| 続ハイムダール国物語 第十四章 |
| 「ロイ様の婚姻に不満を抱く者、だと?」 ホヅルはそう言葉を繰り返して警戒するように相手の男を見つめる。そう聞いても流石に能天気に喜ぶ訳にはいかず、ホヅルはローゲと名乗った男を探るように見つめた。 「そうだ。あの婚姻は間違っている。お前もそう思うのだろう?ハボック王子などいなければいいと思っているのだろう?」 「それはまあ……」 ハボックがいなければロイもカウィルに戻ってくるだろうと思っているのだから強ち違うとも言えず、ホヅルは曖昧に頷く。そんなホヅルにローゲが言った。 「それならお前は同じ意志を持つ我々の同志だ。ハボック王子の魔の手からロイ様を取り戻そうじゃないか」 「ロイ様を取り戻す?そんなことが出来るのか?」 幾ら不満があろうともホヅルたち下級騎士の意見など国の意志の前では無に等しい。出来るはずがないと思いながら言うホヅルにローゲはニタリと笑った。 「出来るとも、我々に協力すればな。ロイ様が可哀想だと思っているんだろう?このままロイ様をハイムダールに戻せばあのハボック王子に酷い目に遭わされるんだぞ、それでもいいのか?」 ローゲの言葉にホヅルは目を見開く。ローゲはズイと顔を寄せホヅルに囁いた。 「私の親類筋の者がリザ様の側仕えなんだ。何でもロイ様は毎晩無理矢理ハボック王子の相手をさせられているらしい。嫌がるロイ様を押さえつけてハボック王子は強引に────」 「なんとッ!ハボック王子め、ロイ様にそんな汚らわしいことをッッ!!」 ローゲが皆まで言うのを待たずホヅルは声を張り上げる。頭の中で想像を巡らせたホヅルは、厳つい顔を赤らめて目を吊り上げた。 「あああ、ロイ様になんてことを……ッッ!!」 「幾ら国のためとはいえロイ様がお可哀想だと思うだろう?お前が助けて差し上げればきっとロイ様はお前に感謝するだろう。もしかしたら一晩くらい相手をしてくださるやもしれん」 「ロ、ロイ様が俺とッ?」 ローゲの言葉にホヅルは目を剥く。「いや、まさかそんなことが」とブンブンと腕を振り回すホヅルにローゲが言った。 「毎晩嫌々相手をさせられている男の元から救い出してくれたんだ。ロイ様が本当に感謝しているならきっとそうなさる筈だ。もしかしたらお前を夫にと言うかもしれない」 「夫……ッ!俺とロイ様が……ロイ様が俺の妻にッッ!!」 何をどう想像したのかホヅルは興奮しきって鼻息を荒くする。鼻の穴を膨らませる男にローゲは笑って言った。 「さあ、ロイ様を助け出す相談をしよう。ロイ様を正しい婚姻へと導いてさしあげよう」 「おお」 こっちへと手招くローゲの後について、ホヅルは薄暗い路地へと足を踏み入れていった。 「おやすみ、ヒューズ。遅くまですまなかったな」 「いや、俺の方こそ、長旅で疲れてるだろうに引き留めて悪かった」 手紙では語りきれなかった二年分のあれこれを互いに話していれば瞬く間に時間は過ぎて、ロイはヒューズの部屋を出ると夜もすっかりと更けた廊下を燭台を掲げたフュリーの後をついて歩いていく。長い馬での旅の後、休む間もなく歓迎の宴に出席して、疲れきっている筈なのに全く眠たくならない。冴えきった頭でつらつらと考え事を巡らせれば不意にハボックの顔が浮かんで、ロイは足を止めた。 「ロイ様?」 もう間もなく部屋だというのに立ち止まってしまった主をフュリーは不思議そうに呼ぶ。そうすればロイはいきなり角を曲がって歩きだした。 「ロイ様っ?お部屋はそちらじゃ────」 「ハボックのところに行ってくる」 「えっ?」 追いかけてくるフュリーに振り向いてロイは言う。 「先に部屋に戻っていてくれ」 「で、でもっ」 「大丈夫。朝までには戻るよ」 そう言って艶やかに笑うロイを見れば、何も言えなくなってフュリーはため息をついた。 「判りました。ではせめて灯りをお持ちください」 「でもそれじゃお前が困るだろう?」 「部屋はすぐそこですから大丈夫です」 「────ありがとう」 にっこりと笑って言うフュリーにロイも笑って礼を言うと、燭台を受け取り廊下を足早に歩いていく。さほどかからずにハボックに宛がわれた部屋の前に立つと、そっと扉を叩いた。 「────ハボック?」 小さな声で中に呼びかけてから、ふともしかしたらティワズがいるかもしれないという考えが浮かんでくる。やはり部屋に戻ろうかと思った時、扉が少し開いてハボックが顔を出した。 「ロイ?どうしたんスか?こんな時間に」 驚いたように見つめてくる空色になんだか居たたまれなくなって、ロイは曖昧な笑みを浮かべた。 「ごめん。なんだか急に顔を見たくなって……。すまない、こんな時間に。起こしてしまったな、悪かった。部屋に戻るよ」 早口にそう言ってロイは逃げるように立ち去ろうとする。だが、数歩も行かないうちに逞しい腕が伸びてきてロイの体を背後から抱き締めた。 「嬉しいっス」 「ハボック」 「オレもロイのこと考えてた。ここがロイの生まれた場所なんだって。ロイはここでどんな風に育ったんだろうって。どんなことを考えながら育って、そしてオレのところに来てくれたんだろうって」 「ハボック……」 耳元に囁かれる言葉にロイは目を細める。ハボックの腕の中で体の向きを変えると、抱き締めてくる男を見上げた。 「ロイ」 ハボックは見つめてくる黒曜石を見つめ返して艶やかな黒髪を撫でる。頬に手を添えそっと口づけた。 「好きっス」 「私もだ」 告げられる言葉に囁き返してロイはハボックと何度も口づけを交わす。抱き合うようにして部屋に入った二人の姿を隠すようにパタンと扉が閉じた。 |
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