| FLARE BLUE 第五十四章 |
| 「その細首、へし折ってやるッ!」 ロイの足首を掴んだ大男が叫ぶ。咄嗟に掴んだラグごとずるずると引っ張られて、ロイは顔を歪めて呻いた。 「く……ッ、離せッ!」 ロイは掴まれた方とは反対の足で足首を掴む大男の手を蹴り付ける。だが、大男はそんな反撃などものともせずにロイを引き寄せるとその細い体に圧し掛かった。 「大人しくブレスレットを渡さなかったことを後悔するがいい、マスタング!」 大男は大声で笑いながらロイの首に腕をかける。そのまま体重をかけてロイの首をへし折ろうとした大男の体が、いきなり壁に向かって吹き飛んだ。 「グハッ!!」 「な……ッ?!」 唐突に圧し掛かる体が消えて、ロイは驚きに目を瞠る。ドオンッと大きな音と共に壁に体を叩きつけられる男をゴホゴホと咳込みながら見遣ったロイは、大男の腕を包む青く輝く焔を見て息を飲んだ。ハッと振り向いたロイの目の前を青と金の光が走り抜ける。それがハボックだと気づいたのは、ゴキリという嫌な音と共に大男の首が信じられない方向へと折れ曲がってからだった。 「他にも死にたい奴はいるのか?」 ハボックはいとも軽々と大男の体を片手で頭上高く持ち上げて言う。その体からオーラのように青い焔を滲ませたハボックはガラスの瞳で襲撃者達を見回して言った。 「あの杖野郎に伝えろ。これ以上オレらにちょっかい出してみろ、八つ裂きにしてやる」 低いハボックの声に答えるようにパチパチと青い焔が金色の火花を上げる。もうすっかりと攻撃の意志をなくした男達の誰かがボソリと呟いた。 「フレア・ブルー……悪魔の青」 その呟きを聞き逃さずハボックは呟いた男へと視線を向けた。 「そうだよ、この青い焔に焼き殺されたくなかったら、二度とちょっかい出すんじゃねぇよ」 そう言ってハボックがニィと笑う。物騒な光をたたえる空色に見つめられて、襲撃者達はそろそろと後ずさった。 「く、くそ……ッ、こんな話きいてねぇぞッ」 「逃げろッ、呪われるッ!」 誰か一人がそう叫べば、ワッと声を上げて襲撃者達が逃げ出そうとする。ハボックはその背に向けて怒鳴った。 「待てよ、コイツも連れていけ!」 そう怒鳴るなり掲げていた大男の体を襲撃者達に向かって投げつける。事切れた大男に圧し掛かられて悲鳴を上げながらも、男達は大男を引きずりながら逃げ出していった。 蜘蛛の子を散らすように襲撃者達が逃げ出していって、マスタング邸のリビングにはハボックとロイだけが取り残される。割れた瓶から零れた酒の香りが漂う中、ハボックを包む青い焔が壊された家具をうっすらと照らし出した。 「お前」 その美しくも妖しい光景に見入っていたロイの唇から漸く言葉が零れる。一歩近づこうとしたロイをハボックの鋭い声が止めた。 「近寄んな」 ハボックはそう言って大きく息を吸っては吐き出す。ハボックの体を包んでいた青い焔はハボックの呼吸に抗うようにパチパチと金色の光を放ちながら強くなり弱くなりを繰り返したが、やがて霧散するように消えて、ハボックは焔の呪縛から解き放たれたとでも言うようにがっくりと膝をついた。 「おいっ、大丈夫かっ?」 それを見たロイが慌てて近寄りハボックの肩を支える。己の肩に回されたロイの手を見て、ハボックは驚いたようにロイを見た。 「よくオレに触る気になるっスね」 「え?」 「アレを見た後は大抵誰もオレに触るどころか近寄りもしねぇのに」 ハボックはそう言うと床に座り込む。壊れたソファーに寄りかかって見つめてくるハボックを見つめ返してロイは尋ねた。 「フレア・ブルーというのか?あれは一体────」 「さあ。オレもよく知らないっス」 聞かれてハボックは肩を竦める。 「よく知らない。あれを解放すると爆発的な力が出るんスけどね……。オレが知ってるのはオレの母親は悪魔にヤられて悪魔の子を身ごもったって噂されてたって事と、出産で死んだ母親の代わりにママ・ハウラがオレを育ててくれたって事だけ。それと後もう一つ」 と、ハボックは一度目を閉じ、ゆっくりと開くと透き通る空色の瞳でロイを見た。 「解放するたんびオレが段々この力を制御出来なくなってるって事。いつかオレ自身がこの焔に喰われるのかもね」 そう言ってニヤリと笑うハボックを、ロイは目を見開いて見つめていた。 |
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