FLARE BLUE  第五十七章


 ガタガタと鎧戸が風に揺れる音でロイは目を覚ます。ブランケットをギュッと引き寄せ小さく丸まるとハァとため息を零した。
「目覚めが悪い……」
 体の中心が火照っているような気がする。ロイは夕べの出来事を思い出して顔を赤らめた。
 襲撃者どもを追い返したもののすっかり散らかってしまったリビングをハボックに片づけさせた。だが、お気に入りのアンティークソファーは壊されるわ酒のボトルが割れてガラスが飛び散るわ、いい加減頭に来ていたロイにいいようにこき使われた事に気づいたハボックの逆襲に会う羽目になってしまった。
『人を騙してこき使うような奴にはお仕置きが必要だと思わないっスか?』
 シャワーを浴びているといきなりシャワールームに乱入してきてそう言うハボックに、あれは騙したわけでもなんでもないと反論すれば。
『じゃあ追加料金ってことで』
 そう言ったハボックにシャワールームでされたことを思い出せば赤くなった顔が益々熱くなる。弄られた楔までもがその感触を思い起こしたように熱を帯び始めて、ロイはふるふると首を振ってブランケットの中に潜り込んだ。
「く、くそッ!あの狂犬め!」
 ハボックに弄られるままに結局二度もイってしまった。快感の余韻に震える体をくったりと男の胸に預ければ、クスクスと笑うハボックに再び腰が砕けるようなキスをされて、結局それだけでロイは立てなくなってしまったのだ。
『意外と初心っスね、アンタ。そんな顔してるからソッチ方面はとっくに経験済みかと思ったっスよ』
 面白がるようにとんでもない事を口にしながらもハボックはロイをベッドに運んでくれた。力の入らない体をブランケットで包み込み「おやすみなさい」と額に優しくキスを落としてハボックが寝室を出ていったのはもう夜も随分と更けた頃だった。力の入らない体は、だが芯がじんわりと熾き火のように熱を持ってなかなか寝付けなかった。おかげで今朝の目覚めの悪さとなったのだが、ブランケットの中でもぞりと動いてロイはハッとして自分の体を見下ろした。
「わわ……ッ」
 一糸纏わぬ状態でブランケットにくるまっていることに気づいて、ロイはカアッと頬を染める。なんだかもの凄く恥ずかしい事をしているような気になって、ロイはハボックを口汚く罵った。
「くそッ、全部済んだら絶対燃やしてやるッ」
 ロイは羞恥心を誤魔化すようにそう呟くとブランケットの中から這い出る。急いで服を身につけたロイは、寝室を出ると階段を下りた。
「いい匂い……」
 下に降りてくるとベーコンが焼けるいい匂いがする。途端に腹の虫がグゥと鳴って、ロイはリビングを抜けると奥のダイニングへと入った。
「あ、目が覚めたんスか?」
 足音に振り向いたハボックがニッと笑って言う。その男くさい笑みにドキリとしながらも平静を装ってロイは言った。
「どうしたんだ?これ」
 テーブルの上にはサラダや焼きたてのパンが並んでいる。ハボックはフライパンのベーコンと卵を皿に移しながら答えた。
「さっき買いに行ったんスよ。この家、食うもんないんスもん。────さ、出来た!メシにしましょう」
 そう言われれば腹の虫が更に喚き立てる。ロイはゴクリと喉を鳴らすと促されるままテーブルについた。
「いただきます」
 軽く手を合わせてそう言って、ロイは早速カリカリのベーコンと卵に手を伸ばす。口に入れればベーコンの(うま)みが広がって、自然と口元が綻んだ。
「旨い」
「そいつはよかった」
 素直な言葉が零れて、ハボックがにっこりと笑う。普段はコーヒーだけで済ましているのが信じられないほど、ロイはテーブルに並ぶ皿に次々と手を伸ばしてあっという間に用意された朝食を平らげてしまった。
「旨かった、ごちそうさま」
 フゥと満足げなため息をつけば、席を立ったハボックがコーヒーを持ってくれる。カップをテーブルに置く手を見たロイは不意に夕べのことを思い出して側に立つ男を睨んだ。
「夕べはよくもやってくれたな」
「わー、今このタイミングでそれ言うんスか?」
「お前の手を見たら思い出した」
 深く考えずそう言うロイにハボックがニヤリと笑う。
「この手の感触思い出しちゃった?」
 背の高い体を屈めて耳元にそう囁かれ、ロイは火がついたように真っ赤になった。
「馬鹿ッ!」
 そう怒鳴るロイにハハハと笑って、ハボックはロイから離れる。煙草を手に窓辺に寄りかかり外を眺めるハボックの横顔を、ロイはコーヒーを啜りながらそっと見遣った。


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