| 続ハイムダール国物語 第八章 |
| 「さあ、みなさま!カウィル城に着きましたぞ!」 アームストロングが腕を上げて城を指し示しながら大声で言う。ロイは黒曜石の瞳を輝かせて懐かしい城を見上げた。城の門をくぐったハボック達は、長い道のりを越えて自分達をここへ運んでくれた愛馬から降り馬丁へその轡を渡す。先導するアームストロングについて城の入口へ向かうハボックの耳に居並ぶ兵士達が囁く声が聞こえた。 「ロイ様だ」 「ロイ様がお帰りになった」 「相変わらず凛としてお美しい」 「ロイ様」 「ロイ様」 耳に届く囁き声を聞くにつれ、ハボックの眉間の皺が深まっていく。同じように囁き声を聞いていたティワズが、笑みを浮かべて言った。 「随分人気がおありのようですね、ロイ様は」 「……ムカツク」 「兵から慕われるのはいいことでしょう?若だって同じようなものじゃありませんか」 「全然違うだろっ」 ムッと唇を歪めて答えたハボックは、並んで歩くロイが兵達に向かって笑みを浮かべながら向けられる視線に頷いている事に気づく。そうすればロイの視線の先の兵達が感動のため息を零しているのを見て、空色の目を吊り上げた。 「ロイ」 「ん?なんだ、ハボッ────」 呼びかける声に答えながらも視線は兵達へ向けたままだったロイは、いきなりグイと腰を引き寄せられてびっくりする。驚いてすぐ側のハボックの横顔を見上げたロイは、慌ててハボックの腕を振り解こうとした。 「おいっ、離せ!恥ずかしいだろうっ」 「いいじゃないっスか。夫婦なんだし」 「ティワズに言われたろう?いちゃいちゃするなって」 「いちゃいちゃなんてしてないっス」 顔を赤らめて小声で囁くロイの顔を見ずにハボックは答える。何とかして腰に回された手を解こうとするロイに、ハボックは言った。 「こうしてりゃアンタの従兄弟や妹に一発でオレがアンタを大事にしてるって伝わるっしょ。それともオレにこうされんの、嫌なんスか?」 そう言ったハボックがギロリと空色の瞳で睨んでくる。その不機嫌な色に、ロイは目を丸くして言った。 「お前、何を怒ってるんだ?」 「別に怒ってなんかないっス」 「嘘つけっ」 どう見てもハボックが不愉快なのははっきりしている。ロイがなおも言い募ろうとした時、ティワズが言った。 「お二人とも、そろそろですよ」 気がつけば城の入口を抜けていた一行は絨毯が敷き詰められた通路を奥へと進み、目の前に大きな扉が迫ってきている。いよいよこの先にカウィルの王達が待ち構えているのだと気づけば、ハボックとロイは互いに顔を見合わせ頷きあった。 ギィィと軋んだ音を立てて、大きな扉が開いていく。ハボックは中へと続く絨毯の先に設えられた玉座目指して、居並ぶ諸侯たちの間をロイと並んでゆっくりと歩いていった。玉座の手前で先導していたアームストロングが足を止める。膝を折り 「ハボック様と皆様方をお連れいたしました」 「うむ、ご苦労であった、アームストロング候」 カウィル王の言葉にアームストロングは頭を下げ、脇へと退く。王との間に誰もいなくなると、ハボックはロイの腰へ回していた手を離し一歩前へ進み出た。 「初めてお会いする、カウィル王。オレはハボック。ハイムダールの第一王位継承者にしてロイ・マスタング公の伴侶。此度はハイムダールとカウィルの親善を深める為に参った」 そう言って優雅に一礼するハボックをティワズの紅い瞳が満足げに見つめる。空色の瞳で真っ直ぐに見つめてくるハボックに、カウィル王は笑みを浮かべて答えた。 「遠路よくぞ参られた、ハボック殿。カウィルは貴殿と皆様方を歓迎する」 立ち上がってカウィル王が歓迎の意を示せば、ハボックは笑みを浮かべて肩越しにティワズに視線を送る。それに答えて、ティワズは控えていた従者に前へ出るよう促した。 「まずはハイムダール王からの親書を」 ハボックはそう言って懐から取り出した親書をカウィル王へ手渡す。それから従者が掲げていた台の上から箱を取り上げ蓋を開けた。 「ハイムダール王家に代々伝わるものの一つです。これを」 そう言ってハボックが差し出した箱の中で、大粒の宝石が広間の灯りにキラキラと目映い光を零す。感嘆のため息が広間のあちこちで聞こえる中、カウィル王は感謝の意を込めて笑みを浮かべた。 「ハイムダールの誠意、しかと賜った。ハボック殿と皆様方にはどうぞカウィルでごゆるりと過ごされるよう。精一杯のもてなしをさせて頂きましょう。ハイムダールとの親善を深められればなにより」 「ありがとうございます。オレもこれを機に貴国の事をもっと深く知り、同盟に役立てたいと思っています」 ハボックが言えばカウィル王が手を差し出す。その手に己の手を重ねてハボックが親愛の情を示せば、カウィル王が声を上げた。 「酒を!今宵はハイムダールとの親交がさらに深まっためでたい日だ!ハイムダールとカウィル、そしてハボック王子のために」 王の言葉に答えて広間に居並ぶ諸侯たちに酒が振る舞われる。皆の手にほぼグラスが行き渡ったと見ると、カウィル王は手にしたグラスを高く掲げた。 「乾杯!」 「「「乾杯!!!」」」 王の声に続いて広間中からハイムダールとカウィルの結び付きが深まった事を祝う声が上がった。 |
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