいい大人なくせしてっ!!」
「お前なぁっ!」
 あまりのハボックの言い草にロイはムッとするとハボックの腕を掴む。グイと引き寄せるとその空色の瞳を覗きこんで言った。
「大体夕べ“もっと”と言って私を離さなかったのはお前の方だろう?」
「嘘ッ!オレ、そんな事言ってないっス!!」
「覚えてないのか?だったら思い出させてやろうか?」
 剣呑な笑みを浮かべて圧し掛かってこようとするロイをハボックは慌てて押し返す。きつく首筋を吸われて悲鳴を上げると言った。
「ほんとに、も、痕つけないでくださ…っ」
「どうして?」
「死ぬほど恥ずかしいからっ!」
 ロイを押し返しながら紅い顔で言うハボックにロイが言い返す。
「別に構わないだろう?私以外誰が見るわけでもなし」
「オレが見ますよっ!見るたび恥ずかしくて憤死しそうっス!」
 ハボックはそう言うと「それに」と言葉を続けた。
「こんなもんつけなくたって、オレはマスタングさんのものっスから…っ」
 ロイはその言葉に僅かに目を見開いてハボックを見下ろす。
「オレの心も体も全部…全部マスタングさんのものっス。頭のてっぺんからつま先まで、オレが紡ぐ言葉も吐き出す息も、オレの過去も未来も…全部ぜんぶマスタングさんのものっスから…」
「ハボック…」
 驚いた顔で見下ろしてくるロイにハボックは笑った。
「何もかも全部アンタのものっス…。もしオレのこと要らなくなったら、その時はアンタの焔で燃やしてください」
 それくらいの我が儘ならいいでしょう?
 そう言って笑う空色の瞳にロイは顔を歪めると荒々しく口付ける。
「要らなくなるなんてことがある訳ないだろう…っ」
 ロイは呻くようにそう言うとハボックを抱き締めた。
「それに我が儘ならもっと他の事を言え」
 耳たぶを甘く食むようにして囁く。
「前に言ったろう?私はお前を甘やかしたい。だからもっと甘えて、我が儘を言ってくれ」
「…アンタに甘える?我が儘って…」
 囁かれる声に微かに体を震わせてハボックは繰り返した。少し考えるようにしてロイの肩口に顔を寄せると言う。
「傍にいさせて下さい…できることならずっと」
「っ、そういうのは我が儘とは言わないんだっ!」
 まったく、お前は、とブツブツ言いながら抱きしめてくるロイの腕に身を預けながらハボックは困ったように笑ったのだった。


→ 第四十二章
第四十章 ←