| ハイムダール国物語 第四十一章 |
| 切りかかってくる少年達の行く手を遮るようにハボックとティワズが立ちはだかる。扉の外へ自分を押し出そうとする ハボックに向かってロイは言った。 「何するんだっ、お前ッ!」 「戻って下さいっ、部屋の中に入ったら庇いきれないっス!」 「庇う必要なんてないと何度言ったら――ッ」 そうロイが叫んだ時、少年の剣が振り下ろされる。咄嗟に手にした剣でそれを跳ね上げるとハボックは少年の顎を蹴り 上げた。 「あっ…」 軽い少年の体が壁まで吹き飛ばされるのを見て、ハボックが一瞬躊躇する。その隙をついてロイに襲い掛かろうとする 少年をティワズが切り倒した。 「うわぁっ!」 「ティッ!」 腕を切られて倒れ込む少年の姿にハボックが叫ぶ。ティワズは顔を顰めると言った。 「かすり傷ですよっ!」 ティワズは舌打ちすると少年達を睨む。 「お前達っ、若に剣を向けるなど、血迷ったかっ?!」 「血迷ってるのはハボック様のほうですっ!」 倒れた友人に手を貸していた少年が顔を上げて叫んだ。少年は震える手で剣を構えると言う。 「ロイ王子を渡してください。ハイムダールの為にもハボック様のためにもその人は生きてちゃいけないんだっ!」 少年の言葉に息を飲んだハボックが言い返そうと口を開こうとした時、ロイがハボックの肩を掴むとズイと部屋の中に 踏み込んだ。少年達をまっすぐに見つめると言う。 「男の身である私をハイムダールの第一王位継承者であるハボックの妃として迎える事に不安があるのは当然だろう。 私には女性のように次代に引き継ぐものは持っていないのだから。でも。」 ロイは1つ瞬くと言葉を続けた。 「私は私なりの方法でハイムダールに尽くしていくつもりだ。ハイムダールを育て、お前達に渡してやれたらと思っている。 すぐには信じられないかもしれないが、いま少し時間をくれないか。それでも納得できなければその時こそ私を殺したら いい。」 「ロイっ!」 ギョッとするハボックをロイは見て言う。 「お前だってさっきの男に言ったろう?見ていろ、と。私達がハイムダールをどうするか、見て、判断して貰えばいいんだ。」 「殺していいなんて言ってないっスよっ!」 「それくらいの覚悟がなければ判ってもらえないだろう?」 ロイの言葉にグッと詰まるハボックから目を逸らすとロイは言った。 「私はハイムダールの為に私に出来る精一杯のことをしたい。だから私に手を貸してくれないか。私はまだハイムダール のことを何も知らない。だからお前達の力を貸してほしい。」 まっすぐに見つめるロイの視線に少年達が迷うように顔を見交わす。中の一人が口を開こうとした時、低い声がした。 「貴方に貸す力などありはしない…貴方はこの国の為にはならないっっ!!」 そう叫ぶと同時にフェンリルが剣をかざして襲い掛かってくる。ハボックはロイを引き倒すようにして体の位置を入れ替え るとフェンリルの剣を受け止めた。 「剣を引けっ、フェンリルっ!」 「目を覚ましなさいっ、王子ッッ!!」 鍔を競り合う男の目を間近に見つめてハボックは言う。 「オレを信じられないのかっ、フェンリルっ?!」 そう言えばフェンリルが僅かに怯んだ。それを見逃さずハボックが剣を薙ぎ払うようにフェンリルを吹き飛ばす。一気に 詰め寄ると倒れたフェンリルの頭上に剣を振りかざした。 「ッッ!!」 「フェンリル様っ!!」 少年達の唇から悲鳴が上がりフェンリルが頭を庇うように両腕を頭上に交差させる。誰もがフェンリルの上に剣が振り 下ろされると思ったその時。ハボックがかざした剣を静かに下ろした。いつまで待っても振り下ろされぬ剣にフェンリル が信じられないとばかりにハボックを見上げる。ワナワナと唇を震わせると言った。 「何故殺さないのですっ?!」 「お前を殺したところで何も変わらない。」 目を見開くフェンリルにハボックは続ける。 「罪を償え。お前はロイを攫いその命を奪おうとし、ヴィーランドを殺した。本当なら切り捨ててやりたいところだ。だが そうまでしてハイムダールを想うなら、その命ハイムダールに差し出せ。オレに力を貸せ。」 「ではロイ王子を殺してくださいっ!」 「フェンリルっ!!」 フェンリルはゆらりと立ち上がるとハボックを見た。 「私は絶対に認めない…っ、私は間違ってなどいないっっ!!間違っているのは貴方の方だッッ!!」 そう叫んだフェンリルの手に短剣が閃きハボックの目が驚きに見開く。ハボックは己が突き飛ばされるのと同時に鮮や かな血が飛び散るのを見た。それに半瞬遅れてティワズの剣が閃きフェンリルを斬り倒す。 「ロイッ!」 ハボックはふらりと傾ぐロイの体を支えるとその名を叫んだ。 「ロイッ、ロイッ!!」 「掠っただけだ。」 肩口を押さえて苦笑するロイをハボックは抱き締める。その拍子に手についた血にハボックは顔を歪めた。ハボックは ロイを抱き締めたまま斃れ付したフェンリルを見る。 「若。」 「オレは平気。でも…。」 「私もかすり傷だ。」 そう言うロイを抱く腕にハボックは力を込めた。ロイの耳元に顔を埋めると言う。 「ごめんなさい…。」 それに答えてロイが口を開こうとした時、ドタドタと階段を駆け上がってくる音がした。 「若様っ!」 「ハボック!!」 声と同時にマニとブレダが飛び込んでくる。少し遅れてファルマンと男も入ってきた。床に倒れているフェンリルを見て ブレダ達が息を飲んだとき、少年の一人が声を上げた。 「兄さんっ?!」 その声にハッとして目をやった男に少年がしがみ付いてくる。 「お前、どうしてここに…。」 「よかった、兄さんっ、ハボック王子に殺されたって…っ」 ギュッとしがみ付いてくる少年の背中を宥めるように叩きながら男はハボックを見た。ロイを抱き締めたままじっとフェン リルを見つめているハボックの表情に男は考えるようにゆっくりと言う。 「ハボック王子が俺を助けてくださったのだ。あそこで切り捨てることも出来たのにそうはしなかった。」 「えっ?フェンリル様はロイ王子がハボック様をそそのかして兄さん達を殺したって。」 「それは違う。」 そう言う男に少年もハボックを見た。そしてハボックがフェンリルに言った言葉を思い起こす。男は少年の肩を抱いて ハボックを見つめると呟くような声で言った。 「俺たちは自分達の目できちんと確かめるべきだったのかもしれない。」 男はそう言ってハボックとロイの姿を見つめ続けたのだった。 「ごめんなさい。」 手当を済ませてベッドに腰掛けるロイにハボックが言う。ロイはそんな事を言うハボックを不思議そうに見上げた。 「どうして謝るんだ?」 「だって…アンタを守るって言ったのに、守るどころか逆に庇ってもらって…」 カッコワリィ、と呟くハボックにロイはくすりと笑うと手を伸ばす。どうするか迷った末その手を取ったハボックの手をグイと 引けばハボックがロイの前に跪いた。ロイはハボックの頬を撫でると言う。 「でも、私を助けにきてくれた。あそこでお前が来てくれなかったら私は死んでいた。それに。」 とロイはハボックの髪をかき混ぜた。 「お前はフェンリルを助けたかったんだろう?」 そう言えばハボックの顔が歪む。 「でも、ティには甘いって言われた…。」 そう言ってハボックは塔の上でティワズに言われた言葉を思い浮かべた。叱られてシュンとしょげる犬のようなハボック の髪をロイは優しく撫でる。 「ティワズはお前を責めてはいなかったろう?それにその甘さもお前のいいところだと私は思うぞ。」 ハボックはそう言うロイの膝の上に頭を預けて目を閉じた。ロイはそんなハボックの頭を優しく撫で続けたのだった。 |
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