FLARE BLUE  第四十九章


「知ってお前を手に入れたい」
 きっぱりとそう言って真っ直ぐに見つめてくる黒曜石にハボックは目を瞠る。その瞳をじっと見返してハボックは口を開いた。
「手にいれる、か……。ねぇ、大佐。アンタ、オレがどうしてこんな商売やってると思います?」
「こんな商売って……何でも屋の事か?」
「そうっス」
 唐突にそんなことを聞かれてロイは首を傾げる。
「組織に縛られず気楽に商売がしたいから、か?」
「まあそれも外れじゃあないっスけど」
 確かにどんな形にせよ組織に組み込まれて仕事をするのは自分に向いているとは思えない。その意味ではロイの答えは強ち的外れではないが、正解でもなかった。
「じゃあ何故だ?」
 それなら理由はなんだと尋ねるロイに、ハボックはプカリと煙を吐き出して答えた。
「オレを御せる人間がいないからっスよ。オレを含めて────オレは誰の思う通りにもならない」
 そう言うハボックの空色の瞳が月の輝きを弾いて銀色に光る。硬質なガラスのような空色をロイは目を見開いて見つめたが、やがてニッと笑った。
「それなら私がお前を御する最初の人間になろう」
「本気っスか?」
「勿論」
 自信満々の笑みを浮かべるロイにハボックも笑みを浮かべる。
「お手並み拝見と行きましょうかね」
 言いながら煙草を口にするハボックの手からロイは煙を燻らせるそれを奪い取る。奪い取った煙草を口にして吸い込むロイをハボックは意外そうに見つめた。
「さっきは咳き込んでたのに」
「あれはいきなり煙を吹き込まれたからだっ」
 ロイはムッと目を吊り上げてハボックを睨むとピッと煙草を投げ捨てる。パチンと指を弾けば投げ捨てられた煙草がボッと瞬時に灰になるのを見て、ハボックが眉を下げた。
「ひでぇ」
「煩い」
 ピシャリと言ってロイはハボックに手を伸ばす。その金色の睫に縁取られた空色を指先で撫でれば、ハボックがその手を取った。ロイの手を取り真っ直ぐに見つめてくる空色を見返してロイは言った。
「一緒に家に来い」
「へ?なんで?」
「どうせ三日間やることもないだろう?」
「アンタね」
 決めつけて言うロイにハボックは顔を顰める。
「オレの商売、こう見えても結構繁盛してるんスよ?三日間フリーになるならその間に他の仕事を────」
「残念だがそう言う訳にはいかない、お前は私の貸し切りだ。それだけの高い給金は払ってるだろう?」
「────オレを御するってのはそう言う事じゃないと思うんだけどなぁ」
「四の五の言うな。行くぞ」
「はぁい、ご主人様」
 ピシリと言って歩き出すロイを追って足を踏み出したハボックの唇に、面白がるような笑みが浮かんでいた。


「エリーゼちゃん取ってきますんで」
「飲酒運転だぞ」
「あんなの飲んだうちに入りませんって」
「────一応私はイーストシティの治安を守る身なんだがな」
 そう言うロイを哀れむように見て、ハボックは車を取りに行ってしまう。一つため息をついて公園の入口で待っていれば、程なくして車高の低い車が滑るようにロイの前に停まった。
「取り締まるぞ、まったく」
「乗っちまえばアンタも同罪っしょ」
 眉を顰めて助手席のシートに腰を下ろすロイにハボックが言う。ムゥと唇を突き出すロイにクスリと笑ってハボックはアクセルを踏み込んだ。素面の時と全く変わらないハンドル捌きで車を走らせてハボックがロイの家へと車をつけると、ロイは車のドアを開けて言った。
「ガレージに停めて来い────逃げるなよ」
「逃げやしませんけど……。いいの?狼を家に呼び込んで」
 ハボックはニヤリと笑って腕を伸ばすとロイの顎を掬う。驚いたように目を見開いたロイはその手を振り払うと、車を降りてさっさと家の中に入ってしまった。
「オレを御す最初の人間になる、か。────出来るもんならやってみてよ、大佐」
 ロイの背が消えた扉を見つめて、ハボックはポツリと呟いた。


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