| FLARE BLUE 第五章 |
| 結局この夜、ハボックは店に現れなかった。時折ちょっかいを出してくる男や女をやりすごしながら飲んだ酒は妙に体に残って、翌日ロイは久しぶりの二日酔いに悩まされながら出勤する羽目になった。 「全部ハボックのせいだ」 ロイは額の上に氷嚢をのっけて呟く。執務室の机の上には書類が山と積まれていたがとても手をつける気になれず、ぐったりと椅子に沈み込んでいればコンコンというノックの音に続いてホークアイが顔を出した。 「大佐」 「仕事なら出来んぞ」 ロイは氷嚢の陰からホークアイを見て言う。全く仕事をする気のないロイの様子に、ホークアイは眉を顰めた。 「出来ないでは困ります」 「仕方ないだろう。頭がガンガンして字が読めないんだから」 そう答えるロイは確かにとても辛そうだ。サボる為のフリではないらしいその様子に、ホークアイは小首を傾げた。 「二日酔いですか?珍しいですね」 「待ちくたびれて苛々しながら飲んでたら妙に酒が残った」 ロイの答えにホークアイは「あら」という顔をする。 「待ち惚けですか?」 「フラレたわけじゃないぞっ」 どこかおかしそうなホークアイの声音に、バッと体を起こして言い返したロイは次の瞬間「いたた」と頭を抱えた。 「本当に仕事になりそうにありませんわね」 「だから言っただろう」 半ば呆れて言うホークアイにロイは情けなく答える。 「仕事も出来ないのに執務室にいられても目障りなだけですからどうぞお帰り下さい」 「……中尉」 ホークアイの物言いにロイは情けなく眉を下げたが反論する余地もない。だがその物言いもむしろ帰って休めと言ってくれているのだとすぐに気づいて、ロイは苦笑した。 「ありがとう、帰らせて貰うよ」 「明日は今日の分も働いて頂きますから」 ホークアイはそう言うと執務室を出ていってしまう。 「全部ハボックのせいだ」 ロイは苦々しげに呟くと氷嚢を額に押し当てた。 家に戻って日も高いうちからベッドに潜り込む。クウクウと体が欲するままに眠りを貪れば次に目が覚めた時には酷い頭痛は治まって、ロイは更に頭をしゃんとさせるためシャワーを浴びた。 「さて、どうするかな」 朝は頭痛のせいで食べられなかった朝食を昼も半ばをすぎた頃になって食べながらロイは考える。頭痛が治まれば休養の時間は思いがけず出来た自由時間となり、ロイはコーヒーを飲み干すとハボックを探しに出かけることにした。 「別に夜にならないと現れないわけじゃないだろうしな」 どういう仕事をしているのか、はっきりとは判らないが活動時間が夜だけとも思えない。ロイは空になった食器をシンクに突っ込むとコートを手に家を出た。 「これか」 ハボックは棚の隠し戸にしまわれたブレスレットを取り上げニヤリと笑う。その飾りの部分をしげしげと眺めるとポケットからナイフを取り出し飾りの隙間に切っ先を押し込み捻るようにして開いた。そうすれば小さな隙間のような空間に薄い紙片が入っている。ハボックは注意深くそれを取り出すと、ナイフの先を使って破かないように広げた。裏が透けるような薄い紙にはなにやら細かい文字が記してある。その文字に何度か目を通したハボックは、紙を折り畳み再び元通りに飾りの中へ納めた。それから無造作にブレスレットをポケットに突っ込むと、扉を押し開け外の様子を伺ってから足を踏み出す。ポケットに両手を突っ込んで歩き出せば、ハボックがたった今し方不法に侵入した家から依頼の品物を拝借してきたとは行き交う誰にも判らなかった。 「こんなもんどうするんかね。まあ、オレには関係ないけど」 たった今目にしたものを思い浮かべてハボックは呟く。だが、ぶっちゃけた話そこに隠されたものがなんであれハボックにはどうでもよく、今ハボックのポケットにあるものは依頼品以外のなんでもなかった。 「とにかく後は残りの金を貰って届けりゃおしまいだな」 引き受けた依頼は品物を手に入れることとそれを指定の場所へ届ける事、だ。依頼の半分は既に金を貰って完了しているから、残りの半分を済ませるためにハボックは丁度目に付いた電話ボックスに入るとコインを放り込み番号を回した。 「出ない」 二十もコールしたが受話器が上がる音はしない。空しくなり続けるコール音に眉を顰めて、ハボックは受話器を置いた。 「どうすっかな」 たまたまタイミング悪く電話に出られないだけなのかもしれない。とりあえず間を置いてみようとハボックは電話ボックスを出て歩きだした。両手をポケットに突っ込めば中にあるものに指が当たる。 「嫌だなぁ」 引き受けた依頼はさっさと済ますのが信条だ。ハボックは僅かに眉を顰めると肩を窄めて通りを歩いていった。 夜の姿を見慣れた街は昼間に来ると随分と印象が違う。ロイは何となく白茶けた雰囲気の通りを辺りを見回しながら歩いていった。 「どうするかな」 人の姿がないわけではないが、ハボックの事を尋ねても知っていそうな気がしない。それでも折角出てきたのだときょろきょろと見回しながら角を曲がったロイは、丁度反対からやってきた男と思い切りぶつかってしまった。 |
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