| FLARE BLUE 第六章 |
| 「うわっ?!」 「と……ッ、ごめん、大丈夫?」 ぶつかった拍子に倒れそうになったロイの腕を、ぶつかった当の相手が掴んで引き寄せる。無様にひっくり返らずに済んで、ホッと息を吐いたロイは支えてくれた相手を見上げた。 「いや、私も悪かったから……、────ハボックっ?!」 「あれ?アンタ、この間の美人さん」 探していた当の相手を目の前にして、ロイはキッと目を吊り上げる。ハボックの襟首を掴んで空色の瞳を間近から睨んで言った。 「貴様、この間はよくもふざけた事をしてくれたなッ!」 「ふざけたこと?」 突然ぶつけられた言葉にハボックはキョトンとして目を見開く。理由はよく判らないが、どうやらロイが怒っているらしいことだけは察して、ハボックは首を傾げた。 「えっと……、アンタが怒ってる理由が判んないんスけど」 正直にそう言えば目の前の黒曜石が一瞬大きく見開く。次の瞬間怒りの焔が黒い瞳に燃え上がるのを見て、ハボックは言った。 「美人って怒っても美人っスねぇ。なんつうか、瞳がキラキラしてすげぇ綺麗っス」 ハボックは感心したようなため息を漏らして、大きな手でロイの頬を撫でる。綺麗な黒曜石をよく見ようと顔を寄せれば、ロイの白い頬が見る見る内に怒りと羞恥で真っ赤になった。 「きっ、きっ、貴様ッッ!!」 「なんスか?────ああ、本当に真っ黒なんだ」 ハボックはロイの様子になどまるで頓着せずに黒い瞳を覗き込む。怒りにキラキラと輝く瞳の美しさに笑みを浮かべたハボックは、更にロイに顔を寄せた。 「ッ?なに────」 不意に息がかかるほど近づいてきたハボックに、ロイは驚いて目を瞠る。目の前に広がる空色に吸い込まれそうな気がして、思わず咄嗟に目を閉じたロイの唇に柔らかいものが押し当てられた。 「ッッ?!」 ビクッと震えて目を開ければ焦点があわないほど近づいたハボックの顔。キスされていると気づいたロイが慌てて押し返すより早く、ハボックの腕がロイの躯を引き寄せた。 「んんッ!」 より深く合わさる唇にロイは目を見開く。驚きに声を上げようと唇を開いた途端入り込んできた舌に、ロイは躯を震わせた。 「ん……ッ、んんんッ!」 入り込んできた舌がロイの口内を好き勝手に動き回る。己の舌をきつく絡め取られて、ロイは震える手でハボックのシャツを握り締めた。 「ん……んふぅ……ふぁ……っ」 くちゅくちゅとイヤラシい水音をたててキスが繰り返される。いつしかロイの躯からは力が抜け、細い躯はハボックの躯に凭れてやっと立っているような有様だった。 「あ……」 漸く長いキスが終わって唇が離れる。カクンと膝を折って倒れそうになるロイを、ハボックの腕が支えた。 「おっと、大丈夫っスか?」 「な……なん……」 これまで随分と恋愛ごとも経験してきたが、こんなキスをする相手とはお目にかかったことがない。呆然として見上げてくる黒曜石に、ハボックはニッと笑った。 「すんません、あんまり綺麗な瞳だったから、つい」 そう言って悪気の欠片もなく笑う顔に、ロイの頭にフツフツと怒りが沸いてくる。一度ならず二度までもキスされて、ロイは怒りのあまり懐から発火布を取り出した。 「燃やしてくれるッ!!」 「えっ?」 言うと同時にシュッと手袋を填めたロイが指をすり合わせようとする。だが、ハボックはロイの手を大きな手で包み込むと、にっこりと笑った。 「よく判んないけど、物騒なことしちゃだめっスよ。折角の美人が台無しっしょ?」 ハボックはそう言うとロイの手を口元に引き寄せる。手袋の上からチュッと指先に口づけられて、ロイは真っ赤になってハボックの手を振り払った。 「きっ、きさっ、き……ッッ!!」 怒りのあまり声が震えて言葉にならない。罵りたいのに罵る事も出来ず怒りにブルブル震えるロイに、ハボックは首を傾げた。 「なに?まだキスして欲しいんスか?」 「は?違……ッ」 仕方ないっスねと身を寄せてくる男からロイは慌てて逃げようとする。だが、長い腕に絡め取られ逃げる間もなく再び唇を塞がれていた。 「ンッ!んーッ!んん……ッ」 逃れようとロイは必死になってハボックの体を押し返す。だが、巧みなキスにいつしか躯から力が抜け、ロイは狭い路地裏でハボックのキスに身を任せていた。 「アンタ、怒りっぽいけど可愛いっスね」 くったりと身を預けてくるロイにハボックはクスクスと笑う。上気したロイの頬を撫でてハボックは言った。 「夜は一人でこんなとこうろついちゃダメっスよ。オレみたいな悪い男に食われちゃいますからね」 「な、んだと……っ」 ハボックの言葉にロイはブルブルと震えてハボックを睨む。 「今度という今度は絶対に赦さんぞっ、ハボック!」 低い声でロイが言うのにハボックは気にした様子もなかったが、あれ?という顔をしてロイを見た。 「そういやなんでオレの名前知ってるんスか?」 「この間人相の悪い連中が呼んでたろうっ」 「ああ」 そういやそうだったかとハボックは頷く。にっこりと笑って言った。 「で?アンタは名前教えてくれないんスか?」 「貴様に名乗る名などない!」 きっぱりと言い切るロイにハボックは眉を下げる。だが、それすらもポーズのように次には笑みを浮かべて言った。 「まあ、いいや。気が向いたら会いに来てよ。オレ、Kって店にいること多いんで。ああ、来るときはくれぐれも気をつけてね」 ハボックはそう言うとあっさりとロイを離す。じゃあねと歩き出すハボックをロイは慌てて追おうとした。 「待てッ、貴様!ハボック!」 だが、一歩踏み出した途端、カクンと膝が頽れる。その間にハボックは角を曲がって行ってしまった。 「……殴れなかったどころか一度ならずも二度までもッッ!!くそッッ……クソーーーーーッッ!!」 地面にしゃがみ込んだロイの悔しげな声が路地裏に響きわたった。 |
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