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| 果てなき恋のバラード 第二十二章 |
| コンコンと扉をノックすれば扉が開いて目つきの鋭い男が顔を出す。先頭に立つヤンと、その後ろのロイ達を頭のてっぺんから爪先までじろじろと眺めて言った。 「見かけない顔だな、何の用だ?」 「俺はヤン・コウエイと言います。暫くこの町に滞在したいので陳大人にご挨拶に来ました」 言って体の前で片手の拳をもう片方の手のひらに当てる独特のお辞儀をしてみせるヤンをじっと見つめていた男は、フンと鼻を鳴らして顎で入るよう示す。それに礼を言ってヤンはロイ達を促し、先に立って奥の部屋へと入っていった男の後を追った。 「ここで待っていろ」 男はロイ達を一室に案内するとそう言いおいて部屋を出ていく。椅子はあるものの座って待つ気にはなれず、それぞれに部屋の調度品などを眺めて待てば、暫くして男が戻ってきた。 「大人が会ってくださるそうだ、来い」 言われてロイ達は顔を見合わせ軽く頷く。男の後について階段を上がり、二階の中央の部屋へと案内された。 「大人、連れて参りました」 扉の外から男がそう声をかければ入るようにいらえがある。 「おかしな真似をしてみろ、体に穴が開くからな」 男はそう釘をさしてから扉を開けた。ヤンを先頭に入った部屋の中央に置かれた椅子に二人の男を背後に従えて男が座っている。ヤンはその前に進み出ると拳を手のひらに当てて頭を下げた。 「お時間を裂いて頂いてありがとうございます、陳大人。俺はヤン・コウエイ、こちらは主人のローラ・チャンです」 ヤンはそう言って背後に立つロイを紹介する。陳と呼ばれた男はヤンの言葉に頷いてロイを見上げると手を差し出した。 「ようこそ、コミュニティへ。貴方のような美しいご婦人ならコミュニティはいつでも歓迎しますよ」 「ありがとうございます、陳大人」 ロイは言って差し出された周の手を握る。陳はロイの後ろに立つハボックとキムに目を向けて尋ねた。 「そちらのお二人は?」 「ああ、私の家の者でキム・ジェソン」 ロイの言葉にキムが手を合わせて礼をする。それに続いてハボックを紹介しようとして、ロイはゴクリと唾を飲み込んだ。 「こっちは……その、私の」 (落ち着け、さらりと言えばいいんだ、さらりと) そう考えてロイは腹に力を入れる。続きの言葉がロイの唇から零れるより一瞬早く、ハボックが言った。 「ローラの婚約者のジャン・スジョンっス。初めまして、陳大人」 そう言ってにっこりと笑うハボックにロイはビックリしてあげかけた声を飲み込む。陳は人懐こい笑みを浮かべるハボックとロイを見比べて言った。 「おや、婚約者がご一緒でしたか」 「ローラを一人で行かせるのは色んな意味で心配だったもんで。オレ、やきもち妬きなんス」 「確かに彼女は魅力的だ」 「でしょう?」 陳が差し出した手を握りながらハボックが悪戯っぽく笑う。陳は品定めするようにハボックを上から下まで見た後、ロイに視線を移して言った。 「こんな頼もしい彼が一緒なら心配はないでしょうが、何かあったら遠慮なく言ってください」 「ありがとうございます」 ロイは言って手を体の前で合わせて礼をする。そうしてロイ達は陳の前を辞して建物から出たのだった。 「いつの間に恋人から婚約者に格上げしたんだ」 ロイは言ってハボックを睨む。コミュニティでの拠点と決めたアパートの一室で、ハボックはプカリと煙草の煙を吐き出して言った。 「恋人より婚約者の方が自然かなと思って。それに大佐、躊躇ったっしょ」 恋人っていうの、と面白そうに言う男にロイは肩を竦める。 「うら若い女性なら一緒にいる男を恋人だと言うには恥じらうかと思ったんだ」 「そんなもんスかねぇ」 今時の女の子ってもっとサバサバしてねぇっスかと言うハボックにロイはニヤリと笑って見せた。 「私の方がお前より経験値が上だ」 「うわー、ムカつくー」 思い切り顔を顰めるハボックに声を上げて笑いながら、ロイはハボックへの恋心を心の奥底へねじ込む。そんなロイの気持ちに気づかず、ハボックが言った。 「ここに来た理由は聞かれなかったっスね」 「うろうろせずに来てすぐ挨拶に行ったからな。向こうも様子を見てるんだろう」 「なるほど」 ちょうどその時、ノックの音がして隣の部屋のキムが顔を出す。 「ジャンさん、ラジオのアンテナ、合わせました」 「そうか───ローラ」 「ああ」 キムの言葉に頷いてハボックはロイを促した。二人はキムと一緒に隣の部屋に移る。そこの一室でヤンがフュリーから渡された通信システムを前に待っていた。 「でてますよ」 そう言われてロイは頷くと通信システムの前に座る。そうすればホークアイの声が聞こえた。 『聞こえますか?ローラ』 「ああ、良好だよ」 『……もっと女の子らしい口のきき方をなさいと言ってるでしょう、ローラ』 「ッ」 呆れたような面白がるような口調で言われてロイはムッと押し黙る。そんなロイのホークアイが言った。 『そちらの様子はどうですか?』 「とりあえず予定通りだ。陳大人に挨拶してアパートに入ったところだよ。これから手分けしてチャンの行方を探す」 『そうですか、くれぐれも無理はなさいませんよう。こちらでも引き続き調べて何か判りましたら連絡します』 「頼むよ」 そう言うと同時に通信が切れる。ロイは見下ろしてくる色の違う三対の瞳を見上げて言った。 「よし、それじゃあ早速行動に移るぞ。こんなところに長居は無用だ」 そう言えば三人が一瞬目配せして答える。 「「アイ・マァム!」」 それを聞いてロイは思い切り顔を顰めた。 |
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