| FLARE BLUE 第八章 |
| 「んー……」 ハボックはベッドに起きあがると思い切り伸びをする。ボリボリと頭を掻いたハボックはのろのろとベッドから足をおろした。 「あー……なんかすっきりしねぇ」 ため息混じりに呟いて首をグリグリと回す。やれやれと立ち上がると少しでも頭をすっきりさせようとシャワーを浴びに浴室へ入った。 ある人物から依頼でブレスレットを盗み出したハボックだったが、肝心の依頼主に連絡が取れなくなってしまった。何度連絡を入れても連絡がとれない苛立ちを紛らわそうと飲みに出かけてはみたものの、ポケットの中のブレスレットはその大きさに反して存在を主張して、落ち着かないままに飲んだ酒はちっとも気分転換にならなかった。結局あまり飲まないうちにアパートに戻ってきたハボックは、彼にしては随分と早いうちにベッドに潜り込んでしまったのだった。 「ふぅ……」 ハボックは顔を仰向けて振ってくるシャワーの水滴を浴びる。細かい水滴の刺激で漸く頭がすっきりして、ハボックはざっと髪と体を洗うと浴室を出た。 「さて、と……」 濡れた髪をタオルで拭きながら出てきたハボックは、キッチンに向かう。冷蔵庫から牛乳を取り出しパックのまま口を付けて飲みながら、ハボックは冷蔵庫の中を覗いた。 「卵くらいしかないか……」 そういえば最近買い物に行っていなかった。寂しい冷蔵庫の中身に眉を下げたものの、そうしたところで中身がが変わるわけではない。ハボックは取り出した卵でスクランブルエッグを作ると、バケットとコーヒーで簡単に朝食をとった。 「どうしようかなぁ……」 ハボックはそう呟いて、ブレスレットを目の前に翳す。どうにも一つの仕事に区切りがつかないと次の仕事を受ける気にならず、ということはこのブレスレットを何とかしなければ新しい仕事を受けられないということだった。 「それは困る」 蓄えがないわけではなかったが、何もせずに日々過ごすにはまだまだエネルギーが有り余っている。ハボックは食後の一服を吸いながらチャラチャラと手の中でブレスレットを弄んだ。 「夜になったら店に行ってみるか。何か連絡が入ってるかもしれないし」 自分の方から連絡を入れることばかり考えていたが、もしかしたらどうしても家に戻れない依頼主がそもそもの窓口にしていた店の方に何かしらメッセージを残しているかもしれない。 「いざとなったら店に預けちゃおう」 いつまでも手元に置いておくのも落ち着かない。ハボックはそう決めてしまうと短くなった煙草を灰皿に押しつけた。 「そうと決まったら今日は久しぶりに買い物にでも行くかな。あの冷蔵庫の中身じゃ寂しいし」 それほど自炊はしないものの、あんまり空っぽなのも寂しすぎる。 「…………また会ったりしてな」 その時、不意に印象的な黒曜石の瞳が脳裏に浮かんでハボックは呟いた。 「今度会ったら飲みにでも誘ってみるかなぁ」 キスすれば真っ赤になって睨んできたロイを思い出してハボックは笑みを浮かべる。何となく楽しい気分になって、ハボックは汚れた食器をシンクに放り込むと札入れを尻のポケットにねじ込み外へと出かけていった。 「大佐、中尉」 車から降りたロイがホークアイと共に現場である倉庫の一つに向かって歩いていけば、入口に立っていたブレダが気づいて声をかけてくる。足早に近づくロイに、ブレダは中を指し示して言った。 「この中です。殺されていたのは四、五十代の男で、あまりのスプラッタぶりに魂消た憲兵が、軍の方へ連絡を入れてきたようです。その状況も異常でしたしね」 ブレダは言いながら二人を中へと案内する。荷物が積まれた倉庫の一番奥、積まれた荷物に隠れるようにして床の上に奇妙な陣が描かれていた。 「この陣の真ん中に死体があったとかで」 ブレダが言うのを裏付けるように、陣の真ん中には大量の血が染み込んでいる。死体はもう片付けられていたが、染み込んだ赤黒い血の痕がかなりの広範囲に広がっているのを見れば、死体の状況がかなり酷いものであったのは想像に難くなかった。 「これは錬成陣でしょうか?」 ホークアイが床に描かれた陣を見て言う。ロイはしゃがみ込んで陣に触れ描かれた文字を指先で辿り、立ち上がって全体を見つめた。 「錬成陣とは少し違うようだが……これと似たような陣を以前どこかで見たような気がする」 錬成陣は錬金術師によって様々だが、床に描かれたこれは錬金術の陣とは違うようだ。それよりも以前どこかでみたような、そんな記憶の襞を擽るものをロイは感じたもののすぐには思い出せなかった。 「何の陣にせよ、一応こうしておこう」 ロイはそう言って、錬成陣の一部を軍靴の裏でこすって消した。 「後でゆっくり調べてみたい、どこかで見た記憶もあるしな。正確に写し取っておいてくれ」 「あー、はい」 嫌そうな顔を隠しもせず、ブレダが答える。部下に指示して陣を写し取る準備をするブレダをおいて、ロイはホークアイと共に倉庫を出た。 「詳しいことはまだ判らないが、嫌な気配のする陣だった。何か悪いことが起きなければいいが」 「一体誰が描いたんでしょう。しかもその陣の真ん中で殺人なんて」 ホークアイの言葉にロイは軽く頭を振ってため息をついた。 |
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