| ハイムダール国物語 第四十四章 |
| 「国王陛下の御成りです」 そう告げる声に居並ぶ臣下達が一斉に頭を下げる。それに頷くと王は中央の椅子に腰を下ろし、皆に顔を上げるように 告げた。 「詳しい経緯を聞こう」 そう言う王に答えてハボックが前に出ると話を始める。既に王に話してあった部分も含め、最初から事件の経緯を話して いった。王は話を聞き終えると口を開く。 「首謀者のフェンリルとヴィーランドは死んだか」 「申し訳ありません。生きて捕らえることが叶いませんでした」 そう言って頭を下げるハボックに王は「よい」と手を上げた。兵士に囲まれて立っているファルマンと包帯を巻いた男に 視線を向けると言った。 「ファルマン卿、率直に尋ねる。何故事件に加担した?」 そう聞かれてファルマンは片膝をつくと王を見上げる。にっこりと笑うと言った。 「ロイ様と話をしたかったので」 「話を?」 「はい。ロイ様を監禁する見張り役をやらないかとフェンリル卿に声を掛けられまして、ロイ様がハイムダールに嫁がれて から一度話をしてみたいとずっと思っていたものですから。見張りなら思う存分話が出来ると思ったのです」 「ロイ殿と話をする、そのためだけに見張り役を引き受けたというのか?」 「その通りです」 ニコニコとまるで悪気なく答えるファルマンを王はまじまじと見つめる。その時、ロイが一歩進み出ると言った。 「陛下、ファルマンが言ったことは本当です。最初に私が彼に尋ねた時もそう答えました。それに、監禁されている間、彼 は決して私に酷い事はしませんでしたし、とても紳士的でした。刺客が襲ってきた時もファルマンが私を助けてくれたの です。彼がいなければハボック達が来る前に私は殺されていたでしょう」 必死にそういい募るロイの話を王は黙って聞いていた。言ったことが受け入れて貰えなかったのだろうかと、更に言葉を 重ねようとしたロイを王は手を振って黙らせるとハボックに聞く。 「お前はどう見る? ロイ殿を助けに入ったとき、ファルマン卿の様子はどうだった?」 そう聞かれてハボックは僅かに目を瞠る。ロイの視線を痛いほど感じながら言った。 「確かに彼はロイを守ろうとしてくれていたようだったっス」 不本意そうにファルマンを擁護する言葉を口にするハボックにロイはホッと息を吐く。ハボックはそんなロイをチラリと見る と続けた。 「でも、守ろうとしたその瞬間を見たわけじゃないっスから」 「ハボック!」 ハボックの言葉にロイがギョッとして声を上げる。不貞腐れたように視線を逸らしているハボックを見て王は言った。 「ティワズ」 「申し訳ありません、陛下。私が屋根の上に上がった時にはもう殆んど事は終わりに差し掛かっていて…。ですが、状況 から考えれば少なくともファルマン卿はロイ様を傷つける意志はなかったように思えます」 ティワズの言葉に王はしばし考え込んでいたが手を振ってファルマンを下がらせる。兵に取り囲まれて縮こまっている ヒギンを見ると前へ出るように促した。王に事件に加担した理由を問われて、だがヒギンは緊張と恐怖に舌が凝り固まっ て言葉が出ない。苛立ちに眉を顰めた王が何か言おうとした時、一人の老人が王の前に進み出た。 「そやつの代わりに儂が説明しても構いませんかな?」 声のする方へ視線を向けて、王は目を見開く。椅子から立ち上がると小柄な老人に向かって言った。 「クヴァジール。クヴァジールではないか」 「お久しぶりです、王」 優雅に一礼してみせるクヴァジールに王は近づくと言う。 「もう二度と城へは来ないと言っていたのに、また戻って来てくれたのか、クヴァジール」 そう言って手を取る王にクヴァジールは苦笑する。ハボック達の方を見ながら言った。 「時が流れ王室も昔とは変わったように見えましたのでな。様子を覗きにくるのも面白いかと思ったんじゃよ」 「では、これからは又昔のように知恵を貸してくれるのか?」 期待を込めてそう聞く王に老人は笑う。 「こんな爺の知恵が役に立つのであれば」 「勿論だ、クヴァジール」 嬉しそうに王はそう答えた。クヴァジールは二人の会話に驚いて目を見開いているヒギンに目をやると言う。 「その粉やの男は何も知らずに片棒を担がされたんじゃよ。借金に首がまわらんようになって、家族を路頭に迷わす訳 にも行かんと必死だったんじゃろう。これに懲りてもう二度とバカなことはせんじゃろうて」 そうだろう、と聞かれてヒギンは何度も頷く。王はその様子に頷くとヒギンを下がらせた。 「クヴァジール、後でゆっくり話をさせてくれるな」 そう言えば頷く老人に王は満足したように笑うと椅子に戻る。次に包帯を巻いた男を見ると前へ出るように言った。 「スルト、だったな」 王に名を言われて跪いた男は驚いて顔を上げる。何故と問いかける視線に王は小さく笑った。 「自分の臣下の名なら知っておるよ。流石に全員とまでは言えんが。勇猛果敢なそなたの名なら知っている」 そう言う王に男、スルトは目を見開く。震える唇をギュッと噛み締めると言った。 「恐れながら王にお尋ねする。どうして、どうして男の妃など迎えたのですっ? 男の妃を娶り、側室は取らないなんて 王はハイムダールを見捨てるおつもりかっ?!」 食い入るように自分を見つめる男を王は見下ろしていたが、やがてゆっくりと口を開く。 「それが事件に加担した理由か」 「お答え下さいっ、王っ!」 グッと身を乗り出すスルトを兵士達が慌てて押さえた。王は困ったように額を押さえると言う。 「ロイ殿を妃に迎えたのはカウィルと同盟を結ぶ為だ。カウィルはこのアメストリスの要所。あそこを押さえれば戦いは ずっと有利になる。」 「ですが…っ」 王は反論しようとするスルトを黙らせると続けた。 「側室の件は私は賛成したつもりはない。その件はまだこれからの話だ」 「父上っ!」 王の言葉に思わず声を上げるハボックをひと睨みして黙らせると王は言う。 「事件の発端はことごとくお前の浅はかな言動だな、ハボック」 言われてハボックはグッと言葉に詰まると俯いた。王はそんなハボックを暫くの間見つめた後、広間の中を見渡した。 「側室の件に関しては不安を覚えるものもいるだろう。この国を将来担う者が誰なのか、国を思えば不安に感じないこと の方がおかしい。だが」 王は一度言葉を切るとうな垂れる息子を優しく見つめる。それから視線を戻すと言った。 「いま少し見守っていてはくれぬだろうか。この若い二人がハイムダールに何を成そうとするかを」 その言葉にハボックが顔を上げる。目を瞠るハボックをチラリと見ると王は続けた。 「そして二人に力を貸してやって欲しい。共にこのハイムダールを守り、育てていく為に」 王はそう言うと椅子から立ち上がる。 「この国の王として、この国に暮らす一人の人間として卿らに頼みたい」 そう言って頭を下げる王の姿を見ていた臣下たちの口から次々に声が上がった。 「ハイムダール万歳!」 「国王陛下万歳!」 「ハイムダール!ハイムダール!」 「ハボック王子万歳!」 口々に熱く愛する国の名を叫ぶ臣下たちを見回して王は頷く。スッと手を上げれば、一瞬にして静まったところへ王は口 を開いた。 「ハボック、ロイ殿」 呼ばれて二人は王の前へと進み出る。王は二人の顔を交互に見ると言った。 「判っておるな、二人とも」 そう聞けばハボックとロイは力強く頷く。 「勿論っス。絶対に証明してみせます」 「力の限り尽くす所存です」 二人の言葉に王は頷くと言った。 「関係者の処分については追って沙汰する」 そう言って広間を出て行く王を歓声が送り出す。その歓声の中、王の背を見送るとハボックとロイは顔を見合わせて笑っ たのだった。 |
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