| 菫青石の恋 第二十五章 |
| 物凄い勢いで書類を片付けていくロイの姿にホークアイは苦笑する。今後仕事を溜め込むようならこの手を使えばいいかもしれないなどと思ったとき、司令室の電話が鳴った。 「はい、こちら司令室…。え?シュトフが?」 電話に出たフュリーが上げる声を聞きとめてロイが書類を書いていた手を止める。立ち上がると開け放たれたままの扉からフュリーに声をかけた。 「どうした」 「シュトフが取調べ中に逃げ出したそうです」 驚いて目を瞠るロイ達にフュリーが続ける。 「取調官が10分ほど目を離した隙に逃げ出したそうです。凶悪犯というわけでもなかったので見張りも甘かったみたいで…。大佐のことを酷く恨んでいるから注意してくれと」 ロイは目を見開いてフュリーの言葉を聞いていたが、突然物も言わずに司令室を飛び出していった。 「大佐っ?!」 「ハボックを連れてくるっ!」 驚いて声を上げるブレダに肩越しにそう怒鳴ると、ロイはハボックが待つ洋菓子店へと走っていった。 司令部から数分のところにある店へと辿り着けば、騒然としている店内にハボックの姿はなかった。顔見知りの店員がロイをみとめると駆け寄ってくる。 「マスタング大佐っ!」 「どうした、何があったっ?」 「それが…」 銃を持った男がハボックを脅して連れ去ったのだと聞いてロイは血の気が引く思いがした。 「どっちへ行った?!」 「あっちの、軍の倉庫がある方へ…」 ロイは店員が言い終わる前に彼が指し示した方角へと走り出していった。 シュトフはハボックの体を倉庫の中へと突き飛ばす。地面に倒れこんだハボックが慌てて振り返れば、背後から射し込む光に陰になった顔の中でシュトフの目だけがギラギラと輝いていた。ハボックはシュトフを刺激しないようにゆっくりと立ち上がると数歩後ずさる。途端に背中に当たった木箱に背を貼り付けるようにしてシュトフを見つめた。 「…私がいなくなってマスタングとよろしくヤっていたという訳か」 憎々しげにそう呟くシュトフをハボックは睨む。一度突きつけられた銃に目をやったがキッパリとした声で言った。 「マスタングさんはアンタなんかとは違う」 「違う?何が違うと言うんだ。どうせマスタングを咥え込んで善がっていたんだろう。どうだった、マスタングの味は?」 「マスタングさんを侮辱するな…っ」 静かに、だがきつく睨みつけてくる空色の瞳にシュトフはカッと頭に血を上らせる。銃を持った手で怒りに任せてハボックの頬と張るとその襟元に手をかける。かけた手を思い切り引けばシャツのボタンが千切れて飛んだ。 「ッッ!!」 息を飲んで木箱に身を預けるハボックにシュトフは銃を突きつける。 「脱げ。ズボンを脱いで脚を開け」 その言葉にハボックの目が見開かれる。だが、唇を噛み締めると言った。 「嫌だ」 「…なんだと?」 「嫌だと言ったんだ」 キッパリとそう言うハボックをシュトフは怒りに血走った目で睨む。ハボックに見せつける様にグッと銃を突き出すと言った。 「殺されたいのか…っ」 「撃ちたいなら撃てばいい」 即答で返って来る答えにシュトフは目を見開く。ハボックはシュトフをきつく睨んで言った。 「アンタなんて大嫌いだ。触れられる度ゾッとしてた。アンタに触られるくらいなら死んだ方がましだっ」 ハボックの言葉にシュトフはワナワナと震える。ギリと歯を食いしばると呻くように言った。 「私に触れられるくらいなら死んだ方がましだと…?散々私のモノを咥え込んでよろこんでいたくせに…薄汚い男娼に過ぎないくせによくもそんなことを…っ」 そう言ったシュトフの手にグッと力が入って銃口が火を噴く。ハボックのはるか上方の壁を弾丸が抉って、ハボックはヒクリと喉を鳴らした。 「赦さんぞ…思い出させてやる。お前がどれだけ私のモノを喜んで咥えていたか、どれ程スキモノの体をしているか思い出させてやるっ」 そう怒鳴ると同時に伸びてきたシュトフの手をハボックは払いのける。だがシュトフはハボックの髪を鷲掴むと強引に引き寄せた。そうしてズボンの上からハボックの蕾を撫でる。 「ここをひくつかせて挿れてくれと強請ったろうがっ!ここを突かれて数え切れないほどイッたのは誰だっ!」 そう罵られてハボックが苦しげに顔を歪めた。だがシュトフを思い切り突き飛ばすと木箱に背を擦り付けるようにして叫ぶ。 「触るなっ!!」 そう怒鳴ったハボックの唇が震えてため息のように助けを呼んだ。「マスタングさん…」と確かに聞こえた囁きにシュトフの怒りが沸点を越える。シュトフはギリギリと歯を食いしばると言った。 「赦さんぞ…お前は私のものだ。マスタングなんぞに渡すものか…っ!マスタングなんぞに…っっ!!」 シュトフが手にした銃をピタリとハボックに向ける。ギラギラと光る目にハボックは浅い呼吸を繰り返した。 「絶対に渡さんっっ!!」 (撃たれる…っっ) トリガーにかかった指にグッと力がこもるのを見たハボックは、逃げることも出来ずギュッと目を閉じた。 倉庫の立ち並ぶ一角に飛び込んできたロイはハボックの姿を探してきょろきょろとあたりを見回す。同じような倉庫が並ぶ中、どこかと探しあぐねていたロイの耳に銃声が聞こえてきた。 「…っっ!!」 聞こえたと同時にロイの足が地面を蹴る。ここだと思って飛び込んだ倉庫の中でシュトフがハボックに銃を向けているのが目に入ったのと同時に、ロイは発火布を嵌めた指をすり合わせていた。 襲い掛かってくるであろう痛みを歯を食いしばって待ち構えていたハボックは突然上がった悲鳴に閉じていた目を開く。目の前で銃を持っている手を焔に包まれて絶叫を上げるシュトフを、ハボックは信じられないものを見るように見つめた。慌てて入口に目をむければ怒りのオーラに包まれたロイが飛び込んでくる。ハボックが驚きに声をあげることも出来ずに見守る中、ロイは手を押さえて蹲るシュトフの襟首を掴んで立たせると思い切り殴った。 「ぐはっっ!!」 もはや抵抗する意思もないシュトフをロイは何度も殴りつける。無言のままシュトフを殴り続けるロイを呆然と見つめていたハボックは我に返るとロイの腕に縋りついた。 「やめてくださいっ!死んじゃうっスよ!!」 そう叫んで縋りついてくるハボックをロイは睨む。怒りに燃えた黒い瞳にゾクリと身を震わせて、だがハボックは必死にロイに縋ると言った。 「そんなヤツ、アンタが手を下す価値もないっス!だからやめてくださいっ!」 ハボックがそう叫べばロイはようやくシュトフを殴る手を止める。ぐったりと倒れ込むシュトフには目も向けず、ロイはハボックの肩を掴むと聞いた。 「…何をされた?」 低い唸るような声にハボックは目を見開くと小さく首を振る。ロイはハボックの唇に滲む血を指で拭うと言った。 「血が出てる」 「…殴られたけど、たいしたことないっスから」 そう答えて、ハボックは再び怒りの焔をその瞳に燃え上がらせるロイの体に縋りつく。必死にその怒りを宥めるように縋りつく手に力を込めた。 「たいしたことないっスから、ホントに大丈夫っスからっ」 ハボックはたとえロイが何と思おうとロイが自分の為にロイ自身の立場を危うくするようなことをするのは嫌だった。必死に縋り付いてくるハボックをじっと見つめていたロイは唐突にハボックを抱き締める。力任せにハボックを抱き締めながら言った。 「よかった…っ、お前になにんかあったら私は…っ!」 「マスタングさん…」 グイグイと抱きしめてくる腕を痛いと思いながら、それでもハボックはロイのするに任せていた。暫くしてやっと気がすんだのかほんの少し力を弛めるとロイはハボックの頬に手を添える。引き寄せて軽くあわせた唇が僅かに血の味がして、ロイは再び身の内に湧き上がってきた怒りのままにハボックを引き寄せるときつく舌を絡めた。 「んっ…」 ハボックが僅かに身を捩って逃げようとするのを赦さず深く唇を貪る。暫くして唇を離せばハボックが責める様にロイを睨んだ。微かに紅く染まる頬に指を這わせるとロイは苦笑する。 「お前が大事なんだ。例えそれが神だろうとお前を傷つけるものは赦さない」 「マスタングさん…」 ロイの言葉にハボックは僅かに目を瞠り、それからロイの肩に預けるように頬を寄せた。躊躇うように身を寄せてくるハボックをロイはしっかりと抱き締める。抱き締める腕の中に暖かい温もりを感じるにいたって、ようやくロイは安心したようにホッと息を吐いたのだった。 |
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