| FLARE BLUE 第五十二章 |
| 「ッ?……停電?」 突然灯りが落ちて、ロイは驚いて呟く。停電などと暢気なことを言うのを聞いて、ハボックがため息をついた。 「んなわけねぇっしょ」 「だがいきなり灯りが落ちたんだぞ」 「アンタね……」 ハボックはげんなりとして組み敷いた白い顔を見下ろす。 「アンタ、軍の要職についてんでしょ?襲われた経験ねぇの?」 「ッ?!」 そこまで言われてロイは漸く襲撃される可能性に思い至る。ハボックを押しやるようにして身を起こしたロイは、家の周りに潜む不穏な気配に気づいた。 「まさか奴ら、ここまで来たのか?」 「そんだけ切羽詰まってんでしょ。ママも三日後って言ってたし、アイツらも焦ってんスよ。外で襲うと余計な邪魔が入るし、家ならアンタも油断してると思ったんじゃねぇんスか?」 ハボックは襲撃者達の心理を代弁する。そうすればロイが思い切り顔を顰めた。 「冗談じゃない。ここで襲われたら家が痛むじゃないか。大事な資料だってあるんだぞ。散らかされたり、増してや破かれでもしたらどうしてくれる」 「あのね……」 全く緊張感の欠片もないロイの言い種に、ハボックはがっくりとソファーに両手をつく。やれやれと髪を掻き上げてハボックは言った。 「まあいいっしょ。折角いいところだったのに、邪魔したんスから。その罪は重いって事、思い知らせてやるっスよ」 「言っておくが家を壊したら許さんぞ」 「だーかーらー、やる気を削ぐようなこと言わんで下さいよ。つか、アンタこそついうっかり家を燃やさないようにして下さいよね」 「私がそんな馬鹿なことをするはずがないだろう」 フンと鼻を鳴らしてロイが言う。そんな事を言う間に闇に目が慣れて、二人は用心深く辺りを見回した。 「私が油断していると思っただと?ちょっと油断したくらいで私がやられるとでも言うのか?見くびるのも大概にして欲しいものだな」 「アイツらの敗因はなによりオレがここにいるって知らない事っスね」 「別にお前などいなくともあんな奴ら私一人で十分だがな」 「全く可愛げのない」 自分もいるから心強かろうと思って言った言葉をあっさりと否定されてハボックは顔を顰める。ハボックはふと思いついた考えに顰めた顔を笑みに崩して言った。 「ねぇ、大佐。あんな奴らほっておいて続きしませんか?見せつけるんでもいいや」 「は?何を言ってるんだ?お前は」 「アンタも途中になっちゃって欲求不満っしょ?」 ハボックはそう言うなりロイを押し倒す。不意をつかれて呆気なく倒れたロイの体を再びソファーに押さえ込んだ。 「な……ッ?何を考えてるんだッ、貴様ッ!」 「何って……ナニ?」 ニヤリと笑ってハボックはロイに顔を寄せる。ロイが何か言う前にその唇を塞いだ。 「んっ、んん────ッッ!!」 ロイは圧し掛かってくる男をなんとか押し返そうとする。だが、唇を割って入り込んできた舌が口内を蹂躙し、ハボックの大きな掌が服の上かとはいえ這い回れば、徐々に体から力が抜けていった。 「や……あっ、……やめろッ」 ロイは力なく首を振って訴える。そんなロイの様子にハボックはクスクスと笑って言った。 「色っぽいっスよ、大佐。アイツらも襲撃どころじゃなくなっちゃうじゃねぇんスか?」 「ふざけるなッ、────アッ!」 キュッとボトム越し股間を握られて、ロイは喉を仰け反らせる。何とか逃れようとしてジタバタともがくロイの耳元にハボックがスッと顔を寄せた。 「来るっスよ」 「ッ!」 ハボックが言うのに半瞬遅れて何か重たいものが空を切る音がする。そのなにかが二人の上に振り下ろされる前に、ハボックとロイは転がり落ちるようにソファーから床へと逃れた。 ドオンッ!と何かがソファーに当たる音に続いてメキメキッと嫌な音がする。それがソファーが叩き壊された音だと気づいて、ロイは目を吊り上げた。 「ソファーがッ!」 「オレたちに当たらなくてよかったじゃないっスか」 「ふざけるなッ!特注品だぞッ!赦さんッ!」 ロイは言うなり振り下ろされた金槌の先、それを手にする男に向かって脚を蹴り上げる。ロイの軍靴が男の顎を見事に捉えて、男はもんどり打って吹っ飛んだ。 「ああくそッ!気に入ってたのに!」 ロイは見事に叩き壊されたソファーを見て声を上げる。その体をハボックがグイと引き寄せれば、つい今までロイが立っていたところを太い棍棒が薙いで、その風圧でロイの髪が乱れた。 「ソファーの心配より自分の心配しなさいって」 「余計なお世話だッ!」 相変わらず余裕の笑みを浮かべたままハボックが言う。気がつけばリビングの中には七、八人もの男達がいて二人を取り囲んでいた。 「ブレスレットを返して貰おうか、マスタング大佐」 その中からズイと大男が進み出て唸るように言う。 「今すぐ返せ。さもないとどうなるか────」 「お前達に返すものなどない」 「ッ、なんだとッ!────どうやら痛い目にあわないと判らないらしいな」 「痛い目?そっちの吹っ飛んだ男のようにか?」 言いかけた言葉を遮られてカッとなる大男とまるで動じていないロイの様子に、ハボックは苦笑した。 「ホント気が強いなぁ。まあ────」 と言ったハボックがスッと目を細める。 「そういうとこ、嫌いじゃないっスけどね」 そう言うと同時に床を蹴ったハボックが一番近くにいた男に飛びかかっていった。 |
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