FLARE BLUE  第六十四章


「おはようございます!大佐」
 司令室の扉を開ければ飛び出してきてフュリーの元気のよい声に笑って返して、ロイは執務室へと向かう。一緒に来たハボックを大部屋に残して執務室に入った途端、机の上に山積みになっている書類を見てロイは眉を顰めた。
「おはようございます、大佐」
 思わず足を止めて書類の山を睨みつけていたロイは、背後からかかった声にゆっくりと振り向く。そうすればファイルを一抱え抱えたホークアイが立っていた。
「中尉」
「どうかなさいましたか?」
 うんざりとした様子で見つめてくる黒曜石に構わずホークアイは手にしたファイルを書類の山の上に積む。小脇に挟んでいたファイルを広げてロイを見た。
「本日は午前中に一つ、午後二つ会議の予定が入っております。午後の会議は外出になりますので、昼は車の中でサンドイッチで済ませて頂いて────」
「中尉」
 今日の予定を読み上げるホークアイの言葉をロイは静かに遮る。ファイルから目を上げて見つめてくるホークアイにロイは言った。
「午後の予定はキャンセルしてくれ。書類は午前中に片づける」
「大佐」
「心配するな、私は大丈夫だ」
 ニッと笑うロイにホークアイはため息をつく。開いていたファイルをパタンと閉じた。
「本当におやりになるおつもりなのですか?」
「そう言っただろう?」
 絶対にやめるつもりはないという強い決意をロイの表情に読みとったホークアイは、緩く首を振った。
「仕方のない人ですね。何か私に出来ることは?」
「そうだな、上の連中から横槍が入らないよう、うまく誤魔化しておいてくれ。それと、帰ったら旨いコーヒーを頼むよ」
 まるでちょっと仕事をサボって遊びにでも行くような調子でそんな事を言うロイをホークアイはじっと見つめる。自信に満ちた笑みを浮かべる顔を見て、ホークアイも漸く笑みを浮かべた。
「書類、よろしくお願い致します。他にも急ぎのものがあればすぐ持ってこさせますので」
「明日に回せるものは明日にしてくれ。今夜は忙しいだろうが明日からはまた通常勤務だからな」
「────そうでしたね」
 言って席に着くと早速書類に手を伸ばすロイに頷いたホークアイはファイルを小脇に抱えて執務室を出ていった。


 執務室の扉を閉めて、ホークアイは大部屋の中を見回す。窓辺に寄りかかって煙草の煙を吐き出すハボックの横顔をじっと見つめたホークアイは、ゆっくりとハボックに近づいた。
「なんスか?お使い?書類持っていきましょうか?」
 外を眺めていた視線をホークアイに移してハボックが言う。うっすらと笑みを浮かべる精悍な顔を見つめてホークアイは言った。
「あの人にほんの一筋でも傷を付けたら撃ち殺すわよ」
「あの人が無茶しなきゃ大丈夫っスよ」
「無茶させないようにするのが貴方の役目でしょう」
「うわあ、それ、滅茶苦茶難題っスね。あの人の性格、よく判ってるっしょ」
 眉を下げてそう言うハボックをホークアイは無表情に見つめる。その鳶色の瞳を見返して、ハボックは肩を竦めた。
「そんなに心配なら中尉さんがついていったらいいのに」
「今回の事では私は大佐の役に立てないわ。そうでなければ貴方になんて頼まない」
「そうだったっスね」
 本当に不本意なのだろう。忌々しげに言うホークアイにハボックは笑みを浮かべる。
「まあ、オレも雇い主に怪我なんてされちゃ今後の仕事に差し支えるっスからね。中尉さんに言われなくてもちゃんとやりますよ」
「期待してるわ」
 そう言うとファイルを手にホークアイは司令室を出ていく。笑みを浮かべてその背を見送ったハボックは、再び窓の外に広がる空を見上げた。



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