FLARE BLUE  第五十九章


「まったく役に立たないどころかゴミになって帰ってくるとはッ!」
 ダンッと杖で床を突いて杖男は死んだ大男を罵る。一応は仲間であろう男の死を悼むどころか口汚く罵る杖男に、ロイの家から逃げ帰った男達はビクビクとしながら首を竦めた。
「くそうッ、マスタングめッ!どうしてアイツがあの陣に興味を持つんだッ、アイツにはなんのメリットもないんじゃないのかッ?」
 メリットもなにも、ロイがあの陣に関わることになったのはそもそも殺人事件があった場所に陣があったからで、そうでなければ忙しい身のロイが陣に興味を持つこともなかったのだが、そんなことなどすっかり忘れて杖男はロイを罵った。
「なんとしてもブレスレットを取り戻さなくてはッ!一体どうやったら」
 どうやってブレスレットを取り戻せばいいだろうと考えた杖男は、ふと浮かんだ考えに一瞬口を噤んだ。
「そうか。奴が陣を発動させるというならそれを待てばいいんだ」
 ロイからブレスレットを取り返すより、陣を発動させる時を狙った方が労せずに旨い汁だけ吸えるに違いない。
「いいだろう、マスタング。少しの間だけブレスレットを貸してやる。俺のために陣を発動させるがいいぞ」
 杖男は勝手なことを言って周りにいる男達を見た。
「おい、マスタングを見張れ。アイツが動きを見せたらすぐ知らせるんだ」
 そう言われてバタバタと男達が飛び出していく。
「ふふふ、俺のために役に立てるんだ。有り難く思うといいぞ、マスタング!」
 勝手なことを言って高笑いする杖男の笑い声が誰もいなくなった部屋に響きわたった。


「司令部に行くんスか?」
「書類が溜まってる。陣にばかりかまけてたら中尉に撃たれる」
 軍服に着替えて出かける支度をするロイに尋ねれば返ってきた答えにハボックが「ああ」と納得した顔をする。
「あの中尉さんなら本気で撃ちそうっスよね。手さえ無事ならサインできるって容赦なく撃ちそう」
 ホークアイの鳶色の瞳を思い浮かべながら首を竦めてハボックは言うと、ドサリとソファーに腰を落とした。
「じゃあオレはここでのんびりさせて貰って────」
「何を言ってる。お前も一緒に来い」
 のんびりと煙草を咥えるハボックをギロリと睨んでロイが言う。
「はあ?オレが行ってなんの役に立つんスか?アンタの代わりにサインが出来るわけじゃなし」
 至極もっともな事を言うハボックにロイは言った。
「やることなら幾らでもあるぞ。私が書いた書類を整理して各部署に届けて、私が疲れたらコーヒーを淹れて肩も揉んで欲しいな。そうだ、中尉の怒りが頂点に達しないようにちょっとばかり撃たれてくれてもいいぞ」
「アンタね」
 とんでもないことまで言い出すロイにハボックが思い切り顔を顰める。それでも咥えた煙草の先っぽを燃やされれば、仕方なしに立ち上がった。
「アンタみたいのはあの中尉さんくらいな人でないとコントロール出来ないんでしょうね。やっぱ中尉さん、凄いっス」
「なんだ、その言い方は」
 ジロリと睨まれてハボックは慌てて降参とばかりに両手を上げる。そんなハボックを見てロイはフンと鼻を鳴らして言った。
「それにまたアイツらが襲ってくるかもしれんだろう?」
「どうかな、とりあえず今のところは襲ってこないんじゃないんスかね」
 そう言い切るハボックをロイは不思議そうに見上げる。
「夕べあれだけコテンパンにやられたんスよ。オレだったら今襲うのはやめとくっスね。そもそも陣を発動させるっていう目的は同じなんスから、無理して今襲ったりしないでアンタが陣を発動させんのを待つんじゃねぇんスか?オレだったらそうするっス」
「なるほど」
 確かに言われてみればハボックの言うとおりだ。
「意外と考える頭があるんだな」
「あのね」
 凄いぞ、と褒められてハボックは不満そうに下唇を突き出す。だが、次の瞬間ニヤリと笑って言った。
「そう言うわけで書類と仲良くする時間は幾らでもあるっスよ。よかったっスね」
「────よくない。くそっ、あの杖野郎に今来ればブレスレットを返してやるっていうか?」
「馬鹿なこと言ってねぇで、ほら、行くっスよ」
 なんとか書類から逃げる方法はないかと考えを巡らせれば馬鹿なことをと一蹴するハボックに急かされて、ロイはハボックと共に家を出た。


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