| 続ハイムダール国物語 第二十八章 |
| 行く先々で歓迎を受けて、ハボックはカウィルの事を少しずつ知っていけるのを嬉しく思う。まだ若く荒削りなハイムダールと違って、長い歴史を刻んできたカウィルは深く落ち着いた佇まいを持ってハボック達を迎え入れた。 「いいところっスね。オレ、カウィルに住んでもいいなぁ」 そんな風にハボックが言うのを聞きつけて、ロイは笑いティワズがため息をつく。ハボックは並んで馬を進めるロイを見て言った。 「ねぇ、ロイ。視察であちこち回んのもいいんスけど、ロイが一番好きなところにも行きたいっス」 「私が一番好きなところか……」 そう言われてロイは暫し考える。カウィルで好きなところと言えば幾つもあるが、一番はどこだろう。初めてカウィルを訪れたハボックを絶対に連れていきたい場所は。ハボックと二人で訪れたい場所は。 「あそこ、かな……」 脳裏に浮かんだ景色にロイは目を細める。見つめてくる空色を見返して、ロイは言った。 「とっておきの場所がある。そこへ案内するよ」 「ホントっスか?そんな風に言うなんて、よっぽどいい場所なんスね」 「まあな」 ニコッと笑う顔からロイが本当にその場所を気に入っているのだと知れる。 「視察なんてどうでもいいからそっちに行きたいっス」 「若。どうでもいいなんて、相手に聞こえるところで言わないで下さいよ」 言えば途端にピシリと言葉を挟まれて、ハボックは情けなく眉を下げた。そんなハボックにロイはクスリと笑って言う。 「どっちにしろ今日明日は予定が詰まっていて無理だから、早くて明後日だな。そんなに遠い場所じゃない、ちょっと二人で出かける時間くらい、作ってくれるだろう?ティワズ」 「ロイ様」 思いがけずそう返されて、ティワズは眉を顰めた。それでも気を取り直して二人に言う。 「そんな時間が欲しいなら、見るべきものをちゃんと見て下さい」 「判ってるって」 ティワズの言葉に頷いて、ハボックはロイと顔を見合わせてにっこりと笑った。 歓迎を受けてはにこやかに笑うハボックとロイの姿をホヅルは遠くからじっと見つめる。当然のようにロイと並ぶハボックを見るにつけ、ホヅルの心に昏い嫉妬と憎悪の焔が燃え上がった。 (どうやってロイ様にこれを飲ませよう) ロイは自分を信じてくれているから飲み物を差し出して拒まれる事はないと思う一方、ロイの周りの鬱陶しい連中が邪魔をすることは十分に考えられる。それにロイにこの薬を上手く飲ませたとして、ハボックを爆薬で吹っ飛ばしロイを連れて逃げなければならない。 (やっぱり城の中じゃあ無理だ。視察の間になんとか……。ああ、それとも先にハボック王子を吹っ飛ばしてしまおうか) ロイに怖い思いをさせないために先にロイを眠らせてからハボックを爆弾で殺すつもりだったが、逆にハボックを殺してからロイに薬を飲ませるというのもありかもしれない。 (いずれにせよ視察の間が勝負だ。多少怖い思いをさせてしまっても、恐ろしいハボック王子の元から助け出しさえすればきっとロイ様も安心するに決まってるんだ) ロイを手に入れたらその後は。 (決めた。明日だ、明日の視察中にロイ様を薬で眠らせてハボック王子を粉々にする。ロイ様を連れて逃げて、そうしたらすぐ結婚だ) ホヅルは興奮に血走った目でロイを見つめて、己の想像に舌なめずりした。 視察をする一行を一日眺めて過ごしたホヅルは、城に戻ってくると遠くにいるロイを見遣る。今日はハボックが側に付きっきりでいた為にロイと言葉を交わす機会が結局一度もなかったが、決行を明日と決めたホヅルには焦りはなかった。 (フン、そうしていられるのも今日までだ。明日になったらお前の体は粉々になるんだよ。そうして俺はロイ様と夫婦になるんだ) 昏い笑みを浮かべながらホヅルは考える。明日の今頃はロイをこの腕に抱いていると思うと、興奮を抑えきれなかった。 (ああ、ロイ様……。ハボック王子の暴虐に耐えるのも今日までです。明日になれば俺がロイ様を愛して差し上げる……) 組み敷いたロイの体を己のイチモツで貫く瞬間を思い浮かべれば、中心が固く漲るのを感じる。 (そうとなれば早く戻って準備をせねばッ) ホヅルは熱い視線をロイにたっぷりと注ぐと、城を後にした。馬を走らせ家に戻ったホヅルは、だがいざ準備と言ってもなにをしたらいいのかすぐには思いつかない。決していいとは言えない頭で必死に考えたものの、なにも浮かんでこないことに苛立ったホヅルは夜の街へと繰り出した。 「酒でも飲めばいい考えが浮かぶかも知れん」 正直足りない脳味噌に酒を注げば益々頭が混乱するのは誰が考えても容易く想像がついたが、ただ一人そんな想像すら出来ないホヅルは行きつけの酒場に行くと一番強い酒を注文した。 (ロイ様に薬を飲ませてハボック王子を吹っ飛ばし、ロイ様を無事お救いする方法……) ガブガブと酒を喉に流し込みながらホヅルは必死に考える。だが、酒が回れば頭の回転は益々鈍くなり、いい考えは一向に浮かんでこなかった。 「くっそーッ!ロイ様が待っているというのにッッ!!」 ガシガシと頭を掻いてホヅルは唸る。その時、射した陰に顔を上げたホヅルは、フードを目深に被ったローゲがすぐ側に立っていることに気づいて目を見開いた。 |
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