菫青石の恋  〜 Another ending 〜


 ベッドに移ってからもロイはハボックを貪り続ける。もう、自力ではどうにもならない体をロイに引き上げられて、ハボックはその身の奥深くにロイを迎え入れていた。ベッドヘッドに背中を預けて座るロイの上に跨りながらハボックは深い口付けを受け止める。まともに息もつけなくて息も絶え絶えになった体をロイに預けるハボックをロイはそっと抱き締めた。まだ繋がったままの下肢は互いの熱にべっとりと濡れて、ほんの少しでも身じろげばロイ自身を埋め込まれたその隙間から白濁が零れる。その感触に体を震わせてハボックはロイの肩口に頭を預けたまま囁いた。
「マスタングさん、知ってるっスか…?」
「何をだ?」
 ロイの声に少ししてからハボックが答える。
「神様はね、生まれた魂をふたつに割ってそれぞれを別の器に入れるんスよ…」
「魂をふたつに?」
「そう…だからこの世に生まれ落ちた魂はその片割れを探し続けるんですって」
 小さな声で言うハボックの体を抱きしめてロイは言った。
「では私とお前は元は1つの魂だったということか?」
 そう言えばハボックが嬉しそうに微笑む。
「元々1つだから…たとえ離れても必ず見つけ出すんだって」
「だから私達は今こうしていることが出来るわけだ」
 ロイはそう言うとハボックに口付けた。愛しい空色を見つめると囁く。
「愛してる、ハボック。愛してる…」
「オレも…。マスタングさん、オレも」
 そう言って抱き締めあうと、二人は互いの熱を求め続けたのだった。

 結局明け方まで求めあって、ロイは寝不足の頭を振りながら朝食をかき込むと慌てて出張の準備を済ます。コーヒーだけで朝食に付き合ったハボックに口付けると言った。
「毎日電話するから。無理はするなよ。何かあったら司令部に連絡を入れるんだぞ、ブレダ少尉によく頼んでおくから」
「大丈夫っスよ、子供じゃないんだから」
 そう言って笑うハボックが妙に小さく見えて、ロイは急に不安に駆られるとその体をギュッと抱き締める。
「お前も一緒に来ないか?やはり一人で置いておくのは心配だ」
「またそんな子供みたいなこと」
 ハボックはくすくすと笑うとロイに言った。
「オレなら大丈夫っスから。心配しないで」
 ね、と首を傾げるハボックをロイは心配そうに見つめる。ハボックは小さく笑うとロイの頬を撫でた。
「ちゃんと待ってますから。だからちゃんと仕事してきてくださいね。中尉に迷惑かけちゃダメっスよ?」
 子供に言い聞かせるようにそう言うハボックにロイは眉を顰めたが何も言わずに口付ける。ひとしきり舌を絡めあったあと、ゆっくりと離すと言った。
「じゃあ、行ってくるから。何かあったらすぐ――」
「はいはい、判ってますって」
 ハボックはそう言うとロイの背を押す。玄関の扉を開けたロイはハボックをじっと見つめた。ハボックは黒曜石の瞳ににっこりと笑うと言う。
「いってらっしゃい、マスタングさん。気をつけて」
「ああ。お前こそ無理するなよ」
「はい」
 頷くハボックの額に口付けてロイはバッグを手に取る。もう一度抱き締めたい衝動に駆られたが、キリがないと拳を握り締めて我慢した。
「行ってくる」
 そう言えばにっこりと微笑むハボックに背を向けてロイはゆっくりと歩き出す。門をくぐって振り向けばハボックが扉にもたれるようにしてこちらを見送っているのが見えた。駆け戻りたい衝動を抑えてロイは門を閉める。黒い門扉の向こうに見える背の高い姿から無理矢理視線を引き剥がすと、ロイは自分を待つ車に向かって歩き出した。走り出す車に乗ったロイは振り向いて外を見る。段々と小さくなる家が木々の向こうに消えた瞬間、ロイは突如湧き上がった不安にギュッと唇を噛み締めたまま、もう見えない姿を探すように窓の外を見つめ続けたのだった。

「全く、いい加減苛々する…っ」
 ロイは宛がわれた部屋の机に持っていたファイルを叩きつけるとドサリと椅子に腰を下ろす。ムスッとして目を閉じるロイにホークアイが苦笑した。
「あともう少しですから」
「それはもう聞き飽きた」
 セントラルについた途端帰りたいを連発するロイをホークアイは宥め続けてきた。それでもあと半日頑張れば帰れるというところまで辿り着くと、文句を言うロイの回りの空気も少しは苛立ちが消えてくる。ため息をつくロイにホークアイはコーヒーを差し出すと言った。
「それにしても今回はヒューズ中佐がご不在で残念でした」
 普段なら賑やかな中佐がロイを構ってこの苛立ちを少しでも解消してくれたのであろうが、タイミングの悪い事にロイが来る前日からヒューズ自身が出張でセントラルを空けていた。
「ああ、色々話もしたかったんだが」
 電話でならやり取りもあったが直接会って話したいこともある。ロイは1つため息をつくと言った。
「まあ、またの機会もあるさ。それにどうせならハボックを会わせたいし」
 ハボックとのことではヒューズにひとかたならず世話になった。その礼も兼ねてハボックを会わせたいのだと言えばホークアイが答えた。
「今度お二人でセントラルへ来られる時間を作らないとですわね」
「君の手腕に期待してるよ」
 ロイがそう言えばホークアイが苦笑する。その時、部屋の扉が鳴って司令室つきの士官が顔を出した。
「マスタング大佐、その、実に申し上げにくいのですが…」
「何だ」
 ジロリと睨まれて士官は竦み上がりつつ口を開く。
「その、こちらの手違いでまだふたつほどマスタング大佐のご協力を仰ぎたい案件が残っておりまして…」
 そう言った途端、物凄い勢いで睨みつけられて士官は短い悲鳴を上げた。ロイは士官を睨んだまま低い声で言う。
「断わる。私は予定通り午後の列車でイーストシティに帰る」
「マスタング大佐っ!」
 士官の声にロイはダンッと机を叩いた。
「もともとお前たちの不手際でわざわざ私が足を運ぶ事になったんだろうが。その上まだ引きとめる気か?ふざけるのも大概にしろ」
「大佐」
 ロイの言葉にホークアイが宥めるように口を開く。士官を促してホークアイが部屋を出て行くとロイは唇を噛み締めた。
「冗談じゃないぞ」
 ロイはそう呟くと机の上の書類をゴミ箱に放り込んだのだった。


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