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| 果てなき恋のバラード 第三十一章 |
| 「ここだ」 カイは路地の中ほどにある小さな店の扉を開ける。雑多なものが溢れかえる薄暗い店内を通り抜けてカイは奥へ進むともう一つある扉に手をかけた。開けようとノブを回せばガチッと錠に当たる音がする。ムッと眉を寄せたカイが扉から少し離れたと思うとガンッと思い切り扉を蹴り付けるのを見て、ロイはギョッとして言った。 「おいっ、そんな乱暴な───」 「蹴破ればいいのか?」 「ちょ……っ、おいッ!」 ロイを押し退けてカイと並んで扉を蹴り付け始めるハボックにロイが慌てる。だが、ロイが止めるのも聞かず二人はたちまち扉の錠を壊して蹴破ってしまった。 「カ、カイさん……ッ」 「久しぶりだな、リュウ」 扉の向こうの小部屋では、一人の男が床に座り込んで、なにやらこそこそと小さな袋をひとまとめにバッグに詰め込んでいる。リュウと呼ばれた男の顔を見た途端、ハボックが「あっ」と声を上げた。 「アンタ、あのアクセサリー屋の!ローラ、こいつ、最初の頃にピンキーリング買った店の奴っスよ!」 「……ああ」 言われてみれば確かにあの時ピアスを勧めてきた男だ。ロイは小指につけたままでいたリングをもう一方の手で握り締めて男を見た。 「あの表通りの店は普通のアクセサリー屋だけど、ここはコイツの裏家業。模造品売りさばいてるんだよ」 カイは言ってリュウの前にしゃがみ込むと男の顔を覗き込んで言った。 「相変わらずケチな商売してんなぁ、リュウ」 「見逃してくれよ、カイさん。あの店だけじゃ食ってけないんだからさぁ」 ニコニコと笑って話しかけてくるカイにリュウが顔をひきつらせて答える。カイはニィッと目を細めてリュウを見た。 「俺、叔父貴に言われて色々調べることがあってさ、その時たまたま聞いたんだけど、お前、盗みに入った家で女に手ぇ出したって?」 「ッッ!!」 ギョッとして飛び上がるリュウの襟首をカイは掴んでズイと顔を寄せる。 「チンケな商売には目ぇ瞑るけどな、人の道に外れる事は許さないぜ」 「魔が…魔がさしたんだよッ!それにあん時はあの女が先に俺を誘って…ッ」 「リュウ」 低いカイの声にリュウが竦み上がる。ごめんなさい、勘弁してくれと床に額を擦りつけるリュウを蔑むように見下ろしてカイは言った。 「知ってることを洗いざらい吐け」 カイの言葉にリュウはハボックとロイを見上げる。ガタガタと震えながらリュウは話し出した。 「マイケル・チャンと言う男なら一ヶ月ほど前に俺のところへ来た」 「な…ッ、お前っ、あの時知らないって!」 思いがけず飛び出てきた名前にハボックが声を荒げる。ズイと前に出ようとするハボックをロイが押し留めて先を促した。 「暫くの間身を隠したいと言っていたからクーロンのアパートを紹介してやったんだ」 「コイツのところにはそういった表で拙い事をしてきた奴が来るんだよ。法外な金取って隠れ場所を提供してやるって訳」 カイがそう説明を入れる。 「この野郎、この間は知らないような顔しやがって」 ハボックがもの凄い形相で睨みつければリュウがヒィと悲鳴を上げる。ハボックは苛々とカイを見て言った。 「大体お前のとこの叔父さんは何やってんだよ。こういう奴をのさばらせておいて良いわけ?」 「何でもかんでもシメたらいいってもんじゃねぇんだよ。そもそもコイツから情報聞き出せなかったのはお前らの腕が悪いからだろ?」 「…ッ、んだと、このッ!!」 カッとなってカイに掴みかかろうとするハボックの腕をロイが掴む。リュウの顔を真っ直ぐに見つめてロイは言った。 「じゃあ今チャンはそのクーロンのアパートにいるんだな?」 「た、たぶん……」 「案内してくれ」 言われてリュウは困ったように目をさまよわせる。低い声でカイに呼ばれてリュウは嫌そうに答えた。 「今日はちょっと……明日なら」 「なんで今日は駄目なんだよ」 リュウの答えにハボックがムッとして言う。そうすればリュウが声を張り上げた。 「俺にだって都合ってもんがあんだよ!今日は駄目だ、絶対駄目!今日でなきゃ駄目だっていうなら案内できねぇ」 そう言うリュウにカイがロイを見た。 「クーロンなら場所は判るから連れていくのは俺にもできるが、あの辺はやっかいなのもいるからな。コイツ連れていった方が楽だとは思うがどうする?」 聞かれてロイはほんの少し考えて答えた。 「なら、明日リュウに連れていって貰おう。そうすれば私たちの方も準備できるし、ヤンとキムも連れていける」 「逃げちまわないっスか?コイツ」 「逃げたら俺がただじゃおかねぇ」 ハボックが言えばカイがリュウをジロリと見て言う。フムとハボックの視線も受けて、リュウは縮み上がりながら『明日は絶対案内する!』と喚いた。 「じゃあ明日、アクセサリー屋の方へ行くからな。いなかったら……どうなるか判ってんな?」 ボキボキと指を鳴らして言うハボックにリュウが何度も頷く。それでも漸く解放して貰えそうだと判ると、ほんの少し緊張を解いて言った。 「アンタ、よっぽどその男とのこと叔父さんに認めて貰いたいんだな」 「えっ?」 突然そう言われてロイが目を丸くする。リュウはロイのピンキーリングを指さして言った。 「アクアマリンは『幸せな結婚』って意味もあるからな。アンタみたいな美人が何を好き好んでこんな奴と結婚したいのか判んないけど、まあ上手く行く事を祈ってるよ」 そんな風に言われてロイは返す言葉を見つけられない。黙ったまま薄暗い店から出れば、後からついてきたハボックが唇を尖らせた。 「なぁにが好き好んでこんな奴と、だよ。ぶん殴ってやればよかった。ねぇ、ローラ」 「えっ?いや……まあ…そうだな」 ボソボソとロイが答えているとリュウの店から出てきたカイが二人を見た。 「じゃあ、明日。アクセサリー屋の方へ来てくれ」 それだけ言ってカイはさっさと行ってしまう。その背を見送っていたハボックがロイに視線を戻せば、指輪を填めた手を大事そうに胸に抱き締めているのを見て目を丸くした。 「……大佐、もしかして本当に結婚したいとか思ってます?」 「えっ?!」 「あ、いや、オレとってことじゃなくて、誰か好きな相手とかいるのかなって」 なんとなく心に浮かんだ事を尋ねたハボックだったが、ロイの反応は思いもしないものだった。 「べっ、別に私はっ、その…ッッ」 カアアッッと顔を真っ赤にしてしどろもどろに言ったと思うとダッと駆けだして行ってしまう。ハボックはびっくりしてその背を見送っていたが、ボソリと呟いた。 「うそ……大佐、好きな人、いんの?」 綺麗な花を楽しむような、そんな恋をしている人だと思っていた。それがあんな反応を見せるなんて。 「大佐の好きな人って誰?」 あのロイをしてあんな顔をさせる相手とは誰だろう。 「あ、やべ……行かなきゃ」 気がつけばロイの姿が見えなくなっている。ハボックは首を傾げながらも慌ててロイの後を追ったのだった。 |
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