| FLARE BLUE 第五十三章 |
| 飛びかかった男の首筋めがけてハボックは手刀を叩きつける。狙い違わず急所を捉えた手刀に、男は声を上げる事も出来ないままその場にくずおれた。あまりに一瞬の出来事に呆然と立ち尽くしていた襲撃者達は、だが次の瞬間それを合図とするように一斉に二人に襲いかかる。振り下ろされる金槌を最小の動きでハボックがよければ、金槌をよける術のないテーブルが嫌な音と共に真っ二つに折れた。 「この野郎、よけるんじゃ────」 「よけるなッ、貴様!テーブルを守らんかッ!」 襲撃者の怒声を遮って、ロイが叫ぶ。自分の身よりテーブルの心配をするロイに、ハボックが情けなく眉を下げた。 「テーブルよりオレの心配して下さいよ」 「どうして私がお前の心配なぞしてやらなければならんのだッ!ああもうッ!家の中が滅茶苦茶だッ!」 ロイ自身自分に敵の武器が当たらぬようよけたせいで、マスタング邸のリビングは瞬く間に惨憺たる有様になっている。ロイは怒りに目を吊り上げて、襲撃者達を睨んだ。 「貴様ら、よくも私の気に入りのソファーやテーブルを壊してくれたなッ!この代償は高くつくぞッ!」 「怒るところはそこじゃない気がするのはオレだけっスか?」 やれやれとため息をついてハボックぼやく。だが、ロイも襲撃者達もハボックのぼやきなど誰も聞いてはいなかった。 「さっさとブレスレットを出せ!そうすれば命までは取らないでやる!」 「ハッ、何を言ってる!貴様らに渡すものなど何もないッ!貴様らこそこのままで済むと思うなよ!」 ロイが言うと同時に、再び乱闘を繰り広げるには狭いリビングの中で男達が入り乱れる。唸りをあげる武器と、それをかわして繰り出される蹴りや拳がたてる鈍い音が支配する部屋の中、唐突に乾いた銃声が響きわたった。 「ッ!?」 襲撃された側も襲撃した側も双方ともに息を飲んで立ち竦む。そんな中、薄闇にも鈍く光る銃を構えた大男が言った。 「大人しくブレスレットを渡せ、マスタング!その小綺麗な顔の真ん中に穴を開けられたくなかったらな!」 大男はロイに向かってピタリと銃口を向ける。ロイの手に最強を誇る発火布がないのを見て、勝ち誇ったように歯を剥いて笑った。 「さあ、ブレスレットを渡────」 「断る!!」 大男の言葉をロイのよく通る声が遮る。きっぱりと拒絶する言葉に、大男は信じられないと言うように目を見開いた。 「俺の聞き違いか?まさか渡さないなどと言うわけが────」 「耳が詰まってるのか?断ると言ったんだ、この独活の大木ッ!」 言いかけた言葉をロイの声が再び遮る。怒りにワナワナと震えて、大男はロイを睨みつけた。 「その額の真ん中に風穴を開けられるのが望みと言うわけだな……いいだろう、その望み叶えてやるッッ!!」 大男は怒りのあまり震える声で低く呻く。次の瞬間ロイに向かって突きつけていた銃の引き金を躊躇することなく引いた。 ガウンッ!と、銃が火を噴く寸前、ハボックがロイの肩を掴んで引き倒す。たった今までロイの頭があった位置を銃弾が走り抜け、戸棚のガラスを撃ち抜いた。 「引き倒すならアイツをやれッ!」 ガラスが割れる音に続いて酒の香りが漂うリビングの床に手を突いてロイが叫ぶ。 「無茶言わんで下さいよ」 げんなりと言うハボックに舌打ちして、ロイは床を蹴るようにして立ち上がると銃を持つ大男に掴みかかった。 「こ、の……ッ!」 自分より二周りは細いロイの、そんな反撃は予想していなかったのだろう。大男はバランスを崩して倒れ込む。喉元目指して蹴り込まれる膝を転がるようにしてよけると、ロイが体勢を整える前にその細い体に手を伸ばした。 「クッ!」 ロイは伸びてきた手を思い切り弾き返す。だが、体勢を崩したままの反撃は思わぬ隙を生んで、大男はその隙を逃さず再びロイを押さえ込もうと襲いかかってきた。 「ッ!!」 その手を必死にかい潜って床を転がるロイの足首を大男が掴む。グイと引かれてロイはとっさにラグを掴んだ。そんな数瞬の攻防の間に他の男達がハボックへと攻撃を仕掛ける。その悉くを難なく弾き返したハボックは、ラグごと引きずられかけているロイを見てやれやれとため息をついた。 「キス一つじゃ割に合わないと思うんスけどね」 そう言ったハボックの空色の瞳が、次の瞬間物騒な光を帯びた。 |
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