| FLARE BLUE 第六十二章 |
| 「中尉さぁん、オレ、ちょっと出かけてきていいっスかね?」 ロイにおかわりのコーヒーを差し入れたハボックがホークアイに向かって言う。書類から顔を上げて見つめてくる鳶色に苦笑してハボックは続けた。 「オレが今ここにいてもコーヒー淹れるか書類届けに行くかぐらいしかやることねぇっしょ?それならちょっと準備しとけば当日の成功率も上がるだろうし」 「準備?陣の下書きでもしておくつもり?」 「意地悪っスね。オレに陣は描けないっスよ」 判って言ってるっしょ、と軽く睨んでくるハボックに、ホークアイは肩を竦めた。 「判ったわ。面倒な事をさっさと終わらせられるよう、出来ることがあるならやってきて頂戴」 「アイ、マァム」 ハボックは砕けた敬礼をホークアイに向かって投げるとそそくさと司令室を出る。ポケットに手を突っ込んで足早に廊下を歩きながらプカリと煙を吐き出した。 「中尉さんもなぁ、折角美人なんだからちょっとでも笑ってくれたらやる気も増すのに」 呟いたハボックは実際にそう言ってみようかと考えて慌てて首を振る。 「そんな事言ったら絶対銃で撃たれるよな。笑うよりこっちの方がやる気が出るでしょうとか言って」 銃を突きつけられたように背筋を悪寒が走って、ハボックは逃げるように司令部を後にした。 ごちゃごちゃと混み入った通りをハボックはのんびりと歩いていく。幾つも小さい店が並ぶ中、入口の垂れ幕をめくって店の中に入れば奥から声がした。 「悪いけどまだ開店前────あら、ジャン」 言いながら姿を現したミラが緑色の目を軽く見開く。ハボックは素晴らしいプロポーションのミラの体を抱き締めその頬に口づけて尋ねた。 「ママは?」 「奥にいるけど────ちょっと」 ミラは奥へと行こうとするハボックの腕を掴んで引き留める。なんだ?と尋ねてくる空色を見返してミラは言った。 「大丈夫なの?マスタングさんも巻き込んで、何かあったらどうするの?」 「どっちかっていうと巻き込まれたのはオレの方なんだけどなぁ」 心配そうに見つめてくる緑の瞳にハボックは苦笑する。 「まあ、その件に絡んでちょっとママに聞きたいことがあってさ」 ハボックはそう言って安心させるようにミラの手をポンポンと叩いて外させると、厨房の更に奥へと入っていった。 「ママ」 「おや、ジャン」 小さな扉を開けてハボックは狭い部屋に入る。窓一つない小部屋は昼だというのに昏く沈んで、壁に掲げられたランプが心許ない光を投げかけていた。 「どうしたの?」 香を炊き込めた薄暗い部屋の中、ハウラは小さなテーブルに広げたカードを前に言う。ハボックはテーブルを挟んで椅子に腰を下ろして言った。 「ひとつ聞きたい事があるんだけど」 「マスタング大佐のこと?それとも貴方の力の事かしら?」 そう言うハウラの言葉にハボックは鼻に皺を寄せる。テーブルに肘をついた手の上に顎を乗せてハウラを睨んだ。 「なんでもお見通しなんだもん、嫌んなる。もしかしてオレたちが陣を発動させたらどうなるかも知ってんじゃねぇの?」 「未来は一つじゃないわ。貴方達の前には幾つもの未来がある。それに関わる人が何をするかで進む未来は変わっていくのよ。陣を発動させたらどうなるかなんて、一概には言えないわ」 「でも、視えてるんでしょ?」 「幾つかの未来がね」 「オレたちが死ぬって未来もあるの?」 そう尋ねるハボックにハウラは笑みを浮かべただけで答えない。ガリガリと頭を掻いたハボックは躊躇いがちに口を開いた。 「あの人が触れたら光が消えたんだ。まるで何でもないように掌で光を包み込んで、オレでも最近は納めるのに苦労するのに、まるでどうって事ないみたいに消しちまった。これってどう言うこと?ママ」 じっと見つめてくる空色を見返してハウラは笑みを浮かべる。手を伸ばしてテーブルに置かれたハボックの手をそっと握った。 「彼には力がある。そして貴方にも。二つ揃うとよくないけど、それだけじゃない」 「────ママの言い方には慣れてるつもりだったけど、今回ばかりはもっとはっきり言って欲しいっスよ。って言ってもどうせ言ってくれないんしょ」 ハボックは手を握る女を睨んで拗ねたように言う。そんなハボックにハウラは笑みを深めて言った。 「大丈夫よ。貴方は私の息子だもの、ジャン」 言って目を細める育ての母を見返してハボックはため息をつく。ハウラの手を解きゆっくりと立ち上がった。 「まあいいや。どうせ言ってくれないと思ってたし。でも、少なくともあの人の力がオレにとってマイナスじゃないって事は判ったから」 「ジャン」 「サンキュ、ママ」 ハボックは屈み込んでハウラの頬にキスをする。それを笑みを浮かべて受け止めたハウラはハボックの頬を撫でて言った。 「愛してるわ、私の可愛い子」 「行ってくる」 ハボックは頬を撫でるハウラの手を軽く握ると部屋を出ていった。 |
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