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| 果てなき恋のバラード 第十九章 |
| チャンの行方を探してハボック達はイーストシティの街を走り回ったが、その行方は一向に掴めなかった。 「まったく、どこに潜り込んでいやがるんだか……」 ブレダが忌々しげに呟いて煙草の煙を吐き出す。ハボックはその煙を目で追いながら尋ねた。 「チャンって名前、シンとかあっちの方の名前だよな。ってことはもしかしてコミュニティにいるんじゃねぇの?」 そう言うハボックの言葉にブレダが目を瞠る。ソファーにだらしなく寄りかかっていた体を起こして灰皿に煙草を押しつけると言った。 「そうか。くそ、なんで最初から気づかなかったんだ?」 イーストシティの東の外れにはシンを初めとする東方の諸国出身者が作るコミュニティと呼ばれるブロックがあった。 「でも、あそこに逃げ込まれたとしたらやっかいだぞ」 コミュニティはイーストシティの中で何処よりも排他的で同胞を大切にする。もしチャンが助けを求めてコミュニティに逃げ込んだとしたら、たとえチャンが極悪人だとしてもチャンの事を守るに違いない。 「どうすんだよ……」 ブレダが何とか上手い案がないものかと考え込んだとき。 「潜入捜査するしかないんじゃないか?」 突然頭上から降ってきたロイの声に、ブレダとハボックは驚いて上を見上げた。 「大佐?!」 いつからそこにいたのか、司令室の片隅に置かれたソファーのすぐ側に立ったロイが言った。 「炙り出すのが無理ならこちらから捕まえに行くしかないだろう?」 「そりゃそうっスけど……」 如何せん場所が場所だ。少人数で行動しなければならないだろうしそれなりの腕も要求される。なによりそのコミュニティの中で“目立たない”ということが前提となれば尚の事人選は厳しくなるだろう。 「隊の中で探してみますけど……」 ハボックはそう呟いて部下たちの顔を思い浮かべる。それぞれ腕に覚えのあるものばかりだが、見てくれが目立たない者と思うとそうはいなかった。 「ヤンならなんとか……後は」 頭の中で部下の見かけと能力を秤に掛けながら考え込むハボックにロイが言う。 「私が行こう」 「はあっ?何言ってるんスか、アンタ!」 「そうですよ、いきなり何言い出すんです、大佐!」 ロイの言葉に驚いてハボックとブレダが弾かれたように立ち上がった。 「悪い冗談はやめてください。アンタをそんなところに行かせられるわけないっしょ」 「ハボの言うとおりです。それに大佐じゃコミュニティに入った途端怪しまれちまいますよ」 「だが私なら黒髪だし何とか誤魔化せる」 そう言うロイはもう決めてしまったように見える。 「大佐」 目を吊り上げたハボックが何か言おうとした時、司令室の扉が開いてホークアイが入ってきた。 「……どうしたの?みんな」 ただならぬ気配にホークアイが驚いたように言う。ロイが口を開く前にハボックはロイの細い体を押し退けるようにして言った。 「チャンがこんなに見つからないのはコミュニティに逃げ込んだからじゃないかって話になって…。そしたら大佐が自分で行くって言い出したんスよ」 自分が止めても聞かないならホークアイに止めて貰おうとハボックが訴える。ホークアイが問いかけるようにロイを見ればロイが頷いて言った。 「コミュニティは特殊な地域だ。入るのに制限はないが誰もが歓迎されるわけじゃない。それも中に入り込んだ犯人を探しだそうというんだからな。それなりの人選が必要だろう?」 「だからって何でアンタなんスかっ?!」 「私なら混血で通るかもしれんだろう?」 そう言って笑うロイをハボックは睨みつける。助けを求めるようにホークアイに視線を向けたが、彼女はため息をついただけだった。 「中尉にも異存はないようだな」 「異存がないわけではありません。代案を思いつかないだけです」 苦々しげに言うホークアイにロイが苦笑する。二人のやりとりを聞いていたハボックが言った。 「判りました。どうしてもアンタが行くっていうならオレの部隊の奴を人選するっスから連れていってください。それから」 とハボックはロイをじっと見つめる。 「オレも行きます」 「な…っ」 きっぱりと言うハボックにロイが目を見開く。 「おい、ハボ。いくら何でもそりゃ無理だろう?フュリーやファルマンならともかく、お前じゃ目立ちすぎ───」 「髪なら染める。カラーコンタクトがあるだろ、それ入れれば目の色だってなんとかなる。大佐がミックスで通すならオレもそうする」 「ハボック、お前」 頑として引く様子のないハボックにブレダがロイを見る。驚きに目を見張っていたロイは、ため息をついて肩を落とすと言った。 「勝手にしろ」 「そうします。大佐を一人で行かせるわけには行きません。大佐を守るのがオレの役目っスから」 そう言って見下ろしてくる空色の瞳にロイの体が震える。だが、ロイはそれ以上何も言わずに 「ハボック少尉、人選をお願い。ブレダ少尉の隊の中からでもいいわ」 「アイ・マァム!」 ハボックは答えて敬礼を返すとブレダと頷きあって人選を始めた。 執務室に入るとロイは扉に背を預ける。今回コミュニティに行くと言い出したのはそれが一番いいと思ったからだが、それ以上にハボックから離れたいという気持ちもあった。 (それなのに……) 蓋を開けて見れば結局ハボックと行動を共にする事になっている。むしろ司令部にいる時よりももっと一緒にいなければならないようで、ロイはため息をついた。 (……ハボック) 一人では行かせられないと言ってくれたのが嬉しかった。だが、それはあくまで護衛官の立場としての発言だと判っているだけに辛くもある。 (ほっといてくれればいいのに……) 実際にはそんなことなど出来るはずもないと判っていながら、ロイはそう思って唇を噛み締めた。 |
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