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| 果てなき恋のバラード 第三十六章 |
| 「聞きたいことがある。素直に答えてくれたら何もしない」 ハボックは身構える男達に向かってそう言う。男達は互いに顔を見合わせるとゲラゲラと笑った。 「なぁにが素直に答えたら、だ。何様だ?お前」 「ふざけた事言ってんじゃねぇよッ」 男達は口々にハボックを罵る。 「そこにいるネェチャンを俺達に回してくれたら教えてやらねぇでもないがな」 「ああ、そりゃいい。そのネェチャンが聞いてくれるなら教えてやるぜ───体にな」 その言葉に男達がドッと沸き立つ。ハボックは暫くの間何も言わずに男達が言うことを聞いていたが、一頻り言い終えたと思えるところで口を開いた。 「言いたい事はそれだけか?じゃあ今度はオレの質問に答えろ。チャンという男がいる筈だ、どこにいる?」 淡々とした調子でそう尋ねるハボックに男達は目を見開く。次の瞬間、怒りにカッと顔を赤くしてハボックに近づいてきた。 「ふざけんじゃねぇッ!」 「それが人にものを聞く態度かッ?ああ?」 口々に罵りながら近づいてきた男達を見てカイがため息をつく。 「まったく、お前が情報収集ヘタなのがよく判ったよ。アイツらの言うとおり、それじゃあ教えて貰えるものも教えて貰えねぇ」 「……じゃあアイツら相手にどう聞くんだよ」 やれやれと肩を竦めるカイにハボックがムッとして言えば、カイがにっこりと笑った。 「決まってんだろ、こう言うんだよ」 カイはそう言って浮かべた満面の笑顔を崩さずに男達に向かって口を開く。 「グダグダ言ってねぇでさっさと教えろ、このクズ共」 人当たりのいい完璧な笑顔で吐き出されたとんでもない言葉に男達は一瞬ポカンとする。ハボックだけがげんなりと肩を落として言った。 「オレの方がよっぽど礼儀正しいじゃん」 「そうか?少なくとも俺はそんな仏頂面で聞いてないぞ」 「笑ってりゃいいってもんじゃねぇだろ?」 「いや、笑顔は大事だって」 互いに顔を見合わせてそんな事を言い合う二人に呆気にとられていた男達だったが、怒りに顔を歪ませると一斉に殴りかかってきた。 「黙って聞いてりゃふざけやがってッ!!」 「ここでの礼儀ってものを叩き込んでやるッ!!」 口々に叫んで襲いかかってくる男達にハボックとカイは向き直る。満身の力を込めて打ち込まれる拳をヒョイとよけると、ハボックは突き出された男の腕を掴んで思い切り捻り上げた。 「礼儀ならオレが教えてやるよ」 そう言うなり捻った腕を更に本来曲がるべき方向とは逆の方へねじ曲げる。そうすれば負荷に耐えられなくなった腕が嫌な音を立てて折れた。 「ギャアアッッ!!」 激痛に悲鳴を上げる男を打ち捨ててハボックは次々と襲いかかってくる男達を難なく退けていく。その傍らでカイも流れるような動作で振り下ろされた鉄棒をよけ、たたらを踏んだ男から棒を奪い取った。 「コイツはこうやって使うんだよっ」 カイは言って手にした棒を頭上でクルクルと回し掴み直す。そのまま体重を乗せるようにして前に突き出せば鳩尾を突かれた男が体をくの字に折り曲げて後方へ吹き飛んだ。 「二人とも間違ってるよな」 「しかもそれに気づいてないし」 ロイを守るようにして立っているヤンとキムが男達相手に暴れ回る二人を見てため息をつく。その背後からロイがうんざりとして言った。 「こんな大騒ぎにしたらチャンに逃げられるだろうが」 「……ですよね」 ボソリと吐き出された言葉にヤンとキムはちらりとロイを見る。整った眉の間に刻まれた皺を見て、ヤンが大立ち回りの中に飛び込んでいった。 「ジャンさん!あんまり騒ぎを大きくするとチャンに逃げられます」 「……そうだった」 殴りかかってくる男の鳩尾に肘を打ち込みながらヤンが言えば、ハボックがしまったという顔をする。三人は残った男達を瞬く間に叩きのめすとハボックはパンパンと手を打ち合わせて埃をはたき、手近に蹲っていた男の襟首を掴んでその顔を覗き込んだ。 「おい、チャンはどこだ?」 「……知るかよ……知っててもテメェには教えねぇ」 「ふーん、そう」 痛みに顔を歪めながらもそう言う男にハボックは眉を跳ね上げる。襟首を掴んだままハボックはヘたり込んだ男の両脚を蹴るようにして左右に開かせ、脚の付け根、体の真ん中に足を載せた。 「このまま踏み潰してもいいけど」 「な……っ」 「どうする?」 そう尋ねながらもハボックは男の返事を待たずに足に体重をかけていく。大事なところを踏み潰されかけて、男は悲鳴を上げた。 「言うッ!!言うから潰さないでくれッ!!」 「じゃあ早く言えよ」 体重をかけるのをやめずに言うハボックに、男は冷や汗を流しながら答える。恐怖と焦りに 「最初から素直に答えりゃいいものを」 ハボックはそう言って体重をかけるのをやめて足を引っ込める。明らかに男がホッとしたのを見て、ガツンとつま先を股間に蹴り込んだ。 「えげつないな、お前」 悶絶する男を見つめてカイがそう言えばハボックがフンと鼻を鳴らす。 「ローラを侮辱した」 静かな、だが怒りの籠もった声にカイだけでなくロイも目を瞠る。ハボックはロイの側に近寄ると黒髪をクシャリと掻き回して言った。 「行きましょう、こんなとこ、長居する場所じゃない」 「……ああ」 触れてくる大きな手のひらの温かさにロイは泣き出したくなる気持ちをこらえて頷く。それを合図にハボック達は建物の入口に向かって歩きだした。 |
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