| 菫青石の恋 〜 Another ending 〜 |
| 「ただいまっ」 ハボックはそう言いながら家の中に駆け込んでいく。ダイニングに飛び込めばロイがキッチンから顔を出した。 「遅かったな、もうメシが出来るぞ」 「すみません、ちょっと寄る所があったもんスから」 ハボックはそう言うと持っていた荷物を椅子の上に置き、キッチンへと入る。手を洗っているとロイが尋ねてきた。 「寄る所ってどこに言ってたんだ?」 「後で教えてあげます」 そう言えば不服そうな顔をするロイにハボックは苦笑する。 「食事が済んだらちゃんと教えますから、ね?」 小首を傾げてそう言えばロイが眉を跳ね上げた。 「それならさっさと食事にするぞっ」 そう言うロイにハボックは笑うと食器を取り出したのだった。 かき込む様に食事を済ませるとロイはハボックを急かす。後片付けを済ませたハボックがコーヒーのマグを手にリビングに来るとソファーに座ったロイがワクワクと目を輝かせてハボックを見た。 「はいどうぞ」 「ありがとう」 差し出されたマグを受け取ってロイは言う。 「で、なんの用事だったんだ?」 そう聞けばハボックは腰を下ろして紙袋を取り出した。中から箱を取り出すとロイに差し出す。 「私に?」 「はい、受け取って下さい」 「だが…」 躊躇するロイにハボックは言った。 「オレ、今までマスタングさんに色々してもらうばっかりで、だからその、今までのお礼にって…」 ハボックは上目遣いにロイを見ると小さな声で聞く。 「迷惑っスか…?」 「そんなわけないだろう。ただ突然だったから驚いた」 ロイはそう言ってハボックの手から箱を受け取った。リボンを解いて蓋を開けたロイは中に納められたものに目を瞠る。漆黒に輝く万年筆を取り出すとしげしげと見つめた。 「見事なものだ。オーダーメイドか?」 ロイはそう言うとキャップを取り外す。紙を取り出して自分の名前をしたためると満足そうに笑った。 「手にもしっくりくる。ありがとう、ハボック」 そう言われて嬉しそうに笑うとハボックは紙袋から小さな袋を取り出した。 「これはオレに」 「なんだ?」 「店のご主人が左手の小指に嵌めておくと願いが叶うって」 そう言ってハボックが取り出したものを目にしてロイが驚きの声を上げる。 「リング?」 「マスタングさんの万年筆とお揃いなんスよ」 そう言うハボックの手のひらからロイはリングを取り上げて目の高さに持ち上げた。金色のリングには火蜥蜴の模様と小さなルビーがあしらってある。ロイはリングを指で摘むとハボックの手を取った。それをハボックの指に嵌めてやると言う。 「薬指につけるリングは私が買ってやるからな」 そう言って薄く笑うロイにハボックが頬を染めた。 「薬指って…」 「嫌か?」 「…んなことっ」 慌てて首を振るハボックにロイが言う。 「それじゃあ今度一緒に買いに行こう。今すこしバタバタしてるがそれが終われば時間がとれるから、そうしたら一緒に」 そう言われれば嬉しそうに笑うハボックをロイは引き寄せた。 「で、お前の願い事っていうのは何なんだ?」 ハボックの耳元でそう囁けばハボックの体が震える。ハボックはそっと目を伏せると答えた。 「ナイショっスよ」 「どうして…?」 「願い事は口に出したら叶わないっていうのが相場でしょ」 「私にくらい教えてくれたっていいだろう?」 ロイはそう言うとハボックの耳を噛む。ビクッと震えてだがロイを押しやるとハボックは答えた。 「ダメっス」 絶対に言う気はないと言う顔をするハボックにロイは低く言う。 「それじゃ体に聞くとしよう…」 ロイは言うと同時に噛み付くように口付けたのだった。 散々に貪って、気を失うように眠りについたハボックの体をロイはそっと抱き締める。結局攻め立てられて耐え切れずにハボックが口にした「願い事」は「いつまでも一緒にいたい」というささやかなものだった。 「そんなこと願わずとも離すはずなどないのに…」 ロイはそう言うとハボックの髪を梳く。ハボックと離れるなどそんなことは考えることも出来ない。こんなにも深くハボックを愛することが出来て、ロイはその幸せを噛み締める。 「愛してる、ハボック…。ずっとずっと一緒だ」 ロイはそう囁くと穏やかな寝息をたてる唇をそっと塞いだのだった。 「ハボック、すまんが今夜も遅くなりそうなんだ」 出かける支度をしながらロイが言う。ここ数日、ロイは夜遅く、ひどい時には明け方近くならないと帰れない日々が続いていた。ハボックは軍服の上着をロイに渡しながら答える。 「オレは大丈夫っスけどマスタングさんこそ無理しすぎないで下さいね」 心配そうに言うハボックの頬を撫でてロイが言った。 「顔色がよくないな、大丈夫か?」 「平気っス。夕べ、よく眠れなくて」 「そうなのか?私が出かけたら少し眠りなさい」 「でも、今日バイトの日だし」 「ハボック」 睨んでくるロイにハボックは黙り込む。ロイはハボックの目を覗き込むと言った。 「そんな調子でお前が出かけてると思ったら私はおちおち仕事もしていられん。今日は家で休んでいなさい」 そう言われてハボックが頷くのを見るとロイはホッと息をつく。その頬に口付けて言った。 「それじゃ行ってくるから、ちゃんと休んでるんだぞ」 「はい、いってらっしゃい、マスタングさん」 ハボックは何度も同じことを繰り返すロイの背を笑いながら押し出すと扉を閉める。迎えに来ていた車が走り去る音を聞くとホッと壁に寄りかかった。眉を寄せて胸の辺りのシャツを握り締めると浅い呼吸を繰り返す。暫くそうして壁に寄りかかっていたハボックはゆっくりと体を起こすとリビングへと足を向けた。 (変だ…どうしたんだろ、オレ) これまでも体調を崩したりしたことはあったが今度のはそれとは違う気がする。ハボックは緩く首を振るとソファーにドサリと腰を下ろした。ぐったりと身を預けていたが時計の針を確認すると立ち上がる。 (休むって電話しなきゃ…) ハボックはそう考えて受話器を取った。喫茶店の番号を回して暫く待てばマスターの声がする。暫くボーッとその声を聞いていたハボックは何度も不思議そうに「もしもし」と繰り返すマスターに、ハッとすると口を開いた。 「すみません、ハボックですけど」 『ああ、返事がないから切るところだったよ』 そう言って苦笑するマスターにハボックはもう一度詫びると休みたいと伝える。心配するマスターに大した事ないのだと告げてハボックは受話器を置いた。体中に嫌な汗をかいたハボックはゆっくりと息を吐く。 (寝よう。休んだら平気…) ハボックはそう自分に言い聞かせると壁に手をつきながらリビングを出て階段を上がっていったのだった。 |
→ next prev ← |