続ハイムダール国物語  第三章


「これはリザに。それからこれはエリシアへの土産だ」
「はい、ロイ様」
 ロイが差し出した包みをフュリーは恭しく受け取ると荷物の中に丁寧にしまい込む。カウィルへ里帰りする事が決まって、ロイは親しい人達ひとりひとりに土産を用意していた。久しぶりにカウィルの地を踏んでこれを手渡す事を考えると自然と笑みが浮かんでくる。笑みを浮かべながら用意をするロイを見て、フュリーが言った。
「ロイ様、すごく嬉しそうですね」
「えっ?そうかい?」
 そう言われてロイは首を傾げる。
「ええ。ずっと笑ってらっしゃいます」
「そ、そんなしまりのない顔をしてるかな、私は」
 自分では笑ってるつもりなど全くなかったのだが、そんな風に指摘されると俄に気恥ずかしくなって、ロイは両手で頬を押さえる。そんな仕草が妙に可愛らしくて、フュリーはクスクスと笑った。
「しまりがないなんて言ってませんよ。でも、すごく嬉しそうに笑ってらっしゃるから」
「うん……」
 フュリーに言われれば改めて嬉しさが込み上げてくる。ロイはうっすらと染まった顔でフュリーを見て言った。
「本当に嬉しいんだ。勿論カウィルに帰れること自体も嬉しいけど、私が幸せに暮らしているってことを直接伝えられる、その事が一番嬉しいんだよ」
「ロイ様」
 ロイがそう言うのを聞いて、フュリーも嬉しい気持ちになってくる。幸せそうな笑みを浮かべるロイを見つめて、フュリーが言った。
「それ、カウィルのみなさんの前でハボック様に言わない方がいいと思います」
「え?何故?」
「ハボック様、感激して二人きりじゃないってこと忘れてきっとキスしちゃいますよ」
「う」
 そう言われれば嫁いできてばかりの頃、民へのお披露目の席で衆人が見守る中、不意にキスされた事が思い出されてロイは顔を赤らめる。
「確かにハボックならやりかねんな」
「ハボック様はロイ様が大好きですから」
 ニコニコとそんな事を言うフュリーをロイは一瞬目を見開いて見つめ、それから幸せそうに微笑んだ。
「私もハボックが」
 好きだとロイが言いかけたその時、突然ドンドンと扉を叩く音がする。驚いてロイと顔を見合わせたフュリーが、慌てて部屋の扉を開ければ息急き切ったファルマンが立っていた。
「ファルマン?どうしたんだ?」
 驚いてロイが声をかければ、ファルマンがフュリーを押し退けるようにして部屋の中に入ってくる。その尋常でない様子に身構えるロイに、ファルマンが細い目を吊り上げて言った。
「ロイ様ッ、カウィルに帰られるとは本当ですかッ?」
「えっ?ああ、本当だが」
 キョトンとして答えればファルマンがブルブルと震える拳を握り締める。次の瞬間ロイに飛びかからんとする勢いで言った。
「私も是非同行させて頂きたいッ!!いや、駄目と言われてもついていきますぞッ!!どうして私に声をかけてくださらないんですッ?カウィルなど滅多に行ける機会などないのに、ここで行かなかったら私は死んでも死にきれないッ!!どうしても連れていかないと言うならいっそその短剣で私を一突きに────」
「ファルマン」
 まくし立てるファルマンの言葉をロイが手を振って遮る。
「連れていかないなんて言ってないだろう?むしろ一緒に行ってくれるなら大歓迎だ」
 苦笑して言うロイをファルマンが細い目を見開いて見つめた。
「ほっ、本当ですかッ?」
「ああ、勿論」
 頷くロイの言葉に、ファルマンがパアアッと顔を輝かせる。
「では、すぐ準備をして参りますッ!!」
 そう言うなり部屋を飛び出していくファルマンをフュリーが呆気にとられて見送った。
「本当に同行させるおつもりですか?」
「あれで連れていかないって言ったら本当に首を括りかねないだろう。それにファルマンにカウィルを見て貰えば色々助言も貰えるだろうし」
「はあ、確かにそうでしょうけど」
 大丈夫かなぁと呟くフュリーにロイはクスリと笑う。
「さあ、急いで準備を済ませてしまおう」
「あ、はい。ロイ様」
 ロイの言葉にフュリーが頷き、二人は中断されていた準備を続けた。


「ああ、チキショウ!俺もカウィルに行ってみてぇなぁッ!!」
 暫くハイムダールを空けるため、ティワズから仕事の引継事項を聞き終えたブレダがそう喚く。手にした書類を纏めながらティワズが苦笑して答えた。
「王位継承権のあるお二人が揃ってハイムダールを空けるわけにはいきませんからね」
「だったらさ、ハボじゃなくて俺がカウィルに行くっていうのはどう?」
 ティワズの言葉にブレダが身を乗り出して提案する。それを聞いたハボックが、ムッとして言った。
「なんでブレダがロイと一緒にカウィルに行くんだよ。ロイと結婚したのはオレだろっ」
「別に結婚相手が行かなきゃいけないって事はないだろう?要はハイムダールを代表してカウィルの情勢を見てくればいいんだからさ、ハボより俺の方が適任かもしれないぜ?なあ、ティワズ?」
 ニヤリと笑ってティワズに同意を求めるブレダに、ハボックが慌ててティワズを見る。唐突な提案にキョトンとしたティワズがニッと紅い瞳を細めるのを見て、ハボックは大声で叫んだ。
「駄目ッ!!絶対そんなの駄目だからなッ、ブレダ!!ティ、オレ、ちゃんとハイムダールの代表として恥ずかしくないよう、ちゃんとカウィルを見てくる!だからッ!」
「若」
 必死に言い募るのを聞いてティワズはクスリと笑う。
「判りました。その言葉、忘れないでくださいね」
「う、うんっ」
 ティワズの笑みにコクコクと頷くハボックを見て、ブレダは内心「あーあ」とため息をついた。
(良いように使われたなー)
 ハボックが結婚して二年経つが、やはりハボックの操縦でティワズの右に出る者はいない気がする。
「ブレダ様、留守中よろしく頼みます」
「おう」
 大人しくハイムダールで土産を待っていた方が得策かもしれないと思いながら頷くブレダだった。


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