果てなき恋のバラード  第三十章


「おう」
「…………本当に来たのか、お前」
 流石にアパートに呼ぶわけにいかずシンの店を待ち合わせ場所に指定すれば、約束の時間通りに現れたカイの姿を見て、ハボックが思い切り顔を顰める。カイはハボックには目も向けずに椅子に腰掛けるロイの側に行くと言った。
「よう、来てやったぜ」
 ニヤリと笑って言うカイに無視された形になったハボックがガタンと乱暴に立ち上がる。
「別に来てくれと頼んでねぇよ!」
 言って肩を掴んでくるハボックの手を払いのけてカイは言った。
「お前のところになんて来てねぇよ。俺はローラのところに来てんの」
「ッ!気安く呼ぶなッ!」
「……いい加減にしろ」
 放っておけばまた昨日と同じように言い合いを始めかねない二人に、ロイが苛々と言う。『だって』とハボックが言いかけるのを視線で黙らせて、ロイはカイを見上げた。
「わざわざ来てくれてありがとう。帰ってきたばかりで忙しいだろうに悪いな」
「まあ、叔父貴の命令っていうのもあるけどアンタみたいな美人の為なら幾らでも協力するぜ」
 カイがニッと笑って言えばその背後でハボックが拳を握り締めているのが目に入る。こっそりため息をついたロイは笑みを浮かべて言った。
「ありがとう。正直そろそろ探す場所がなくて困ってたんだ」
「アンタらじゃ行けない場所もあるからな。その点俺がいればどこだって調べられるぜ」
 カイは自信ありげに言って、まだ昨日の喧嘩の痕が残る店の中を見回す。最後にハボックに視線を向けて言った。
「俺がローラと一緒に探すから、お前はシンの片づけを手伝ってやれよ」
「ッ?!ふざけんなッ!」
 カイの言葉にハボックが目を吊り上げる。ドンとカイの肩を押して扉の方へ押しやって言った。
「帰れ。お前の助けなんていらん。陳大人にもそう言っておけ」
「ダメだ、カイには手伝って貰う」
「ローラっ?!こんな奴に助けて貰わなくてもオレ達だけで何とかなるっス!」
「何とか?実際もう手詰まってるだろう?」
 そう言われてハボックが言葉に詰まる。ロイは店の中を見回して言った。
「大人はああ言ったけど、私も気になってたんだ。カイの言うとおりお前はここの後片付けを手伝って───」
「冗談じゃねぇっスッ!!」
 バンッとテーブルを叩いてハボックが怒鳴る。思わず口を噤むロイをハボックは睨みつけて言った。
「幾らアンタの言うことでもきける事ときけない事があるっス。ここを片付けろっていうなら帰ってきて夜中にだってやるっスよ。でも、アンタをコイツと二人で行かせる訳にはいかないっス」
 そう言って真っ直ぐに見つめてくるハボックに、ロイは言葉を返せずに俯く。そのまま二人が黙ったままでいれば、それまで成り行きを見守っていたシンが口を開いた。
「店の事なら気にしないでください。もう少ししたら手伝いの人も来るし、それにジャンに手伝わせたら、俺、凄い恨まれそうだし」
「シン」
 笑いを含んだシンの声にロイは申し訳なさそうに眉を寄せる。それからハボックを見てため息混じりに言った。
「判った。だったら三人で行こう」
 ロイの言葉にハボックがホッと息を吐きカイが肩を竦める。ロイは椅子から立ち上がるとハボックを見つめ、それからカイに視線を移して言った。
「カイ、よろしく頼む」
「結局野郎付きか。まあ仕方ないね」
 カイはロイとロイにピッタリと寄り添って立つハボックを見て苦笑混じりに言うと、二人を促して店の外へと出た。


「それで、これまでにどこを調べたんだ?」
「とりあえず片っ端から聞き込みを。でも、誰も叔父を知っているどころか噂を聞いた人もいなかった」
 カイはそう答えるロイを見て、それからハボックに視線を向ける。ジロジロと見つめてくるカイにハボックが眉を顰めて言った。
「なんだよ。言いたい事があるなら言えばいいだろう?」
「……アンタら二人で聞いて回ってたわけ?」
「そうだけど?」
 ハボックが答えれば『ふぅん』と肩を竦めるカイにハボックがカッとなる。
「言いたい事があるなら言えって言ってんだろッ!」
「じゃあ言うけどな」
 ハボックが言った途端、先を歩いていたカイが振り向いて答えた。
「アンタらみたいのが連れだって歩いてたら誰も答えてくれねぇよ」
「どうしてだ?」
 カチンとして言い返そうとするハボックを制してロイが聞く。カイは立ち止まると二人を見つめて言った。
「目立つからな、アンタら」
「……は?」
 言われてハボックがキョトンとする。同じように目を丸くしてロイが首を傾げた。
「目立つ?」
「良くも悪くも目立つよ、二人とも。そんなのがここへやってきて人探ししてたら『一体なんだろう』とみんな警戒する。ここは狭い世界だからな」
 カイの言葉に思わずハボックとロイは顔を見合わせる。そんな事などまるで考えても見なかったという(てい)の二人に、カイはクスクスと笑った。
「なんだよ、全然気づいてなかったわけ?信じらんねぇ」
 さも可笑しそうに笑われてハボックがムッとして言う。
「オレのどこが目立つんだよ。ローラならともかく」
「はあ?私よりお前の方がよほど目立つだろう?デカい図体して!」
「なに言ってるんスか、アンタの方が目立ちますって」
「まあまあ」
 くだらない言い合いを始めるハボックとロイをカイがまあまあと宥める。不服そうに見つめてくる二対の瞳に、カイはニヤニヤと笑って言った。
「これまでの事はまあいいじゃないか。これからは俺がついてるから。ね?ローラ」
「……ありがとう、カイ」
 パチンとウィンクしてくるカイにロイが頬を引き攣らせて答える。先を歩くカイについて歩きながらハボックがロイに囁いた。
「ほら、やっぱアンタが来るから目立つんスよ」
「なんだと?お前の方が目立ってるに決まってるだろうっ?」
 コソコソと言い合っていればカイが肩越しに振り向いて言う。
「とにかくさっさとその叔父さんとやらを探しましょ?とりあえず俺に心当たりがあるんで」
 そう言ってカイは細い路地に入っていく。ハボックとロイは視線を交わして頷きあうと、カイを追って路地に入っていった。


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