続ハイムダール国物語  第四十二章


「ハッ!ハッ!」
 レイヴは鐙に踏ん張り前のめりになるようになるようにして馬を走らせる。道に残る幾つもの轍の跡から目指すものを見分けながら、レイヴは必死にロイを連れ去った荷馬車の後を追った。
「くそッ!お側にいながらみすみすロイ様を奪われるとは……ッ!」
 リザ直属の部下として仕えるようになって数年、ロイのことは主人の兄として近くに接する機会もたびたびあった。聡明なロイを自国の王子としても尊敬し、何れはリザを通して彼のためにも働く事になるのだろうと思っていただけに、ロイがハイムダールに嫁ぐことになったと知った時は本当に驚き男同士の婚姻がロイと更にはカウィルにもたらすものを心配もした。それでも、夫であるハボックと共に里帰りしたロイの幸せそうな様子に随分と安堵したのだ。このハイムダールの親善使節の訪問を機に、カウィルとハイムダールの繋がりがより一層強固なものとなり、両国が共に発展していくものと信じていた矢先の事件に、レイヴは怒りに震えながら馬を走らせていた。
「一体どこの誰がこんな真似をッ」
 レイヴは馬の進む先を睨むように見つめながら呻く。今頃リザ達がこんな事をしでかした不届き者の正体を突き止めているだろうかと思いながら馬を走らせれば、さしかかった別れ道にレイヴは馬の速度を弛めた。
「────こっちか」
 道に残る跡に目を走らせて、レイヴは行く道を確認する。レイヴは踵で馬の腹を蹴ると、再びスピードを上げた。
「随分と道が悪い……ッ」
 馬で走っていてもそう感じるのだから荷馬車でなら尚更だろう。
「ロイ様ッ」
 こんな道を走る荷馬車に積まれた木箱の中に押し込まれたロイの身を思えば怒りが募る。
「早く……ッ!早くお助けせねばッ!」
 なんとしても追いつかねばと、レイヴは更に馬のスピードを上げた。


 ローゲは手にした櫂を突き出た岩に突き立て船の向きを変える。右に左にと船を操りながら、ローゲは辺りを流れる景色に目を走らせた。川の幅が広くなり流れが緩やかになってくる。ローゲは櫂を使って船をゆっくりと川縁に寄せていった。川縁に幾つもある細い流れへと別れる箇所の一つに船を入れると、ローゲはゆっくりと船を進めた。やがて細い流れは小さな池へと流れ込む。ローゲは池の辺に打ち寄せる波に乗るようにして、船を岸辺へと近づけた。岸辺の簡素な船着き場へ船を寄せ、舫い綱を手に船から飛び移る。綱を引き寄せ船をしっかりと結びつけると、ローゲは大きく息を吐いた。ロイを入れた木箱をそのままにローゲは池の畔に建つ小さな家へと歩いていく。懐から鍵を取り出し扉を開けたローゲの唇が笑みの形に歪んだと思うと、喉奥からクツクツと低い笑いが零れた。
「さあ、ついに愛の巣にたどり着いたぞ。これからたっぷりと愛を育もうとしよう、ロイ王子」
 ローゲは楽しそうに言うと一度家から出て裏に回り台車を取ってくる。船に戻り放り投げるようにして木箱を船着き場に上げると、台車に乗せ家へと運んだ。開け放ったままの扉から中へと入り更に奥の部屋へと入る。部屋に置かれたベッドの側に台車を止めフゥと息を吐いた。
「さて、息はあるかな……出来れば生きていて欲しいもんだが」
 死んでいても辱めを与える方法があるとはいえ、やはり恐怖に歪む顔を見ながら苦痛を与えるのに勝る楽しみはない。ローゲは期待に胸を膨らませて木箱の蓋を取り外すと中を覗き込んだ。
「ふむ……どうやら楽しい時間を過ごせそうだ」
 木箱の中、ぐったりとして気を失っているもののロイの息がある事を確認してローゲはニタリと笑う。ロイの体を木箱の中から引きずり出しベッドに横たえた。手足を縛る縄を解き猿轡を外す。涙に濡れた白い頬を掌で撫でて、ローゲは言った。
「気を失ったままではつまらんからな。お前が目覚めるまでに恐怖と苦痛を与えるためのとっておきの準備をしておいてやろう」
 ローゲはクスクスと笑いながらロイの頬を撫で続ける。
「最高に楽しい時間を過ごそう、ロイ王子」
 そう囁いてロイの唇にキスを落とすと、ローゲは部屋を出ていった。


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