FLARE BLUE  第四章


 私服に着替えたロイは先日ハボックと初めて会った場所へと足を向ける。今日はまだ時間も早いこともあって、賑やかな通りはあまり質の悪い酔客もなく、ロイは行き交う人々の中に目当ての姿を探して歩いていった。
「オネエサン、一人?いい男もいるよ、寄っていって」
「……誰がオネエサンだ、貴様の目は節穴か!」
「美人のオニイサン、どういう男が好み?細身から筋肉質まで、色々揃ってるよ!」
「どうして男を薦めるんだっ、ふざけるな!」
 それでも通りを歩いていけばあちこちの店から声がかかる。どうにも納得のいかない客引きに目を吊り上げるロイは更に人目をひいて、通りを歩く男や女からも秋波を送られてロイは綺麗な眉間に皺を寄せた。
「くそう、どこにいるんだ、ハボックの奴」
 見つければ一発ぶん殴ってさっさと帰れるのだ。こんなところで不愉快な客引きを受けるのを早く終わらせられるよう、ロイは手近の店の扉を開け中に入った。
 ぐるりと店の中を見回しとりあえずいないことを確かめるとロイはカウンターへと向かう。止まり木のような小さなスツールに腰を下ろすと、中にいたバーテンに酒を頼んだ。
「ちょっと尋ねたいんだが」
 と、ロイは目の前にグラスが置かれたタイミングでバーテンに尋ねる。そうすれば尋ねる視線を寄越す男にロイはアルコールで喉を湿らせて言った。
「ハボックという男を捜してるんだ。金髪で空色の瞳の背の高い男なんだが」
 そう言えば、バーテンの男がロイをじろじろと見る。その不躾な視線にロイが眉を顰めれば、バーテンが言った。
「ハボックはやめておいた方がいいよ。アイツ、あちこちでくどいちゃいるけど、絶対本気にならないから」
「──── は?」
 バーテンの言っている意味が今一つ判らずロイはポカンとする。そうすれば、バーテンはグラスを拭きながら続けた。
「見た目はいいし、優しいこと言うからさ。結構その気になっちゃう子が多いんだけど、実際そのつもりで近づくと冷たいからね。アンタ、美人だしハボックじゃなくても選り取り見取りだろ?」
 日頃は回転の早いロイの脳味噌が一瞬停止し、次の瞬間もの凄い勢いで回転する。ロイは手にしたグラスをダンッとカウンターに叩きつけるとバーテンを睨んだ。
「私がハボックを探しているのはキスされた落とし前をつける為だッ!決してそう言う意味じゃ────」
 ムキになって言い返すロイをバーテンが気の毒そうに見る。自分が言った内容がかえって誤解を招いていることに気づいて、ロイは慌てて手を振った。
「いや、だから!そうじゃない、私はっ」
「悪いことは言わないから、ね?」
 完璧に誤解されて、ロイはムッと唇を突き出す。これ以上言っても埒があかないとカウンターに代金を置くと店を出た。
「くそう、なにがやめておいた方がいいだ。私がハボックを探しているのはそう言う理由じゃないというのに」
 ロイはドカドカと乱暴な足取りで通りを歩きながらぶつぶつと呟く。バーテンが言ったことを反芻して、ロイは眉間の皺を深めた。
「ハボックというのはとんでもない男だな」
 どうやら手あたり次第口説いてはその気になった相手に冷たくしているらしい。
「まったくもって女性の敵だ」
 自分も彼女に心変わりされた男どもから同じように言われていることなど全く気づいていないロイは、憤慨して言う。それでも早く見つけようと、今度は店には入らず店の外、出入口で屯している男の一人に声をかけた。
「すまんが、ハボックという男を捜しているんだが」
「ああ、アンタ、ハボックの客?」
「客?」
 思いがけない言葉にキョトンとするロイに男は続ける。
「アイツに頼みたい事があるんだろう?それなら“K”って店に行くといいよ。週に何度かはそこに顔出すから」
「……ありがとう」
 客という言葉が引っかかりはしたものの、店の場所まで確認するとロイはとりあえず礼を言ってその場を離れる。ロイは足早に通りを歩くと角を曲がり目的の店の前に立った。
「ここか」
 ライトに照らされた小さな看板に記された“K”という文字を見てロイは呟く。黒い扉を押し開き中へと入れば、低く流れるジャズのメロディが聞こえてきた。店の中を見回しているとウェイターが寄ってきてロイを席に案内してくれる。小さなテーブル席に腰を下ろし注文をすると、少ししてトレイにグラスを載せてやってきたウェイターにロイは尋ねた。
「ハボックはここによく来るのか?」
「そうですね、週に二、三回。昨日来てたから今日は来ないかもですが」
「そうなのか」
 グラスを置きながらウェイターがそう答えるのを聞いて、ロイはがっかりする。だが、だからといって酒だけ飲んで帰るのも癪だと行こうとするウェイターを捕まえて尋ねた。
「ハボックというのはどういう男だ?」
「アイツのお客さんですか?」
「まあ、そんなもんだ」
 ここは客だと言っておいた方がいいのだろうと、ロイは答える。そうすればウェイターはトレイを胸に抱え込んで言った。
「そうだなぁ、金さえ払えば大概の事はやってくれますよ。人探しでも物探しでも、運び屋なんかもやるし、レイプと殺人以外はなんでもって感じかなぁ。かなり法外な金をとりますけど、その分仕事は完璧ですね」
 ウェイターはそう言ってロイを見る。
「ハボックに頼み事?お客さん、美人だから気をつけてね」
「は?」
「手、早いから、アイツ。泣かないように気をつけて」
 にっこり笑ってウェイターは行ってしまう。その背をポカンとして見送ったロイは、不意にハボックとのキスを思い出してカアアッと顔を赤らめた。
「とっ、とんでもない男だなッ!」
 そんな男にキスされたのかと思うと余計に腹が立つ。ロイはグラスを引っ掴むと怒りのままに一気に飲み干した。


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