| 続ハイムダール国物語 第四十七章 |
| 「このあたりの筈ですっ、レイヴから連絡があった場所はっ!」 レイヴからの知らせを受けて全速力で馬を走らせながらリザが叫ぶ。ドドドと地響きをたてて走る馬の鐙に足をかけ、前のめりになりながら辺りに目を走らせていたティワズが声を張り上げた。 「若ッ!リザ様ッ!お待ちくださいッ!」 大声を上げながらティワズは手綱を引いて馬のスピードを落とす。もの凄い勢いで走る馬たちの間を少し戻って、ティワズは道沿いの木立に縛られた赤い紐を見つけて手を挙げた。 「ここに印が!」 そう言えば先へと走っていってしまっていたハボック達が戻ってくる。ティワズが指し示す印を見て、リザが頷いた。 「ここから入っていったんですわ」 「ああ、急ごう」 リザの言葉に頷いてハボック達は馬を下りる。部下に馬を任せて木立の中に入ると、所々に結ばれた印を頼りに奥へと進んでいった。 「水の音がする」 進めば徐々に聞こえてくる水音に気づいてハボックが呟く。暫く行くと目の前に広がる川にハボックは目を見開いた。 「ここから逃げたのか」 こんな川の流れに乗って逃げられたのでは追跡のしようがないのではあるまいか。浮かんだ考えに低く呻くハボックの耳にティワズの声が聞こえた。 「貴方らしくないですよ、若」 「ティ」 振り向くハボックにティワズが言う。 「いつもいつも向こう見ずに突っ走って、私をやきもきさせるのが貴方でしょう?こんなところで迷って立ち止まるなど、そんなの若じゃありませんよ」 言って見つめてくる紅い瞳をハボックは目を見開いて見つめる。顔をクシャリと歪めて、ハボックは言った。 「ヒドいよ、ティ。オレだって昔よりは随分考えて行動するようになったんだから」 「そうですか?ではよく考えて行動なさって下さい」 ハボックの言葉にティワズは肩を竦めて言う。そんなティワズにイーッと歯を剥き出してハボックは言った。 「リザ!どこかに船はないの?」 「リザ様!こちらに小屋があります!」 ハボックの質問にリザが口を開くより早くリフの声がする。視線を交わして足早に声の方へと行くと、小屋の前に立つリフの姿が見えた。 「こちらです!中に船もあります!」 そう聞いてハボック達は小屋の中へと入る。力を合わせて引っ張り出した船を見下ろしてティワズが言った。 「この船ですと精々四、五人と言ったところでしょう」 「オレとティ、リザと後リフ、君も来てくれ。一人は城に伝令を、残りは馬のところまで戻って待機」 ティワズの言葉を受けてハボックが即座に指示を出す。ハボック達が船に乗ると、残ることになった兵士たちが船を川へと押し出した。 「お気をつけて!」 「ロイ様をッ!どうぞロイ様を無事にお助けして下さいッ!」 口々に叫ぶ兵士たちに手を振って、ハボック達は川の流れに船を乗せてロイを助けるために進んでいった。 「こんなところに屋敷が……」 木立の合間に見えた煮炊きの煙を目印に船を支流に入れたレイヴは、流れが行き着く先の池の湖畔に建つ屋敷を見つけて呟く。その屋敷の煙突から先ほど見えた煙が上がっているのを確かめて、レイヴはゆっくりと船を岸に近づけていった。 「間違いない」 簡素な船着き場に繋がれた船を見てレイヴは呟く。先に停まっていた船に続くように船着き場に船を寄せると、レイヴは舫い綱を手に岸に飛び移った。船を岸に結びつけてレイヴは屋敷を見上げる。一つ大きく息を吸って吐くと腰を屈めてゆっくりと屋敷へと向かって行った。 「…………」 玄関は避け屋敷の外壁に沿って歩いていく。煙の上がる煙突の近くの窓の下に身を屈めたレイヴは、そろそろと立ち上がって中を覗き込んだ。 (誰もいないのか……?) 鍋が火にかかっているのが見えるが近くに人はいないようだ。鼻を突く嫌な匂いにレイヴは袖を顔の下半分に当てる。どうしようかと逡巡するレイヴの耳に狂ったような笑い声が聞こえて、レイヴは目を見開いた。 「ロイ様……っ」 ロイの声は聞こえてこない。中はどういう状況なのか、そもそも犯人が何人いるのかも判らない現況では流石に今すぐ飛び込む訳にもいかず、レイヴはギリと唇を噛み締めた。 (あの船に乗ってきたのは一人か……。だが元々この屋敷にもいたかもしれない) ロイの無事を確かめたいと気は逸るが、だからといって考えなしに飛び込むようなそんな愚かさはリザの部下であるこの男にはなかった。 (とにかく中の様子を探らねば) レイヴは焦る気持ちを落ち着けるように深く息を吸い込むと、足音を忍ばせて屋敷に沿って歩いていった。 |
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