続ハイムダール国物語  第四十一章


 ドドドと地響きを響かせて通りを疾走する騎馬の集団に、人々が慌てて脇によける。狭い路地の入口に立っていた兵士が、進路を遮るように通りの真ん中に立って両手を高く上げた。
「リザ様ッ」
 その姿に馬達が速度を落とす。それでも止まりきれずに慌てて脇によけた兵士の前を駆け抜け、蹄を鳴らして戻ってきた。
「リフ!」
「お待ちしておりました、リザ様!」
 そう言う部下に頷いて、リザは馬を降りる。同じように馬を降りて駆け寄ってくるハボック達を待って、リザは言った。
「案内を」
「はい、こちらです」
 リフは厳しい表情を湛えるハボック達に一礼して道を示す。先に立って足早に歩くリフについて、ハボック達は古びた家が立ち並ぶ狭い路地へと入っていった。靴音も荒く歩いていけば視線を感じて、ハボックは左右に目を走らせる。そうすれば不安そうに窓から覗いている住民たちと目があって、その途端彼らはハボックの怒りに触れるのを恐れるように中へと引っ込んでしまった。
「この家です」
 聞こえた声にハボックは視線を正面へと戻す。目の前に建つ一際古い家の扉を押し開いて、リフは言った。
「我々がここへ来た時にはもう誰もおりませんでした」
 そう言うリフに続いてハボック達はドカドカと家の中に踏み込む。中は小さなテーブルと椅子が置かれた部屋とそれに続く台所、その奥には寝乱れたベッドと壁一面が本棚になった寝室、物置代わりに使われているらしい小さな部屋があった。
「家の所有者は誰だ?」
 ハボックは部屋の中を見回しながら言う。本や書類が散乱した部屋の机の上には薬の調合に使われる秤やすり鉢がいくつも置かれ、台所の棚には薬草と思われる葉や根っこを入れた瓶が数え切れないほど納められていた。
「ローゲという男です。周りの住民の話ではこの家からはいつも薬草を煎じるような臭いが立ちこめていて、かなり苦情も出ていたようです。ただ、文句を言いに家を訪れた住民が何やら薬を浴びせられて大怪我をした事があったとかで、それ以来どんなに酷い臭いがしても誰も文句が言えなかったとか」
 リフの説明を聞きながらハボック達は家の中を調べて回る。残された薬品の臭いを嗅ぎ積み上げられた書類や手紙を引っかき回しているとティワズが言った。
「ローゲと言う男。どうやらカウィル王家にかなりの恨みがあったようですね」
「どういうこと?ティ」
 ティワズの言葉を聞いてハボックが見ていた書類から顔を上げる。近寄ってくるハボックにティワズは見つけた姿絵を差し出した。
「これ……ッ」
 カウィル王家の一族を描いた姿絵のあちこちにナイフで刺したと思われる痕が残っている。その上薬品を垂らしたのだろう、現国王やヒューズ、ロイ達の顔の部分が焼け爛れていた。
「なんて酷い……」
 ハボックが手にする姿絵を見て、リザが息を飲む。悪意の痕が刻まれた姿絵を見つめていたハボックが囁くように言った。
「もしロイがローゲに連れ去られたのだとしたら、ロイは……」
 この姿絵にしたことと同じ事をロイにするのではないか。自分で口にした言葉に衝撃を受けて、ハボックの体が大きく震える。次の瞬間闇雲に飛び出していこうとしたハボックの腕をティワズが掴んだ。
「若ッ」
「離せッ!今すぐにロイを助けないとッッ!!」
 大声で叫んで腕を掴む手を振り払おうとするハボックに、だがティワズはガッチリと掴んだまま離そうとはしなかった。
「離せ、いくらティでも邪魔するなら切り捨てる」
 低く地を這うような声で言って、ハボックは剣に手をかける。だが、ティワズは怯むことなくハボックを間近から見つめて言った。
「ローゲの行方はリザ様の部下が追っています。そう遠からず連絡が入るでしょう。その時に確実にローゲを追いつめられるよう、私たちは出来るだけの情報を集めなくてはなりません。判りますね、若」
「〜〜ッッ!!」
 ティワズの言葉にハボックは顔を歪め歯を食いしばる。それでも大きく息を吐くと体から力を抜いて顔を背けた。
「離して、ティ。時間がない」
「はい。急ぎましょう」
 内心の怒りと葛藤を滲ませる声で言うハボックに答えて、ティワズは掴んでいた腕を離す。ハボック達はロイを助け出す為に一つでも多くの情報を得ようと、乱雑に散らかった部屋の中を調べていった。


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