| 続ハイムダール国物語 第五十四章 |
| 「さあ、どうします?若」 「どうするって言われても」 どの程度の衝撃であのボールが破裂するのか判らない。手から取り落とした程度でも破裂するのか、地面に叩きつけなければ割れないのか現時点で判らない以上、何とかしてあの毒ガスが詰まったボールをローゲの手から取り上げるしかなかった。 「っていうかさ」 と、ハボックはふと浮かんだ疑問に眉を寄せる。ハボックがその疑問を口にする前にティワズが言った。 「あれをこの狭い場所で破裂させたら自分も毒ガスを吸うんじゃないかって気がしますね」 「あ、やっぱり?そうだよな、屋外ならまだしもこんな狭い場所じゃ共倒れだ」 そうだとすればローゲも口ではああ言いながらもすぐには使ってはこないのではないだろうか。それならまだ慌てずとも時間はあると思うハボックの耳に、ティワズの声がした。 「もっとも貴方を殺せれば共倒れだろうが構わないと思っている可能性もありますがね」 「────ヤなこと言うなよ、ティ」 なるべく考えるまいとしていたことをはっきりと言葉にされて、ハボックは情けなく眉を下げる。それでも一つ息を吐いて、ボールを握り締めるローゲをじっと見つめた。 「まあいいや。いずれにせよアイツからボールを取り上げればいいんだろう?」 「危ない真似だけはしないでくださいね」 スッと目を細めてローゲを見つめるハボックにティワズが釘を刺す。その言葉に唇の端に笑みを浮かべて、ハボックは一歩踏み出した。 「いいさ、投げられるものなら投げてみろ。その中に詰まっているのが本当にマカイロドゥスをも一撃であの世に送れるほどの毒ガスだと言うなら、そいつを破裂させた途端お前も諸共に死ぬんじゃないのか?だとしたらお前のそれは単なるポーズだろう?」 そう言いながらもう一歩ハボックはローゲに向かって踏み出す。その様を黙って見ていたローゲの顔にニヤリと勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。 「この俺がそんな事も考えていないと思っているのか?俺にはこの毒は効かんのだ」 「効かない?どうして?」 言いながらもハボックは少しずつローゲとの距離を詰めていく。その後をティワズが何かあればすぐさまハボックを護れる距離でついていった。 「俺は常日頃から少しずつこの毒を接種しているからな。耐性があるんだ」 「耐性?毒が体内に蓄積されている、の間違いじゃないのか?あとほんの少し毒が体内に入れば、ぽっくり死んじまうんじゃないのか?お前のような愚かな薬師ならそんな見誤り、幾らでもしそうだからな」 「なんだとッ?!」 半ば嘲るように言うハボックの言葉に、顔を真っ赤にしたローゲが更に目を吊り上げる。怒りのあまりハアハアと息を弾ませるローゲの様子に、手にしたボールをいきなり叩きつけてしまうのではとティワズは内心ハラハラしながら二人のやりとりに耳を傾けた。 「愚かなのはお前の方だ、ハボック王子。結局お前が俺の素晴らしさを知るのは死ぬ直前だと言うことにまだ気づかないのだからな」 ローゲはニヤリと笑って言うと手にしたボールを掲げてみせる。 「さあ、愚かな王子にもう一度だけチャンスを与えてやる。今すぐそこで床に額を擦り付けて赦しを乞え。これまでの非礼を詫びて俺をハイムダール王家の薬師として迎え入れたいと言うなら赦してやらないでもないぞ。苦しみに喉を掻き毟って死ぬのはいやだろう?」 ハボックが自分の前に平伏す事を信じて疑わない男に、王子は哀れむように言った。 「折角だが我がハイムダールにはお前が足下にも及ばない素晴らしい薬師が幾らでもいるんでな。お前はカウィルの埃塗れのこの屋敷で臭い鍋でも掻き混ぜていたらいいさ」 「な……ッ!なん……ッ!」 肩を竦めて言うハボックをローゲは怒りに体を震わせて睨む。 「そうか、もういい。貴様のような愚かな王子は今ここで死ぬがいい……ッッ!!」 呻くようにローゲがそう言った時。 「ハボックッ!!」 乱れた足音と共にロイが駆け込んできた。 |
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