| ハイムダール国物語 第三十九章 |
| ティワズが戻ってくるのを部屋で待っていればノックをする音がする。ハボックの声に答えてフュリーが大きく開いた扉 から父王が入ってきた。 「父上。」 立ち上がったハボックに頷くと王は口を開く。 「大体の事は聞いた。まさかヴィーランドとフェンリルが絡んでいたとは。」 「ヴィーランドはフェンリルに殺されました。」 ハボックがそう言えば王が眉間に皺を寄せた。そのことについては何も言わず、ロイに視線を向けると言う。 「無事でよかった、ロイ殿。」 「ご心配をおかけいたしました。」 ロイが軽く頭を下げれば王は頷いて言った。 「大変な思いをさせてしまったがハイムダールを嫌わないで貰いたい。方法は間違っていたが彼らは彼らなりにこの国 を愛しているのだ。」 「判っております。ハイムダールを嫌いになどなりはしません。私はここを第二の故郷とすべく参ったのですから。」 そう言うロイに王は安心したように頷く。チラリとハボックを見ると言った。 「そもそもはこのバカ息子の浅慮がもたらしたこと。ロイ殿にはその慧眼をもってこやつを導いてくださると嬉しいのだが。」 「ちっ、ちちうえっ!」 ハボックが父王の言いように顔を紅くし、ロイがくすりと笑う。王はそんな二人を見ると言った。 「悔しければその手で事態を収めて見せよ。」 「勿論です。」 そう答えるハボックの瞳が硬質な光を放つ。父王は満足そうに頷くと言った。 「では良い知らせを待っているぞ。」 そう言うと王は部屋を出て行ったのだった。 15名ほどの兵を連れて戻ってきたティワズと共に西の塔へと向かう。塔へと上がる階段に続く通路の前に立ったハボック は階段口にチラリと見えた少年の姿に目を瞠った。 「ちょ…なんであんなところに…」 そう言った途端、ビュンと空を切って矢が飛んでくる。咄嗟に剣で払いのけた時、少年の声が聞こえた。 「ハボック様っ、カウィルから来たその悪魔を渡してくださいっ!」 「なっ…」 「ソイツはハイムダールのためにはなりませんっ!!」 「そうですっ、ハボック様は騙されているんですっ!!」 「ロイ王子を殺せっ!」 「ロイ王子をっ! 「殺せっ!!」 その声を合図に少年達がバラバラと剣をかざして駆け出してくる。ハボックはロイを庇って剣を構えると大声で言った。 「絶対に殺すなっ、生かしたまま捕らえるんだ!」 ハボックの声に頷いた兵士達が前へと飛び出していく。少年達の剣を受け流しながら傷つけずに捕らえようと苦心する 兵士達を見ながらハボックが言った。 「一体どうなってるんだ?」 「フェンリルがそそのかしたと見るべきでしょうね。」 「なんで?」 「さっきの襲撃者の中に少年達の身内でもいたか…。」 ティワズの言葉にハボックが顔を歪める。唇を噛み締めると剣を構えた。 「通路を抜ける。ティ。」 「はい、若。」 頷きあうと走り出そうとする二人の耳にロイの声が聞こえる。 「ハボック、私も行くっ!」 「ロイ、でも…」 「行く。行かせてくれ。」 ヒタと見つめてくる黒い瞳にハボックは迷った。そのハボックにティワズが言う。 「いいでしょう、どうぞ一緒に。」 「ティ。」 「行くべきです。ここで行かなければ彼らを納得させられない。」 そう告げる紅い瞳にハボックは僅かに目を見開いて、それから頷いた。 「ロイ、オレの傍から離れないでくださいね。」 そう言ってハボックが差し出す手をロイは握る。口に出しては不服そうに言った。 「私だって自分の身くらい守れる。」 「判ってるっスよ。」 そう言ってロイの手をギュッと握ると通路の先を見つめる。塔を登る階段を睨んで言った。 「マニ、後を頼む。行くぞ、ロイ、ティ。」 「気をつけて、若様!」 少年の腕を捻って押さえつけながらマニが言う。それに頷いてハボックはロイとティワズと共に通路を走り出した。 遅れて到着した兵士の馬に怪我をした男を乗せ、自らはファルマンを馬に乗せるとブレダは城へと馬を走らせる。途中 王家の丘の麓にある老人の家に寄るとクヴァジールに会った。 「その様子だと無事奥方を救い出したようじゃな。」 家の前で馬に跨ったままのブレダを見上げて老人が言う。 「おかげさまでね。」 ブレダはニッと笑うと答えた。 「まあ、まだ一仕事残ってるけどな。」 ブレダはそう言うとクヴァジールの後ろであからさまにホッとした表情を浮かべているヒギンを見る。 「そんなわけだから安心しろ。」 それだけ言うとブレダは兵士達に合図して馬に鞭を入れる。瞬く間に遠ざかっていく一団を見送りながらクヴァジールが 言った。 「よかったの。これで首が繋がったぞ。」 そう言えばヒギンがヘナヘナと座り込む。クヴァジールはそんなヒギンの肩をポンポンと叩くとブレダ達が去って行った 方角を見る。 「わざわざ知らせに寄ったのか…。」 クヴァジールはそう呟くと目を細めた。 (さっきの王子といい少し王家を見る目を変えてもいいのかもしれんな。) そんな事を考えながらクヴァジールはヒギンを促すと家の中へと入っていったのだった。 ブレダは怪我をした男を乗せた馬に並ぶとチラリと男を見る。馬を走らせる手を弛めずに言った。 「お前、本当にロイを殺すつもりだったのか?」 そう聞けば男はブレダを見ずに答える。 「それがハイムダールの為になるなら。」 「本当にそう思っているのか?ロイを殺せばカウィルとの同盟にだって影響があるんだぞ。」 ブレダの言葉に男は馬の行く手を睨みつけた。そのまま暫く黙っていたがやがて口を開くと言う。 「ロイ王子を殺すことがハボック様の為、ひいてはハイムダールの為だと思っておりました。ですが…。」 男は前方を睨んでいた目を閉じると続けた。 「今ではよく判りません。」 そう言ったきり黙ってしまった男をブレダは暫く見つめていたが、視線を前に戻すと言う。 「側室の件はこの際置いとくとして、ハボックはここ数週間で随分変わったよ。以前よりずっと王子としての責務とハイム ダールのことを考えるようになった。勿論以前から考えてはいただろうけどずっと腹が据わったっていうのかな。その 変化をもたらしたのがロイだとしたら。」 そう言うブレダを男は目を開けて見つめた。ブレダは男の視線を感じながら口を開く。 「俺達はまだ若い。焦らずとも時間はあるだろう?力に訴えるだけが国の為とは限らない。」 男はブレダの言葉を低く繰り返した。考えに沈み込む男をチラリと見ると、ブレダは馬の速度を上げて一直線に城へと 向かったのだった。 |
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