続ハイムダール国物語  第十一章


 その後、入れ替わり立ち替わり訪れる諸侯と言葉を交わし、今日のところはカウィル王とも当たり障りのない会話を交わして一日の日程を終えると、ハボック達は用意された客間へ案内される。ベッドの上に仰向けに倒れ込むハボックを見て、ティワズが言った。
「そのまま寝てしまわないでくださいよ、若」
「判ってるよ」
 そう言いはするものの目を閉じてしまうハボックにティワズは眉を寄せる。ベッドに腰を引っかけ、手を伸ばしてハボックの鼻を摘んだ。
「若っ、寝るなと言っているでしょう?」
「んーっ」
 子供の時によくやられた事をされて、ハボックが顔を顰めて首を振る。ティワズの手を振り解き、ハボックは涙目で恨めしげにティワズを見上げた。
「もうっ、なにすんだよ、ティ」
「寝るなと言っているのに寝るからでしょう?湯浴みの準備をさせますからさっさとして湯を浴びてしまってください」
 ずっと馬上にあったのだ。流石に汚れを流さないわけにはいかないだろうと、立ち上がり湯の準備をさせるティワズを目で追いながらハボックが言った。
「一緒に入らない?ティ」
「そう言うことはロイ様に言ってください」
 新しい服を用意しながら素っ気ない返事を返すティワズにハボックは苦笑する。
「流石にここでそれは拙いだろ?」
「おや」
 手を止め意外そうに見てくる紅い瞳にハボックは鼻に皺を寄せた。
「デレデレするなって言ったの、ティじゃん」
「言いましたけど、覚えちゃいないと思ってましたよ」
 そう言えばムゥと唇を突き出すハボックを見てティワズはクスリと笑う。タオルや服を用意してティワズは言った。
「ご一緒はしませんが、お手伝いしましょう。話したいことがあるのでしょう、若?」
「ティ」
 返ってきた答えにハボックが空色の目を瞠る。それからティワズに向かって伸ばした手を振った。
「起こして、ティ」
「そんなところを見られたら妙な感繰りをされた上即刻婚姻関係を破棄されて、同盟もないことになりますよ」
「誰も見てないもん」
 眉を顰めるティワズにそう言ってハボックは手を振る。やれやれとため息をついて、ティワズは伸ばされた手を握ってハボックを引っ張り起こした。
「早くなさい、若」
「うん」
 ハボックは立ち上がると腰に佩いた剣を引き抜きティワズに渡す。ティワズはそれを受け取り丁寧に荷物の中に納めると、ハボックのマントを取り上着やズボンを脱がせた。下着姿になったハボックは扉を開け続きになっている部屋へと入る。薄い垂れ幕が幾重にもかかったその奥には湯浴みの用意がなされ、ハボックはその中に入るとティワズに残っていた下着も脱がしてもらい湯船の中へと足を入れた。
「気持ちいい……」
 ティワズに湯をかけられ体を洗われながらハボックが満足げにため息をつく。
「ティも一緒に入ればいいのに。子供の時は一緒に入ったじゃん」
「そう言うわけには参りません」
 主の体を清めながらティワズは苦笑して言う。「ちぇっ」とむくれて見せたハボックだったが、それ以上は言わずにティワズが洗うのに任せた。
「カウィル王は」
 と、不意に口を開くハボックに、ティワズが視線を向ける。紅い視線を頬に感じながらハボックは続けた。
「思っていた通りの人だったな。穏和で聡明で……流石、カウィルを守ってきただけの事はある。父上とはタイプが違うけど、ここにいる間色々学びたいと思うよ」
「そうですね、そうなさるといいと思います」
 ハボックの言葉にティワズは頷く。ハボックはティワズの同意が得られた事にホッと息をついたが、少ししてから言った。
「カウィル王はいいんだけど」
「けど?」
「あの二人、どう思う?ティ」
 宙を見据えながら言うハボックの横顔をティワズは見つめる。
「あの二人と言うのは?」
 歓迎の宴の間には多くの諸侯がハボック達の前に立っただろうと、空惚けて言うティワズをハボックが睨んだ。
「もうっ、判ってるくせに。ヒューズとリザに決まってんだろ」
 ハボックの言葉にティワズは目を細めて大切な王子の顔を見つめる。
「若はどう思われたんです?」
「どう、って……」
 逆に問い返されて、ハボックは眉を寄せた。
「オレのこと、すごい値踏みしてたな。気に入らなかったらあの場でオレを切り刻んでロイを取り戻すつもりだったんじゃないか?」
「同盟国の王子ですよ?若は」
「たとえそうでもロイやカウィルのためにならないと見たら容赦しなさそうだ」
 二人の事をよく思い出そうとするように、口元に指を当て考える視線を宙に投げる王子をティワズは愛しげに見つめる。
「そうと判っているのならこれからどうすべきかもおわかりですね、若」
 そう言われてハボックはティワズを見た。紅い瞳をじっと見つめたハボックは、ニヤリと笑って言った。
「なにがあってもハイムダールとの同盟は堅持すべきだと、ロイを嫁にやってよかったと思わせてやる」
 ハボックの答えに満足げに頷いて、ティワズはハボックの体に湯をかけた。


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