| 続ハイムダール国物語 第二章 |
| 「そう言うわけで父上、ロイと一緒に親善の為にカウィルを訪問したいと思うのですが」 ハボックは父王を前にティワズとのやりとりを含めて説明した上で提案する。ハボックの隣で片膝をつき、期待に満ちた瞳で見上げてくるロイの様子を見て、王は笑みを浮かべた。 「確かに一度カウィルに行くのもよかろう。何より同盟を結んでいる国の現況を目にしておくのは、今後の為にも大きな意味を持つ」 「父上、それじゃあ」 「うむ、行ってまいれ。ロイ殿とカウィルへ」 頷いて答える父王に、ハボックはロイと顔を見合わせる。 「ありがとうございます、父上。ハイムダールの為にもカウィルをこの目でしかと見て参ります」 片膝をついた息子が頭を垂れて約束するように言うのを聞いて、王は満足げに頷く。ハボックと並ぶロイに視線を移し、王は言った。 「ロイ殿、こいつがカウィルでバカな事をしでかさぬよう、見張りをお願いする。そして、故郷でゆっくり骨休めをしてこられるといい。ハイムダールへ嫁いでからこれまで、本当によく頑張ってくださった」 「陛下」 労いの言葉をかけてくるハイムダール王にロイは感激で顔を赤らめる。 「いいえ、何も知らぬ私をここまでお導きくださり感謝に尽きません。一度カウィルに戻りあちらの情勢をこの目で確認した上、更にハイムダールの為に務められるよう努力する所存にございます」 そう言ってロイが頭を下げれば、王が満足げに頷いて二人に下がるよう告げた。ハボックとロイは今一度頭を下げ、王の前を辞す。部屋の外へ出ると、ハボックはロイを見て言った。 「よかったっスね、父上の許可が降りて」 「ああ。ありがとう、ハボック。これもお前のおかげだ」 そう言って嬉しそうにロイが笑うのを見れば、ハボックも嬉しくて堪らなくなる。 「よし、それじゃあ早速カウィルにこのことを知らせて、発つ準備をしましょう」 「うん」 互いに頷きあって二人は、すぐさま準備にかかるべく足早に廊下を歩いていった。 「お帰りなさいませ、ロイ様。陛下とのお話は終わられたんですか?」 部屋に戻ればお茶の支度を整えていてくれたフュリーがロイを出迎えて言う。ロイの上着を脱がせ、寛げるように楽な部屋着に着替えるのを手伝うと、フュリーは椅子に座るロイの前にカップを置いた。 「ありがとう」 ロイは礼の言葉を口にするとカップを手に取り口元へ持っていく。仄かに甘い香りのするそれを口にすれば疲れがとれるように感じて、ロイはホッと息を吐いた。 「フュリー、今度カウィルに里帰りする事になったよ」 「えっ?本当ですか?」 ロイの言葉にフュリーが眼鏡の奥の目を見開く。 「それじゃあ、久しぶりにご兄弟やご友人とお会いになれるんですね。おめでとうございます」 にっこりと笑って言うフュリーに、ロイは笑みを浮かべて言った。 「それで、向こうに戻る時、フュリーも一緒に来てくれるかい?」 そう言えばフュリーがポカンとしてロイを見る。次の瞬間、わなわなと震えてフュリーは両手を握り締めてロイを見つめた。 「ぼっ、僕も連れていって頂けるんですかッ?」 「ああ。折角の機会だし、フュリーも行ってカウィルがどういうところか見て欲しいんだ。これからもフュリーには色んな事で世話をかけると思うし、私がどう言うところで生まれ育ってきたか知っておけば参考にもなるだろう?」 ロイは笑って言うとお茶を口にする。そんなロイの足下に、フュリーが跪いた。 「ありがとうございます、ロイ様!僕、ハイムダールの外へ出たことがなくて、カウィルに連れていって貰えるなんて夢みたいですっごい嬉しいです!」 興奮に顔を輝かせてそう言うフュリーにロイは笑みを深める。 「私もハイムダールに嫁いでくるまで、カウィルを出たことはなかったよ。世界は近くて遠い場所だった」 大国がその領土を更に広げようとする中、必死に己の国を守っている時でさえ、世界はその多くが書物の中のものでしかなかったのだ。 「カウィルは小さい国だがとてもいいところだよ。フュリーにも是非来て貰って、そして気に入ってくれたら嬉しいな」 「ロイ様がお生まれになった国ですもの、きっと素晴らしいところなんでしょうね」 ロイの言葉にフュリーが期待に目を輝かせて言う。そんなフュリーに笑ってロイは残ったお茶を飲み干すとカップを置いた。 「そうとなれば色々準備しなければならない。手伝ってくれ、フュリー」 「はい、ロイ様」 フュリーが頷くのを見て、ロイは紙を持ってこさせると必要なものを書き出していった。 「ティ、オレさぁ、ハイムダールの外へ出るの初めてだよ。カウィルってどういうところかなぁ」 持ち主の許可も取らずベッドにゴロンと横になって、キラキラと空色の瞳を輝かせて王子が言うのを、ティワズは書類を纏めながら聞く。纏めた書類を机の上に置くと、ティワズは手早くお茶を淹れ、ハボックにカップを差し出した。 「カウィルには行ったことがおありでしょう?」 「……あんなの行ったうちに入らないよ」 ロイとの婚姻前、ティワズが止めるのも聞かず国境を越えカウィルに入った時の事を言われて、ハボックは決まり悪そうに唇を尖らせる。起き上がり差し出されたカップに口を付けるハボックにティワズは言った。 「とにかく若、あまり浮かれて馬鹿なことをなさらないように。若はハイムダールの名を背負っているのです。若の言動がハイムダールの評価に直結していることをお忘れになりませんよう」 「判ってるよ、そんなこと」 むぅと唇を曲げてハボックは答える。それでもティワズを見上げると言った。 「ティも一緒に来るんだろう?」 「ええ、勿論そのつもりです」 幼い時にハボックの側付きとして選ばれてから、これまでどんな時もハボックと共にあった。大切な王子が結婚した今もそれは変わることはない。 「だったら安心だ」 ニコッと子供の時と変わらぬ笑みをハボックが浮かべるのを見て、ティワズはやれやれとため息をついた。 「若」 「判ってるってば。大丈夫、ちゃんとやるよ。ロイをハイムダールに嫁がせてよかったって思って貰わなきゃなんだし」 そう言って浮かべる笑みは多少は大人になっているのだろうか。 「頼みますよ、若」 ティワズはそう言うと大切な王子の髪をくしゃりと掻き混ぜた。 |
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