| 続ハイムダール国物語 第五十一章 |
| 「くく……ッ、待っていろ、ロイ王子ィ……今から行くからな」 ローゲは低い声でクツクツと笑って梯子に足をかける。ギシギシと音を立てて梯子を上りきると屋根裏に上がる入口から顔を出した。縁に手をかけグイと体を引き上げる。そこここに物が置かれた狭い空間をニヤニヤと笑いながらゆっくりと調べていった。 「どこだ……?────ここか!」 叫ぶと同時に積み上げられた袋を払うように崩す。だが、袋の陰には誰もおらず、ローゲはチッと舌打ちした。 「ここじゃなければ────こっちかッ!」 ゆっくりと歩きながらローゲは布をはね上げる。しかし、そこにも期待した怯えた瞳は見つけられず、ローゲは苛々と手にした布を床に叩きつけた。 「王子ともあろうものが鼠のようにこそこそ隠れるかッ?諦めて出てこいッ!さもないとこの薬を今すぐぶちまけるぞッッ!!」 ローゲは大声で叫んで手にした瓶を高々と掲げた。 梯子に足をかけた時、男の大声と足音が聞こえてロイは慌てて降り口のすぐ側に置いてあった空袋を引っ掴む。咄嗟に自分の前に垂らして袋の陰に身を潜めた直後、男が梯子に足をかける音が聞こえた。ギシギシと軋む音と共に男の頭がヌッと降り口から覗く。目と鼻の先のこちらの呼吸を感じられるような距離に男が上がってきて、ロイは息を飲んだ。男との間を隔てる薄い布袋の陰で息を潜めていれば男はすぐ背後にいるロイには気づかず屋根裏部屋をゆっくりと歩いていく。「ここかッ!」と物陰を覗いてもロイの姿がないことに苛ついた男が手にした瓶を掲げて怒鳴り声を上げたのとほぼ同時に、ロイは降り口から身を投げるように梯子に飛びついた。 怒鳴る男の声がする方へ走っていったレイヴは、梯子を上がった男の体が屋根裏の入口へと消えるのを見る。ロイを探して屋根裏を歩き回る男を追って上に上がるべきか、レイヴは瞬時に判断出来ず梯子の下から上を見上げた。 「どうする……ッ?」 追うべきか留まるべきか、梯子に手をかけたレイヴが考えを巡らせた時。 「えっ?」 ポッカリと開いた屋根裏への上がり口から何かが飛び出してくる。梯子に飛びつこうとして上手く行かずそのまま落ちてきたのがロイだと気づいた時には、細い体がレイヴの上に降ってきていた。 「うわッ!」 「わあッ!」 それでもレイヴは体勢を崩しながらなんとかロイを受け止める。そのままもつれ合うように背後に倒れ込んで、レイヴは慌ててロイの肩を掴んでその顔を覗き込んだ。 「ロイ様ッ?大丈夫ですかッ?」 「レイヴっ?」 ロイは受け止めてくれたのがレイヴだと気づいて目を丸くする。二人が互いに何か言うより早く、頭上から恐ろしい声が降ってきた。 「ロイ王子ィッッ!!逃がさんぞッッ!!」 ハッとして頭上を降り仰いだ二人は、男が薬の瓶を高く掲げるのを見る。倒れ込んで立ち上がる事も出来ないまま、二人は命を奪う雨が降ってくるのを目を見開いて見つめた時。 「ロイッッ!!」 大した役にはたたないと判っていながらも庇うように腕を上げたロイの耳に待ち続けた声が聞こえる。次の瞬間フワッと風が巻き上がって、ロイとレイヴの上に大柄な体が覆い被さってきた。 「ハボックッッ!!」 ジュッと革が焼ける嫌な臭いがしてロイは目を見開いてハボックを見上げる。ハボックは薬で穴のあいたマントを外して放り投げるとロイの腕を掴んで引き起こした。 「レイヴ!」 「大丈夫ですッ!」 自力で起きあがったレイヴとロイを背後に庇うようにしてハボックは梯子から数歩後ずさる。次の瞬間、ローゲが半ば落ちるように梯子を滑り降りてきた。 「貴様ァッッ!!」 あと少しというところでロイに薬を浴びせ損ねたローゲが怒りに血走った目でハボックを睨む。空になった瓶を床に投げつけて、ローゲは呻いた。 「よくも……ッ!あと少しでロイ王子に薬を浴びせてやれたのにッッ!!その白い肌をどろどろに焼け爛れさせて苦しめて殺せたのにッッ!!」 「悪いがそんな事、させるわけにはいかない」 口角から泡を飛ばして怒鳴るローゲにハボックが冷ややかに言う。ハボックは足音でティワズが来たのを察すると、背後の二人をティワズの方へ押しやりながら言った。 「ローゲ。お前がカウィル王家に抱いているそれは単なる逆恨みだ。そんな物のためにロイを傷つけさせるわけにはいかない!」 「……なんだと?」 きっぱりと言うハボックにローゲがぶるぶると唇を震わせる。 「ハボック王子……邪魔をするなら貴様も同罪だ、ロイ王子諸共貴様もこの場で殺してやるッッ!!」 大声で叫んだローゲがベルトから引き抜いた剣を手にハボックに襲いかかってきた。 |
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