| FLARE BLUE 第九章 |
| 「んーと、こんなもんでいいかな。あんまり買い込んで駄目にしてもつまんないし」 ハボックは大きな紙袋を二つ抱えて呟く。なにか買い忘れはないだろうかと考えて、ハッと思いついて顔を顰めた。 「一番大事なもん忘れてんじゃん、オレの馬鹿っ」 そう自分のことを罵って、ハボックは通りを歩いていく。角の煙草屋で愛用の煙草のカートンを三つほど買い込んで、ホッと息をついた。 「メシより大事なもんを忘れちゃ駄目だっての」 正直食事は抜いても我慢できるが、煙草がないのは耐えられない。これで一安心と通りを歩いていたハボックは、反対車線に停まった車の中に見知った顔を見つけて目を見開いた。 「あれは」 白い肌に真っ直ぐな黒い髪。なにより印象的な瞳は忘れようもない。ハボックはニンマリと笑うと軽い足取りで軍用車に近づいていった。 「大佐、そのままお待ちください」 「中尉?」 交差点で車を停めたホークアイが突然そう言い出すのを聞いて、ロイは目を丸くする。ドアを開き運転席から降りるホークアイを一体なんだと視線で追ったロイは、窓の向こうこちらに近づいてくる男に気づいて目を見開いた。 「アイツ……っ」 腕に大きな紙袋を抱えて近づいてきた男は、ロイが見ていることに気づいて手を振る。そのまま車の側までやってくると窓ガラスを叩こうと軽く握った拳を上げた。その時。 「止まりなさい」 車から降りたホークアイが男に銃を突きつけて言う。ギョッとした男は窓ガラスを叩くために上げた手をそのまま更に高く上げた。 「オレは別に怪しいもんじゃ────うわッ」 ホークアイは男が上げた手を掴んで後ろ手に捻り上げ、車のボンネットに押さえつける。男が持った紙袋からゴロゴロとジャガイモやタマネギが転がり落ちた。 「あっ、オレの食料っ────いてててッッ!」 慌てて身を起こそうとすればホークアイに力任せに押さえつけられて、男は情けない悲鳴を上げる。その様にホークアイが形の良い眉を跳ね上げた時、ロイが慌てた様子で車から降りてきた。 「中尉っ」 「大佐!そのままお待ちくださいと────」 「そいつはハボックと言って決して怪しい奴じゃ──いや、怪しくないわけじゃないが」 「そこはきっぱり怪しくないって言って下さいよッ」 一瞬考え込むロイに、ハボックが押さえつけられたまま叫ぶ。そのやりとりに二人の顔を交互に見比べて、ホークアイが言った。 「お知り合いですか?」 「顔を知っている程度だがな」 ロイの言葉にホークアイはハボックを押さえつけていた手を離す。ハボックは捻られた腕を痛そうに振ると、転がった野菜を拾い集めた。 「酷いっスよ、なんもしてないのに」 「私は護衛官も兼ねてるの、当然の措置よ」 「怖いオネェサンだなぁ、美人なのに────っと!……冗談っス」 チャッと銃口を向けられてハボックは慌てて手を上げる。降参のポーズを取りながらヘラッと笑うハボックに、ホークアイは眉を顰めたものの銃をおろした。ハボックは「どうも」とにっこり笑うとロイに視線を向ける。スラリとした軍服姿を上から下までしげしげと眺めて、ハボックは言った。 「アンタ、その若さで大佐なんスか?」 「……貴様、私を幾つだと思ってるんだ」 「え?精々二十歳そこそこっしょ?」 キョトンとして言うハボックに、ホークアイがクスリと笑う。それをジロリと睨んでロイが言った。 「私は二十九だッ!」 「は?オレより五つも年上っ?有り得ねぇッ!」 大袈裟に驚くハボックに、ロイが顔を赤らめる。ホークアイが笑いをこらえてロイの代わりに答えた。 「この人はロイ・マスタング。二十九歳にして正真正銘アメストリス国軍の大佐よ」 「ロイ……マスタング?」 聞き覚えのある名前にハボックは目を見開く。ズイと顔を寄せまじまじとロイを見つめた。 「うっそー……オレ、キスしちまっ──、テェッ!!」 言いかけた途端思い切り上から拳を叩きつけるように頭を殴られて、ハボックは地面にヘタリ込む。頭をさすりながら見上げれば真っ赤になったロイに睨まれて、ハボックはやれやれとため息をついて立ち上がった。 「その、驚かせてすんませんでした。別になにか悪さしようと思った訳じゃないっスよ。ただ知った顔が見えたんで」 (これまでに散々悪さしたろうッッ!!) ハボックの言葉にロイは内心目の前の男を罵る。普段は聡いホークアイも流石にこの声は聞こえず、肩を竦めて答えた。 「そのようね。でも気をつけた方がいいわ。不審な動きを見せたらたとえ大佐の知り合いでも容赦しないから」 「肝に銘じときます」 ハボックは苦笑して答えるとロイを見る。 「今度一杯奢らせて下さい。“K”って店。この間教えたっしょ?たいていあそこにいるから」 そう言ってもロイは睨んでくるばかりで答えない。ハボックは困ったように笑って頭を掻いた。 「まあ、じゃあそう言うことで。お仕事頑張って下さぁい」 ハボックはそう言うと手をひらひらと振って行ってしまう。その背をロイは忌々しげに、ホークアイは半ば呆れて見送ったのだった。 |
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