| 続ハイムダール国物語 第三十四章 |
| 「リザ様」 入口へと続く階段を上り図書館のホールに入ったリザは、柱の陰からかかった声に足を止める。少し先を行くロイ達に目をやり、少し迷ったものの一行から離れて声のする方へと足を向けた。 「何か判ったの?」 「いえ、それが」 と、柱の陰に跪く影から困惑と僅かな焦りを滲ませる声が返る。 「ホヅルに接触していた男の調査に当たっていた者の行方が判らなくなりました」 「何ですって?」 思いがけない報告に表情を険しくしてリザが先を促せば影が続けた。 「昨夜遅くその男の居場所を突き止めたと連絡があり、その周辺を探っていたのですが、その後連絡が取れないのです。今、他の者を最後に連絡があった場所へ向かわせておりますが」 報告を聞いてリザは手を唇に当て考える仕草をする。少ししてリザは影に向かって言った。 「何か適当な理由をでっちあげてその男がいたという場所に踏み込みなさい────もう、遅いかもしれないけど」 今更踏み込んだところでおそらくはもう逃げた後だろう。だが、城の兵士達の中でも手練中の手練であるリザの直属の部下の追求の手を逃れたのだとしたら、逃げた男の存在はカウィル王家にとって大きな驚異となるはずだった。 「今後単独での行動は禁止。必ず二人一組で行動させるのを徹底して。一刻も早くその男の正体を突き止めて拘束するのよ」 「はい、リザ様」 影は深く頭を下げると姿を消す。その時にはリザはもう先に図書館の奥へと進んでいったロイ達に合流するため、足早に歩きだしていた。 ハボックやロイと共に図書館の中へと入ったティワズは天井まで届く巨大な本棚の列をゆっくりと見回す。手を伸ばし手近の本を取りだしパラパラとめくると元の場所に戻した。 「大したものだ、やはりカウィルはハイムダールとは違う」 勿論己の国に誇りを持っているし、己が主に対する絶対の忠誠心もある。何度生まれ変わっても必ずハイムダールに生まれたいと思うほどに国を愛しているが、それでもハイムダールが生まれるずっと昔の太古から脈々とその歴史を刻んでいるカウィルに尊敬の念を抱いているのも事実で、ティワズはそのカウィルの一端を表す知識の宝庫をため息と共に見回した。と、その時。 「────なんだ?」 視界の隅を掠めた何かにティワズは足を止める。なんだと辺りを見回せば、少し先の書架を曲がって姿を消すマントの裾が目に入った。 「?」 今日はハボック達が視察に訪れる事になっている為、図書館の一般の利用は中止されている。だからこの時間、ハイムダールの親善使節一行と館長のミミル以外には図書館の中には誰もいないはずだった。 「…………」 ティワズは書架の先を見つめ、それからハボック達を見る。ほんの少し迷ったものの、ティワズはマントを羽織った何者かを追って書架の先へと歩きだした。 「ハボック様ッ、この本の素晴らしいところはですなッ」 「あのさ、ファルマン。オレ、本のことはよく判らないんで全部任せるから」 「なにを仰いますッ!ハイムダールの次期国王ともあろうお方がッッ!!」 「いやでも、よく判ってる人が選んでくれた方がいいと思うし」 ハイムダールの発展に役立つと、何冊もの本を手に詰め寄ってくるファルマンに、ハボックはいい加減困りきってしまう。正直本を読んで先人に学ぶより自分自身の力で切り開く方が性に合っていると思いながらハボックは言った。 「ああそうだ、そういう話ならティとしてよ。ティに言えばきっとファルマンがいいと思う本を手配してくれるから!」 「む……確かにそれはそうかもしれませんな」 どうにも逃げ腰のハボックと押し問答を続けるより、ティワズに購入すべき本をリストにして渡した方が、余程スピーディに事が進む気がする。 「判りました。では早速ハイムダールでそろえる本をリストにしてティワズ殿へ進言する事としましょう」 「頼むよ、ファルマン」 漸くファルマンの攻撃の矛先をかわすことが出来て、ハボックはホッと息を吐く。 「全くもう、本なんて読むより自分で考えて動く方がよっぽど早く物事解決するってば」 ハボックはうんざりと呟きながらロイの姿を探してきょろきょろと辺りを見回す。手近の書架の間に伸びる通路を幾つか覗いたものの、ロイの姿は見当たらなかった。 「ロイ?どこっスか?」 図書館の中ということもあり、少々躊躇ったもののハボックは声を張り上げてロイを呼ぶ。だが、どこからも応えは返ってこず、ハボックが俄に焦りを感じ始めた時、背後から呼ぶ声が聞こえた。 「ハボック様」 「リザ」 振り向けばリザが足早に近づいてくる。ハボックのところまで来ると、リザは辺りを見回して言った。 「兄さまはどこです?」 「それがファルマンに引き留められている内に一人で行っちゃって────リザっ?」 ハボックの言葉を聞くなり、リザはロイの姿を求めて近くの通路に駆け込んでいった。 |
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