FLARE BLUE  第五十五章


「それで?どうするっスか?」
「えっ?」
 唐突に聞かれてロイはキョトンとする。
「どうって?」
「オレを側に置いておくのは嫌だって言うならそうするっスよ?アンタの目の届かないところでオレの仕事をする事に────」
「ダメだッ!お前は私の側にいろ!」
 言いかけた言葉をきつい調子で遮られてハボックは目を丸くした。
「アンタ、さっきアイツらが言ってたの聞いてなかったんスか?フレア・ブルー、悪魔の青だって、呪われるって言ってたっしょ?」
「一つ聞くが本当にお前の側にいると呪われるのか?お前のあの焔を見ると本当に呪われるのか?」
 そう聞かれてハボックは首を傾げる。
「さあ。どうでしょうね」
「お前の側にいるハウラやミラはどうだ?私には彼女たちが呪われているとは思わんが」
「なるほど。でも、ママもミラも所謂普通の人じゃねぇっスよ?」
「ハウラは私に力があると言ったんだろう?だったら私も十分普通じゃない。呪いなんて怖れるに足らんな」
 きっぱりと言い切って見つめてくる黒曜石を目を瞠って見返していたハボックだったが、次の瞬間クスクスと肩を震わせて笑いだした。
「やっぱアンタって面白いっスね」
「面白い?なにがだ」
 ハボックの言葉にロイはムッとして眉を寄せる。だが、ハボックはそれには答えず一つ大きく息を吐き出した。
「判ったっス。アンタがそう言うならオレは今まで通りアンタの側で仕事をさせて貰うっスよ」
 ハボックはそう言って手を差し出す。その手を取ってハボックが立ち上がるのに手を貸してロイは言った。
「そうか。それじゃあまずこの部屋を何とかして貰おうか」
「えッ?」
 いきなりそう言われて、ハボックはギョッとしてリビングの中を見回す。襲撃者達が去った後のリビングは家具が叩き壊されガラスが散乱して、惨憺たる有様だった。
「えっと、この部屋を片づけるんスか?」
「お前の仕事をするんだろう?」
「ちょっと待ってくださいよッ」
 平然として言うロイにハボックが慌てる。
「えっ、この部屋片づけんのッ?オレの仕事はアンタがあの妙な陣を発動させる手伝いすることっしょッ?」
「家がこんな状態じゃゆっくり休めん。陣を発動させる為にはゆっくり休まないといけない。故にここを何とかしろ」
「わー、なにその三段論法」
「十分お前の仕事の範疇だろう?」
 ニヤリと笑うロイにハボックはげんなりと肩を落とした。
「もう全然割にあわねぇ、この仕事」
 そう言ってガリガリと頭を掻くハボックを見てロイはクスリと笑う。手を伸ばしてハボックのシャツを掴むとグイと引き寄せ唇を寄せた。
「ん……」
 軽く唇を合わせ、舌先で唇を舐める。クチュと音を立てて重ねた唇を離すと、ロイは挑むようにハボックを見た。
「これでも割に合わない仕事と言うのか?」
「自信家っスねぇ、アンタ」
 強い光をたたえる黒曜石をハボックは面白がるように見返す。ニヤリと笑うと同時にロイの体をグイと引き寄せ、乱暴にその唇を塞いだ。
「んんッ!」
 深く合わさった唇を強引に割ってハボックの舌が入り込んでくる。煙草の匂いを纏う舌に口内を弄られきつく舌を絡め取られて、ロイは己を抱き締める男に縋りついた。
「ん……ん……ッ」
 キスだけで体の芯が熱くなってくる。震える指で男のシャツを握り締めて、ロイは切なげに吐息を吐き出した。ガクリと膝が頽れ男の力強い腕に支えられて漸く立っているロイの様にハボックが低く笑う。
「これくらいじゃないと足りないっしょ」
「は……お前……っ」
「もう少し貰ってもいいかな、何せここ片づけるんだし」
 悔しそうに睨んでくる黒曜石にハボックがクスクスと笑った。笑みを浮かべた唇がきつく首筋に押し当てられてロイは悲鳴を上げる。逃げようにも体には全く力が入らなくて、ロイは唯一動かせる瞳でハボックを睨んだ。
「いい加減にしろ……ッ、燃やすぞ……ッ、アッ?!」
 耳朶を甘く噛まれてロイはビクリと体を震わせる。腕の中で震えるロイにハボックはクスリと笑うとその細い体を抱き上げた。
「燃やされちゃ堪んないんで」
 ハボックはそう言うとロイの体を無事だったソファーの上におろす。
「んじゃ、仰せに従って片づけるっスから、アンタはそこでイイコにしててください」
「────馬鹿ッ」
 楽しげに言って片づけを始めるハボックを、ロイは紅く目元を染めた黒曜石で悔しげに睨んだ。


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