| 傍迷惑な恋 第十四章 |
| 「よし、ロイ。少尉の話をするんだから今日は少尉が好きそうな店に飲みに行こうぜ」 人々で賑わう通りを歩きながらヒューズが言う。ロイは並んで歩きながらヒューズを見て言った。 「それは構わないが……。それよりお前、中尉になんて言ったんだ?」 積まれた書類を片づけないことには絶対に執務室から出して貰えないだろうと思っていたロイの考えに反して、ホークアイはロイが仕事を放り出して帰ることに何ら小言を言わなかった。 「やっぱ中尉も心配してるんだろ、お前と少尉のこと。早くうまくいって欲しいと思ってるのさ」 ホークアイが何も言わなかったのは自分の手腕に期待してるんだろうとヒューズは思っていたが、実際はホークアイがこの事には絶対にかかわり合いになりたくないと思っているのと、何よりさっさとヒューズにやりたい 事をやって気を済ませてさっさとセントラルに帰って欲しいと思っているからであった。 「中尉も応援してくれてる。頑張ろうな、ロイ」 握り拳を作って言うヒューズにロイも頷く。いい加減事態を打破したいのはロイもずっと思っていたことで、ヒューズが何か妙案を教えてくれるというならそれは願ってもないことだった。 「ハボックが好きそうな店にいくって、ヒューズ、お前知ってるのか?」 構わないと言ったものの、ロイはハボックが普段どんな店に飲みに行っているのか全く知らない。一緒に飲みに行きたいと思っても、勇気がなくてとても誘えなかったからだ。ヒューズはニッと笑って答えた。 「任せとけ。ちゃんと事前にリサーチ済みよ」 昼間ブレダにハボックから連絡がある筈だから絶対に一緒に飲みに行け、と言った時、あらかじめどこの店にいくかを聞いておいた。どちらが先につくにせよ今夜ハボック達はその店に飲みに行く筈で、そこに行けば必ず鉢合わせるというわけだ。 「その辺はちゃんと抜かりない───」 と言いかけて、ヒューズはロイが不機嫌そうであることに気づく。どうした、と視線で尋ねればロイがヒューズを睨んで言った。 「ずるい」 「へ?」 「私はハボックが普段どんな店で飲むのかなんて知らないのに、お前は知ってるなんて」 ずるい、と思いきり睨まれてヒューズはひきつった笑みを浮かべる。自分だってハボックが普段どんな店に行くのかを知ったのはつい数時間前の事だし、それも本人から直接ではなくブレダ経由だ。だが、そんなことなど関係ないとばかりに睨んでくるロイにヒューズはへらへらと笑って言った。 「なに、そんなこと気にしなくても、すぐお前の方が少尉の好みに詳しくなるって。それも本人から直接聞いてさ」 「そ、そうかな……そうだといいな」 「おうよ、絶対よ!」 安易に安請け合いしてヒューズが言う。それでもそう言われればそうなる気がしてロイはにっこりと笑った。 「お、ロイ。あそこだ、あの店!」 笑うロイに笑い返していたヒューズはすぐ前方に建つ店を指さして言う。店の外まで賑やかな声が聞こえてくるその店を見て、そこにハボックがいると言うわけでもないのにロイは胸がドキドキしてきた。 「ヒューズ、ちょっと入るの、待ってくれ」 「へ?どうして?」 ヒューズが不思議そうに尋ねればロイが目尻を赤くする。 「ハボックがいつもあそこで飲んでると思ったらドキドキして……」 赤い顔でそんな事を言うロイにヒューズは胸がキュンとしてしまう。 「ロイ、かっわいいーーッ」 そう叫ぶと、ヒューズはそこが往来であることも忘れてロイの体をギュウッと抱き締めたのだった。 「あ、ブレダぁ!」 司令部の入口をくぐったブレダは、友人の声を聞きとめて階段を降りようとしていた足を止める。きょろきょろと見回せば司令部の門の陰から手を振るハボックの姿が見えた。 「ハボ、遅くなるかもしれねぇから直接店で待ち合わせって言ったろ?」 駆け足で階段を降りてハボックのところまでやってくるとブレダが言う。ハボックは困ったようにボリボリと頭を掻いて言った。 「いや、なんかブレダあんまり気乗りしてないみたいだったからさ、来てくれないかもって心配になっちゃって」 へへへ、と笑う友人にブレダは肩を落とす。いっそ全部すっぽかして帰れるのならどれほどいいかと思っているとハボックが心配そうにブレダの顔を覗き込んだ。 「ブレダ、やっぱ迷惑だった?」 親犬に縋りつく子犬のような顔で見つめてくる友人にブレダはため息をつく。ハボックの金髪をかき混ぜて言った。 「別に迷惑じゃねぇよ」 そう言って笑えばハボックがホッとした顔をする。 (結局この顔に弱いんだよな、俺は) ブレダはハボックの背中を叩くと「行こうぜ」と促して歩きだした。 「今日はトムズ・バーに行かねぇ?」 歩きながらそう提案するハボックにブレダは慌てて首を振る。 「今夜は金狼亭だ。そういう気分なんだ、そこじゃなきゃ行かねぇぞ、俺は」 ちょっときつい口調でそう言われてハボックは目を見開いたがすぐに頷いた。 「いいよ、今日はつきあってもらうんだもん。ブレダが行きたいところに行こう」 「お、おう。サンキューな」 にっこりと笑って言うハボックにブレダは胸が痛む。だが、今日はなにが何でも金狼亭に行かなければただではすまない身としては、多少の胸の痛みなど目を瞑るしかなかった。 「なあ、ブレダ。オレ、今日一日考えてたんだけど、考えれば考えるだけ大佐の事が好きなんだ。大佐がオレのこと好きになってくれなくてもいいから傍にいたい。でも昨日あんな事言っちまって……。どうしたらこれまで通り傍にいられるか、一緒に考えてくれな」 足下を見て歩きながらそんな事を言うハボックにブレダは顔を顰める。いっそ自分がハボックにロイの気持ちを伝えた方が早いんじゃないかと思いながら言った。 「言えばいいだろ。夕べは酔った勢いで変なこと言っちまいました。本当はずっと傍にいたいです、って」 そう言えばハボックは足を止めてブレダを見る。ブレダは自分を見つめてくる空色の瞳を見返して続けた。 「でもって、ずっとずっと好きだったんです、って言っちまえ」 けしかけるようにそう言えばハボックは目を見開いてブレダを見る。それから悲しそうに顔を歪めて言った。 「言えねぇよ。大佐は中佐のことが好きなんだもん」 「はっきり好きだって聞いた訳じゃねぇだろ?それに大佐が誰を好きだろうと関係ねぇだろうが。大佐が他の奴を好きだとお前の大佐を好きって気持ちはなくなっちまうのか?」 「そんなわけないだろッ!!オレは本気で大佐が好きなんだから!」 ブレダの言葉にハボックがカッとして言う。次の瞬間ハッとして慌てて口元を押さえるハボックにブレダは笑った。 「そんだけはっきり言えるなら問題ないな。後はそれを本人に言え」 「……それでやっぱり中佐が好きって言われたら?」 「そん時はやけ酒でもなんでもつきあってやる」 そう言って笑う友人に、ハボックは笑って頷いたのだった。 「金狼亭、今からだと混んでるかな」 「そうだな。でも二人ならなんとかなるんじゃねぇ?」 値段の割に味も良く、ボリューム満点のその店は若くて金のない連中に人気の店だった。ハボックとブレダは少しでも早く店に着こうと足を早める。店の門構えが見えて更に足を早めようとしたブレダは、突然足を止めた ハボックを怪訝そうに振り返った。 「どうした?ハボ」 そう尋ねたがハボックは凍り付いたように動かない。 「ハボック?」 心配したブレダがハボックの腕を掴めば、ビクリと震えてハボックが言った。 「あれ、大佐と中佐だ」 囁くような声で言うハボックの言葉に店の方を振り向いたブレダは店先でロイをギュウッと抱き締めているヒューズの姿に目を瞠る。キュッと唇を噛んで二人に背を向けて歩きだそうとするハボックを、ブレダは掴んだ腕を引いて引き留めた。 「ハボック!」 「だって、あんなとこ見せつけられたらオレ、なにも言えねぇよ」 そう言って首を振るハボックの腕を掴む手に力を込めてブレダはハボックを見る。 「それで?逃げるのか?一度も気持ち打ち明けないまま逃げんのかよ、ハボ!」 「……ッ」 そう言えばハボックの体がビクリと震える。見つめてくる揺れる空色に頷いてブレダは言った。 「この際だ。今ここで大佐に好きだって言っちまえ。で、それでも大佐が中佐を好きだって言うなら中佐のこと一発殴って諦めろ。それですっきりすんだろ?」 「ブレダ……」 ヒューズの思惑には反するだろうが、いっそこうしてはっきりと向き合った方がハボックらしいと思いながらブレダが言う。 「………」 ブレダの言葉にギュッと拳を握り締めて、ハボックは抱き合う二人に向かってゆっくりと歩きだした。 |
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